2010/05/27

An Efficient Transformation from Benzyl or Allyl Halides to Aryl and Alkenyl Nitriles

Wang Zhou, Jiaojiao Xu, Liangren Zhang and Ning Jiao*
DOI: 10.1021/ol101094u

ニトリルといえば、古典的な変換反応によりアルデヒド、カルボン酸、アミンといった各種官能基へと変換可能なだけでなく、アジドとの環化反応によりカルボン酸等価体として創薬化学の分野で頻用されるテトラゾールへと変換したり、遷移金属への配位子となるなど、さまざまな利用が可能な官能基であり、必然的にその合成方法論は重要となる。

通常、実験室ではシアニドイオンを求核剤としたSn2反応やSnAr反応など、またはアミドの脱水反応などでCNを導入することが多いだろう。本報告はベンジルハライドやアリルハライドといった活性アルキル化剤からニトリルを構築する反応に関するものであり、上述のSn2型よりも1炭素少ないニトリルを合成する方法だ。

著者らは既にハロゲンのないベンジル位に酸化的にアジドの導入と窒素の脱離によるニトリル合成を報告しているが、用いるアジ化ナトリウムと酸化剤の当量が多いこと、基質一般性が低いことが難点であった。この反応の中間体はベンジルアジドであることは明らかとなっていたので、ベンジルハライドを用いた求核置換反応によってアジドを導入すれば用いるアジド源の当量を減じられると考えたようだ。



検討の結果、脱水DCE中でDDQを酸化剤として、求核置換反応終了後に滴下することで収率よくニトリルを得ることができた。この最適条件は様々なアリルハライド、ベンジルハライドに適応可能であった。電子吸引基を有するベンジルハライドでは収率が低い傾向にあるのは、中間体のカチオン安定性によると考えられる。一方でアリルハライドの幾何異性の選択性が塩化物と臭化物で異なる結果を与えていることは、提唱されている反応機構では容易には理解できないように思える。

科学的には既報のトリル基から直接ニトリルを合成する手法の方がおもしろいような気がするが、実用性という面から見ると本方法論のほうが有用だろう。反応機構としても興味深く、生成物も通常アリルハライドなどから置換反応で得る化合物から減炭したものである点がユニークな反応だろう。

2010/05/26

Gold(I)-Catalyzed Enantioselective Synthesis of Functionalized Indenes

Alberto Martínez, Patricia García-García, Dr., Manuel A. Fernández-Rodríguez, Dr., Félix Rodríguez, Dr. , Roberto Sanz, Dr. *
10.1002/anie.201001089

インドールの窒素原子を炭素に変えた骨格、インデンは有機金属化学の分野を始めさまざまな応用先を見る化合物だ。その既存の不斉合成法としては、エノンへの不斉マイケル付加反応を起点とした反応例が存在するものの、この反応を用いると必然的に1位にはメチレンカルボニルが導入されることになる。本報告は金触媒を用いたアルキンの活性化による分子内環化によって5員環を構築しようというものだ。

発想のポイントは以下の通り。適切に配置されたアルキンとアルケンを分子内で環化させる反応は数多くあるが、それらは6-Endo型の環化に限られていることに著者らは気がついた。しかしBaldwin則からすると6-Endo-Dig型も5-Endo-Dig型も許容されるため、これら二つの反応経路を分けるとすれば電子的、立体的な効果だろうという考察に至った著者らは、6-endo型の反応部位とあるアルケン炭素周りを嵩高くすることで、5-Endo型に反応を制御しようと試みた。



実際に種々のソフト金属を用いてアルキンを活性化させて環化を試みたところ、カチオン性金錯体を用いた場合に高収率で望みの5員環を得ることに成功した。また求核種としてアルコールを共存させておくことで、アルコール部位が導入された化合物が得られてくることから反応機構は下記のように推定された。



続いて反応の不斉化を目指して、種々のキラルホスフィン配位子を検討したところBIPHEP誘導体を用いたときに最もよい不斉収率を達成した。そこで種々の基質に対して反応を試みた。注目すべきは共存させるアルコールを変化させることで不斉収率が変動する点で、このことからアルコールの付加、または脱離によるオレフィンの生成過程が不斉導入段階であると推測される。

金は直線上の2座配位型金属であることより、2座配位型配位子を用いた場合にも2分子の金属が必要となる。興味がある点としては、この2つの金原子は協奏的に作用しているのか、独立しているのか、1原子は何も作用していないのかという点だろう。また金属と不斉点は距離的に離れているように感じられる点がもう1つの気になる点だ。

2010/05/24

Directed Lithiation of N-Benzenesulfonyl-3-bromopyrrole

Tsutomu Fukuda, Takeshi Ohta, Ei-ichi Sudo and Masatomo Iwao*
DOI: 10.1021/ol100810c

ピロール環などの複素環は水素結合能を有する芳香族ということもあり、マテリアル、医薬など機能性分子において重要なユニットであり、置換ピロールの合成手法に習熟しておくことは重要だ。ピロール分子は窒素フリーまたはアルキル置換では反応性が高く、容易に自己縮合を繰り返してしまうが、pTs基などで窒素上の不対電子をマスクしてあげることでリチウム化などが容易に進行するようになる。本論文もこのようなN-スルホニル置換ピロールのリチウム化に関する面白い知見を含んだ報告だ。

Nーベンゼンスルホニルー3−ブロモピロールをLDAでリチウム化し、求電子剤を加えたところ、用いる求電子剤の種類により2位と5位の選択性に差が出たことが本論文の発端だ。傾向として、反応性の高い求電子剤(クロロギ酸メチルなど)では2位選択的に、反応性の低い求電子剤(DMFなど)では5位選択的に反応することがわかり、系中での2位と5位リチウムの平衡が考えられた。

そこで、筆者らはNーベンゼンスルホニルー2、4−ジブロモピロールを用いて、まずはnーブチルリチウムで2位をハロゲンーリチウム交換によりリチウム化した後(前述の5位に相当)、ジイソプロピルアミンを用いて処理をした。その後に反応性の高い求電子剤(クロロギ酸メチル)を加えたところ系中にはいなかったはずの5位で反応した化合物(前述の2位に相当)が得られた。



この実験事実から以下の二つが推測された。すなわち、1)臭素の電子吸引性のためにより安定であるC−2リチウム種とC−5リチウム種は3−ブロモピロールを介して平衡状態にある、2)臭素の電子吸引性により反応性の低下したC−2リチウム種では反応性の高い求電子剤としか反応できず、反応性の低い求電子剤とはC−5位で反応する、という推測だ。

論文中のジブロモピロールを用いた実験はうまく設計されていて、科学的におもしろいことに加え、3位臭素を足がかりにして、さらなる変換の可能性を持つことも合成化学的側面からも魅力的である。強いて言えば、条件検討のTable1が2位と5位の脱プロトン化の選択性に拘りすぎてしまっていて、論文全体の構成からすると浮いてしまっている印象を受けた。