2010/07/07

Pd-Catalyzed O-Arylation of Ethyl Acetohydroximate

Thomas J. Maimone and Stephen L. Buchwald*
DOI: 10.1021/ja1044874

各種中間体として有用なO-アリールヒドロキシルアミンは、ヒドロキシルアミンを用いたSnAr反応や銅触媒を用いたヨウ化アリールとオキシムとのカップリング反応などで合成されるが、現在最も汎用性のある方法論は銅塩を用いたホウ酸アリールとN-ヒドロキシフタルイミドとのカップリング反応だ。本報告は、パラジウム触媒を用いた方法論に関するものだ。

ヒドロキシルアミン源としては市販の酢酸エチルオキシム体を用いて、臭化アリールを基質として、各種検討を行った所、著者らの開発したビアリール型配位子を用いた際に反応が素早く進行することを見いだした。本反応では、1)生成物のN-O結合の熱安定性、および2)高温によるN-O結合へのパラジウムの挿入、が危惧されるため、比較的低温での反応が望ましい。そのため配位子による触媒の反応性向上がポイントのようだ。



基質一般性も広く、ヨウ化アリール、臭化アリールはもとより塩化アリールでも反応は進行するが、電子豊富な塩化アリールに関しては現状では厳しいようだ。また各種複素環のうち、活性N-H結合を有する基質への適用も現在の所難しいとのこと。それでも一般的な反応よりも広い基質適応範囲を持っていることは間違いない。

生成物は塩酸を用いて容易にO-アリールヒドロキシルアミンへと変換が可能であり、系中にαプロトンを有するケトンを共存させておくことでベンゾフラン誘導体へと変換が可能となっている。最終的にはこの変換も短時間で良好な収率を与える条件を見いだしているが、論文中には相当の検討を重ねたことを示唆する記述がある。

全体を通して、収率、反応時間など細かい部分まで完成度が高く、さすがBuchwaldと感じさせる論文であった。

2010/07/04

Hypervalent λ3-Bromane Strategy for Baeyer−Villiger Oxidation

asahito Ochiai*, Akira Yoshimura, Kazunori Miyamoto, Satoko Hayashi and Waro Nakanishi*
DOI: 10.1021/ja104330g

Baeyer-Villiger反応は、カルボニル化合物と過酸からアルキル基の転位を経て、エステル(ケトン)やカルボン酸(アルデヒド)を得る反応だ。このアルキル基の転位傾向は明確で、ケトンの場合は想定通りのエステルが得られる。一方でアルデヒドの場合は通常ヒドリドが転位することでカルボン酸を与えるが、o-ヒドロキシベンズアルデヒドではアリール基の転位を経てカテコールを与える(Dakin反応)など基質により反応性が異なり、合成化学的に有用性が低い。本報告では、超原子価臭素を用いた通常とは異なるコンセプトを提示し、アルデヒドを基質とした場合にアルキル基の転位を伴い、ギ酸エステルを優先的に得ることに成功している。

本報告では通常過酸のカルボニル基への付加から始まる反応を、水和から始まる反応機構を考え、その後超原子価臭素との配位子交換反応、生じたCriegee型の中間体からの転位によりBaeyer-Villiger型の反応が起こると考えた。超原子価臭素は対応するヨウ素化合物よりも高い脱離能を有することが知られており、所望の反応が進行することが期待できた。



実際に検討を開始した所、溶媒効果が大きく、ジクロロメタンを溶媒とした場合にアルキル基転位体が高い選択性で得られることを見いだした。mCPBAを用いた古典的条件では100%カルボン酸を与える基質でも、良好な選択性でギ酸エステルを与えた。アリール基の転位に関して、p-CF3のような求電子性の高い置換基を有する場合には2:1程度の選択性にとどまっている。

合成化学的観点から考えると、本反応はBaeyer-Villiger酸化の形式を取っているが、生成物はアルデヒドから減炭したアルコール保護体である。この類似反応として、例えば最初の水和の段階をアンモニアを使った場合には、アミナール構造を経てアミン(ホルムアミド)ができるのかどうかなどは気になる点で、これが可能ならカルボン酸からのCurtius転位の代替反応にもなりえるだろう。

2010/07/03

Enantioselective Oxidative Cross-Coupling Reaction of 3-Indolylmethyl CH Bonds with 1,3-Dicarbonyls

Chang Guo, Jin Song, Shi-Wei Luo, Liu-Zhu Gong, Prof. *
10.1002/anie.201002108

C-H活性化反応の中でも、ハロゲン化など基質の事前活性化を必要としない酸化的カップリング反応は、酸化剤由来の廃棄物が生成するとはいえ、より好ましいプロセスだと考えられている。本報告は3-ベンジルインドールのベンジル位とマロネートなどの1,3-ジカルボニル化合物との触媒的不斉炭素ー炭素結合形成反応に関するものだ。

マロネートを用いた触媒的不斉反応は非常に多くの例が報告されており、著者らもそれらの例を参考に銅(II)-BOX錯体を用いて検討を始めたようだ。定法に従い、マロネートエステル部位、中心金属、配位子置換基、反応温度などを検討し、さらに溶媒に関して細かく最適化を行ったところ収率、不斉収率ともに高い値で目的物を得る条件を見いだすことに成功した。インドールの芳香環上の置換基ではあまり検討されていないが、3位の置換基として酸化条件に弱そうに思えるメチレンジオキシ部位を有するものも高収率で目的物を与えているのが注目点だろうか。



近年オキシインドールを求核剤とした不斉反応が多数報告されているが、本反応の成績体も数ステップを経ることでオキシインドール体へと変換可能だ。この化合物はオキシインドールのシンナム酸エステルへの1,4-付加体に相当するが、このタイプの反応は未だ報告されていないとのことだ。

反応機構としてはいくつかの中間体が考えられるが、インドール窒素から共役したイミニウムカチオン型の活性種に対するキラルエノラートの付加が妥当という結果を計算により得ている。

折角インドールを用いた反応を行っているのに、アプリケーションが全てオキシインドールに関するものなのが少し残念な印象を受けた。