2010/11/18

Oxidative Cleavage of Alkenes Using an In Situ Generated Iodonium Ion with Oxone

Prem P. Thottumkara and Thottumkara K. Vinod*
Org. Lett., DOI:10.1021/ol1023807

オレフィンを酸化的に開裂しアルコール、アルデヒド、カルボン酸などに導く変換は、例えばオレフィンをアルデヒドの保護基として全合成の一部に用いられるなど頻用される変換の一つである。通常これらの変換にはオゾン分解やオスミウムによるジオール化と続く酸化的開裂によることが多いが、オゾンの爆発性やオスミウムの毒性などの問題から代替手法が望まれている。本反応はオキソンを共酸化剤とした超原子価ヨウ素によるものだ。

上述したように本形式の反応は多くの代替法の開発が進められており、その中にPhIOを用いたものがある。著者らはオキソン存在下での水溶性超原子価ヨウ素の研究を行っており、4-ヨウ化安息香酸とオキソンとの反応により生じる超原子価ヨウ素種が、代替法として報告されている活性種と類似の構造になるのではないかという着想から本研究は開始した。まずはオキソンと4-ヨウ化安息香酸をD2O/CD3CN(3/1)中で反応させたところ、原料が完全に消失することを確認した。そこで1-フェニル-1-シクロヘキセンを基質として反応の検討を開始した。オキソンのみではジオールで反応は停止するものの、4-ヨウ化安息香酸を加えることで酸化的開裂が進行した。アルデヒド段階で反応を制御することが難しかったため、オキソンの当量を増やし、収率よく開裂体を得ることができた。さらに収率を損なうことなく4-ヨウ化安息香酸の当量を5mol%にまで減じることができた。


様々なオレフィンに対して反応を試みたところ、フェニル基と共役した基質では速やかに反応が進行するものの、非共役のオレフィンでは反応が遅いことが明らかとなった。このような基質ではヨウ化物を量論量用いることで反応時間を短縮することが可能である。いくつかの対照実験により、cis-ジオールの方が反応が速やかであること、環状基質のほうが反応が速いこと、オレフィンと対応するジオールではほとんど反応速度に差がないこと、などが明らかとなった。これらの事実より、オキソンによるジオール化は速やかに進行し、その後の開裂が律速であること、開裂段階ではベンジル位によるカチオン安定化作用が反応速度に重要な役割を果たしていることがわかる。

著者らはわざわざ4-ヨウ化安息香酸を触媒として用いているにも関わらず、生成物のカルボン酸との分離が困難な基質があるという多少残念な面もあるものの、多数の対照実験を始めとして丁寧な構成の論文であるという印象を受けた。

2010/11/09

Insights into the Finer Issues of Native Chemical Ligation

Dr. Zhongping Tan, Dr. Shiying Shang, Prof. Samuel J. Danishefsky
Angew. Chemie. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201005513

以前の記事でも書いたように、ペプチドの単純なカップリングにおいては1994年のScienceに報告されたチオエステルと末端システインとの、チオエステル交換と続くS-N-アシル転位によるペプチド結合形成反応は大きなブレイクスルーであった。Danishefskyらは近年、この化学を応用することで脱硫後にバリン、リシン、スレオニン側鎖を導入することに成功している。本報告ではロイシンに相当する側鎖を導入している。

基質合成の際にはシステインを基にロイシンに相当する炭素鎖を導入するため不斉点が生じてくる。著者らは両方の立体の基質を合成し、以前彼らが報告しているフェノールエステルをアシル供与体として反応を試みたところ、一方の立体の方が20倍以上も反応性が高いことが明らかとなった。そこで反応性の高い立体を有する基質を用いてアシル供与体側の一般性を検討した所、側鎖が嵩高くなるにつれて収率が低下する傾向にあり、バリンでは50%、プロリンでは21%となっている。それでも双方とも10残基以上のペプチド同士のカップリングであることを考えると、この結果は立派なものだろう。


前述の立体配置と反応性の違いについて著者らは詳しく考察している。一般的にチオエステル交換ーS-Nアシル転位では最初のチオエステル交換が律速であると考えられているが、今回の基質に関してはチオールの求核性は同じと考えられるため、アシル転位の段階が反応性の違いに寄与していると推察している。彼らは不利な立体ではペプチド鎖と側鎖イソプロピル基の立体反発のために、窒素原子からアシル基への求核攻撃が生じる立体配座をとりにくいとしている(上図赤囲み)。またチオエステル交換の段階に関しても、分子内水素移動を考慮すると同様の立体反発が考えられるということだ。さらに有利な立体を有する基質とシステインを比べた場合には4倍程度の反応性の差しか観測されなかったことから、置換基を有する基質ではThorpe-Ingold様効果によって環化(アシル転位)しやすい可能性があると主張している。

本論文の最後ではヒトエリスロポエチンの95から120残基を、システインおよび今回検討したロイシン様基質を用いて合成している。最初のカップリングでのニ量化などの副反応を抑え、61%収率と高い収率で3つのフラグメントを結合し、脱硫によりEPO(95-120)を合成している。
Danishefskyのこれらの化学は方法論としては目新しくないが、一つ一つをきっちりと仕上げてきている印象を受ける。

2010/11/08

A Selective and Convenient Method for the Synthesis of 2-Phenylaminothiazolines

April L. Bernacki*, Lingyang Zhu, and D. David Hennings
Org. Lett., DOI: 10.1021/ol102428m

チアゾリンは生理活性物質によく見られる部分構造であるだけでなく、不斉配位子として頻繁に使われるオキサゾリンの硫黄類縁体であることから、未だ見出されていない用途も考えられる構造だ。2-アミノチアゾリンの合成法としては2-ヒドロキシエチルチオウレアのヒドロキシル基を何らかの脱離基とし、チオウレアから分子内環化を経るのが一般的だろう。しかし硫黄からの環化による目的物の他に、窒素からの環化に由来するイミダゾリンチオンや硫黄原子が脱離基となって形成されるオキサゾリンなど副生成物が問題となることもある。本報告では、CDIを用いてアシルイミダゾールを脱離基とするチアゾリン合成法であり、上述の副生成物生成を最小限に抑えている。

著者らはチオ-CDIを用いて非対称チオウレアを合成しようとした際に、少量ながらチアゾリンが生成することに気がついた。チオ-CDIがチオウレアからチアゾリンへの変換を促進していることを見出したので、その他の活性化剤を検討した所CDIを用いるとさらに効率的にチアゾリンへの変換がおこることを見出した。その他の試薬、例えばDEADでは既報の通り、窒素からの環化と競合しチアゾリンは20%収率にとどまっている。


バリン以外の他のアミノ酸由来の側鎖では、アラニン、フェニルグリシン由来の基質など良好な収率でチアゾリン誘導体を得ている。一方でヒドロキシル基を2級アルコールとた場合には置換基効果が大きく、単純なアルキル基ではチアゾリンは全く得られず、アリール基置換では窒素からカルボニルイミダゾールへの巻き込みも見られるものの目的物優位に反応が進行した。これはチアゾリン合成における反応点がベンジル位にあたり、置換基による活性化を受けていると考えられる。

本論文を読んで興味を持つのが、チオアミドを基質とした場合には反応が進行するのか否かという点と、もし進行するなら2位に不斉点を有する基質を用いた際のラセミ化の有無だろう。というのもペプチド類縁体としてチアゾリンやオキサゾリンを用いた場合にはしばしば2位のラセミ化が問題となり、光延条件やスルホニルクロライドによる環化ではうまくいかないことがある。Burgess試薬による環化ではラセミ化が少ないと報告されているが、試薬の値段等を考えると、もしCDIで代替できるなら有用な合成法になりうると感じる。

参考)
CDI (Aldrich): 100g, ¥22,200
Burgess reagent: 1g, ¥12,500
Burgess reagent(synlett spotlight): 2000, 559.; 2009, 328.