2011/01/18

Visible-light-mediated conversion of alcohols to halides

Chunhui Dai, Jagan M. R. Narayanam & Corey R. J. Stephenson
Nature Chemistry (2011), doi:10.1038/nchem.949

アルコールを対応するハロゲン化物へと変換する反応は、その後の求核置換反応と並んで日常的に用いられる変換だ。しかし、学部教科書に記載のあるような過酷な酸性条件下での置換や、脱離基としてスルホニル化合物を経由する方法、トリフェニルホスフィンを用いるAppel条件など、反応条件の穏和さや環境調和性の面から改善の余地がある。本報告では光反応を用いることで、これらの課題を解決しようというものだ。

Ru(bpy)3錯体は光反応にしばしば用いられる触媒であり、著者らはRu錯体の光励起後にCBr4やCHI3などにより酸化的に不活化されることでハロゲン化反応が進行すると期待した。実際に触媒とCBr4存在下、DMF中で青色LED(435nm)を照射すると室温5時間で、70%収率にて反応が進行した。さらに添加剤としてNaBrを加えると90%にまで収率が向上した。対照実験により、触媒の添加なしでは反応の進行には高温・長時間が必要なことが示されている。


さまざまな官能基を有する各種1級アルコールに対して、収率よく対応する臭化物、ヨウ化物を高収率で得ることに成功している。2級アルコールに関しては、立体的な要因により成否が決まり、嵩高い基質ではホルミルエステルが得られた。この結果は後述の反応機構解析に重要な知見をもたらした。

著者らは各種実験によりイミニウム中間体を経る反応機構を提唱している。まずDMF-d7中での反応を完結前に止めたところ、臭化物に加えて重水素が組み込まれたホルミルエステル体が得られたことから、反応にDMFが関与していることが示唆された。DMF以外の溶媒では反応が進行しない事実もこれを支持する。また別の実験により反応活性種はカルベンではなく、ラジカル種であることを示した。これらの事実から、詳細は依然不明であるものの、DMFとCBr4から生成したイミニウム種を経て、アルコールと反応する機構が提示されている。この反応機構では、キラルアルコールを原料とした場合には光学純度は保たれるはずであるが、実際には光学純度の減少が見られた。eeの時系列変化を追ったところ、徐々にeeが減少することが判明し、生成物が添加剤のNaBrと反応することでラセミ化が起こっていることが示唆された。

本論文は後半部の反応機構解析が素晴らしく、よく練られた対照実験により、一歩一歩事実が積み上げられていく過程が、読んでいて爽快であった。

0 件のコメント:

コメントを投稿