Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201007307
フッ化物イオンによるアリル位置換反応といえば、以前Doyleらによる塩化アリルを基質としたPd触媒/AgFによる系を紹介したが、本論文では[TBAF-(tBuOH)4]をフッ素源としたアリル位置換反応を報告している。Doyleらの例では不斉化が行われているが、本系ではPETへの応用が試みられている。
まずは2-アリールアリルカーボネートをモデル基質として検討を開始した。Pd(dba)2/PPh3/CsFの条件を用いた際に少量ながら目的のフッ素化体が得られた。そこで各種フッ化物源を検討したところ、TBAFを用いると原料が完全に消失し、アリルアルコール体が生成した。そこで無水TBAFとしてtert-BuOH和物を用いたところ、アリルアルコール体はやはり生成するものの、フッ素化体も30%収率で得られた。続いて脱離基の検討を行ったところ、p-ニトロベンゾイルオキシ基の場合にほぼ定量的にフッ素化体が得られることが明らかとなった。

各種基質で検討を行ったところ、2-アリール置換プロペニルのみならず3-アリール置換プロペニル(シンナミル)型の基質でも反応が良好に進行することがわかった。特にシンナミル型のフッ化物は室温でも徐々に分解することが知られており、本系の穏和さが伺える。しかしながら、いずれの基質においてもアリール基によるπ-アリル中間体の安定効果が必要であることが、適応可能基質を狭めている。またジエンが生成しうるような基質では、副反応も少量ではあるが問題となるようだ。論文の最後では本反応が短時間で完結することを活かして、[18F]によるラベル化も行っている。[18F]TBAFを用いたラベル化では脱離基はp-ニトロベンゾイルオキシよりもメチルカーボネートの方が良好な結果を与えるようで、この結果は解釈が難しい。
Doyleらの系では脱離基は塩素原子でフッ化銀との組み合わせが肝であったたため、本系のようなエステルやカーボネート型の脱離基では反応が進行しなかった。そのため二つの系がうまく相補的に働いているとも言える。本系の今後の課題としては、やはりもう少し基質一般性を広げることが一番の課題となるが、これには配位子の検討が近道のように思える。
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