2010/07/16

A Versatile and Stereoselective Synthesis of Functionalized Cyclobutenes

Frédéric Frébault, Dr., Marco Luparia, Dr., Maria Teresa Oliveira, Richard Goddard, Dr., Nuno Maulide, Dr. *
10.1002/anie.201000911

炭素4員環のシクロブタン、およびその誘導体は天然物によく見られる構造であるのに加え、歪みのかかった構造に起因する様々な反応性は有機合成化学、構造化学の面からも興味深い分子群だ。シクロブタノンやシクロブテノンに関しては比較的研究が進められているのに対し、シクロブテンについては二重結合を有することからさらなる合成展開が可能となるなど魅力的な構造であるものの、その合成法の開発は余り進んでいない。

よく知られた方法論として、アセチレンと無水マレイン酸との光環化反応があげられ、その後の非対称化反応も含めてよく研究されている。シクロブテン合成には他にも2-パイロンを原料とした光による異性化反応も知られているが、異性体であるラクトンが不安定で爆発危険性を有するなどの理由から、こちらの分子の反応性については研究が進められていなかった。本報告はこのラクトンを様々な多官能基分子へと変換する方法論に関するものだ。



不安定とされるラクトンであるが、光反応により異性化は定量的に進行し、エーテル溶液として0.1から0.2M程度の溶液として保管することが可能のようだ。この溶液を用いて著者らはパラジウム触媒と、マロン酸エステルのエノラートなど活性カルボニル化合物系統の求核種の組み合わせにより、ラクトンの開環反応を行っている。収率は中程度から良好で、非対称の求核種を用いた場合にはジアステレオ選択性もほぼ完璧とのことだ。

求核種としてアミノ酸由来のアズラクトンを用いた場合には、対応する付加体ではなく、閉環形式の変更されたラクタムが得られている。ベンゾイル基に電子吸引基を導入することで収率、立体選択性を最適化することが可能で、ベンジル基などのかなり大きな置換基もα位に導入可能となっている。

本反応のウリは生成物のさらなる変換によりさまざまな官能基化を行っていることだろう。シクロブテン中の二重結合はオスミウムによるジオール化、メタセシスによる開環、ヨードラクトン化など、収率は必ずしも高くないけれど原料の2-パイロンからたった3段階でおもしろい分子群に到達しているのが非常に興味深い。論文の最後ではTrost型の配位子を用いた速度論分割も行っている。



安定性などに問題があるために、これまで見過ごされてきた分子に光を当てる本論文のような研究は、化学研究の醍醐味の一つなのではないだろうか。

2010/07/12

New Synthesis of 1-Substituted-1H-indazoles via 1,3-Dipolar Cycloaddition of in situ Generated Nitrile Imines and Benzyne

Christian Spiteri, Steve Keeling and John E. Moses
DOI: 10.1021/ol101150t

1H-インダゾールはインドールからの派生骨格として幅広い応用範囲可能性を有しており、例えば創薬化学においては母骨格として使われることもある。合成法としてはo-Me置換アニリンやヒドラジンからの分子内環化反応、ハロアリールを基質としたPdやCuのクロスカップリングを起点とする反応などが一般的だ。一方でベンザインと1,3-双極子の[3+2]環化反応も直接的にインダゾール骨格を与える手法と考えられ、実際にジアゾ酢酸エステルとの反応が報告されている。本報告も、同様にニトリルイミンを1,3-双極子として用いたインダゾール合成方法に関するものだ。

先のジアゾ酢酸エステルを用いる方法論は、温和な条件で生成物を得ることが可能であるが、生成物の置換様式としては1位窒素無置換-3位エステル基置換型のものしか得られない。ニトリルイミンを用いれば異なった置換様式のものも合成可能であるということが本方法論のウリの一つとなる。この反応を考えるにあたって注意する点は、ベンザイン、ニトリルイミンともに反応性が高いために、お互いを適切な濃度で生成させないと各々のダイマー体などが生成するだけに終わる可能性があることだろう。実際にTBAFをベンザイン発生におけるフッ素源、かつニトリルイミン生成のための塩基として用いた所、望みの成績体も得られてきたがニトリルイミンの二量体も得られてきた。種々検討の結果、CsFと18-クラウンエーテルの組み合わせにより、二量体の生成を抑え、短時間で反応が進行することを見いだした。カリウムよりもイオン半径の大きいセシウムを用いた場合でも、クラウンエーテルの効果が如実に現れている点は注目だろう。



基質適応範囲は広いとは言いがたく、インダゾール3位置換基にあたる部位に電子吸引基を有する芳香環がある場合では収率が落ちる傾向にある。その中でもイソオキサゾールやチオフェンなどの複素環でも中程度の収率で生成物を得ている点は評価できる。全体的に基質によって収率がばらつくのは、先にも述べたように5分という短時間で反応が完結してしまう試薬の反応性の高さに由来するのだろう。

「室温5分」という点を著者らはポイントの一つとしているように見受けられるが、スケールアップを考えた際には「室温」も「5分」も好ましい点ではない。内温測定をすればどの程度の発熱があるかはわかるだろうが、本反応でもかなり発熱しているのではないだろうか。収率改善のためには、ベンザイン生成の限界温度とニトリルイミン生成の限界温度を調べた上で、もう少し低温で温度制御することが重要だと思われる。その際に特にニトリルイミンの場合は、置換基次第で条件を変えることになることも考えられる。

2010/07/11

A Biomimetic Approach to C-nor-D-homo-Steroids

Philipp Heretsch, Sebastian Rabe and Athanassios Giannis*
DOI: 10.1021/ja103152k

通常の古典的ステロイド骨格は6-6-6-5員環の骨格で形成されているが、中にはC-nor-D-homo-ステロイドと呼ばれる6-6-5-6員環の骨格を有するものも存在する。これら非古典的ステロイドは数は少ないものの、生理活性が高い化合物が多く、注目を集めており、様々な合成法が報告されている。なかでも古典的ステロイド骨格から炭素骨格の転位を経て形成するのがもっとも自然であり、生合成経路に沿ったものであると考えられている。本報告は既存の方法論では満足のいく結果を得られていない12-βヒドロキシルステロイドを基質とした、生合成経路を模した炭素原子の転位による反応に関するものだ。

12ーβヒドロキシル基を脱離基に変換して転位を起こそうとした場合に、副反応としては単なる脱離によるオレフィンの生成が考えられ、さらに転移後のオレフィンがエンドとエキソオレフィンの2通りが考えられる。著者らは今回エンドオレフィンを得たかったために条件検討の結果、Comins試薬をTf化剤として用い、量論量のDMAPとともにトルエン中で還流させることで副生成物の生成をある程度抑えながらも目的のエンドオレフィンを高収率で得ることができた。本反応の中間体としては通常ではTfO-体が考えられるが、単離生成したTf体を原料とした場合には望みの生成物は得られなかったと本文中に記載があり、単純に思いつく反応機構ではないのかもしれない。



私はステロイド骨格は軽く触ったことがあるだけなのだが、収率/選択性ともに高くはないが、反応条件も一般的であるし、所謂ステロイド骨格を原料としてバイオアッセイ用に数mg単位で合成するなどのを目的には十分使えそうな印象を受けた。