2011/02/26

Ring-Contraction Strategy for γ-Quaternary Acylcyclopentenes

Allen Y. Hong, Dr. Michael R. Krout, Dr. Thomas Jensen, Nathan B. Bennett, Prof. Andrew M. Harned, Prof. Brian M. Stoltz
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201007814

4級炭素構築反応は現代有機化学においても重要な課題の一つであり、特に多様な骨格へと変換可能な多官能基型中間体の製造手法が望まれている。本報告では4級炭素を有するアシルシクロペンテンの合成法に関するもので、複数の反応点を有する骨格の特長を活かして様々な化合物への展開を図っている。

著者らは既にパラジウム触媒を用いた触媒的不斉アリル化反応を報告している。そのアリル成績体に対して、同一の還元条件にふした際のシクロヘキサノン型とシクロヘプタノン型の基質での反応性の差異が本研究の端緒となった。すなわち前者の基質ではβーアルコールが脱水してエノンになるのに対し、後者の基質では脱水体は少量のみでβーヒドロキシケトンが主生成物であった。さらに塩基処理を加えるとレトロアルドール反応、逆側のメチレン基からアルドール反応が起こり、脱水を伴って5員環のアシルシクロペンテンが生成した。この興味深い反応の条件を最適化したところ、水酸化リチウムを塩基、トリフルオロエタノールを添加剤としてTHF中で加熱する条件が最適であった。


7員環上のα位に様々な置換基を有した4級炭素に対して、還元条件によるβーヒドロキシケトンの生成、続く環縮小反応を行った。工程は多いものの収率は総じて良好で、還元条件をLuche条件などの穏和なものへと変えることでシリル基で保護した1級アルコールなども共存可能だ。光学純度に関しては80-90%ee程度の基質が多く、その後の変換で光学純度向上をはかる必要がありそうだ。実際著者らは一例としてセミカルバゾンへと変換して再結晶を行うことで98%eeのサンプルを得ている。β位の置換基は還元剤をグリニャール試薬へと変換することで、アルキル基を導入することも可能だ。この際は生成物がβ-二置換の不飽和環状ケトンになる。

アシルシクロペンテンはハード求核種による1,2-付加、ソフト求核種による1,4-付加、アシル基エノラートからの側鎖伸張、4級炭素上アリル基からの官能基化とさまざまな変換が可能だ。著者らはこのうちの数種の変換を組み合わせて10種程度の多様性に富んだ化合物群を合成している。

生成物のさらなる変換可能性は魅力的だ。アセチル基以外のアシル基も導入できると魅力が増すが、そういう基質が示されていないのは、原料合成の都合か、レトロアルドールの反応性の問題なのかもしれない。化合物の立体的、電子的な特性に沿ったおもしろい反応であるが、シクロペンテン合成としては回りくどい印象も受けるので、どうにか直接合成する方法はないものかと考えてみるのもおもしろいかもしれない。

2011/02/25

2-Pyridyl Sulfoxide: A Versatile and Removable Directing Group

Alfonso García-Rubia, Dr. M. Ángeles Fernández-Ibáñez, Dr. Ramón Gómez Arrayás, Prof. Dr. Juan Carlos Carretero
Chem. Eur. J., DOI: 10.1002/chem.201003633

酸化的Heck反応、Fujiwara-Heck反応はパラジウム触媒によるC-H活性化に続いてオレフィンへの挿入を行う反応で、アトムエコノミーが求められる近年において注目を集めている反応のひとつだ。芳香族C-H結合の活性化において望みの位置で反応を行わせるために、2-ピリジル基やアミド基などの配向基を用いる手法が広く利用されている。しかし、反応生成物の有用性を考えると容易に除去可能な配向基や、様々な官能基へと変換可能な配向基の開発が望ましい。本論文ではこのような配向基として2-ピリジンスルフィニル基の利用を報告している。

著者らはイミン上の保護基として2-ピリジンスルホニル基を導入することで触媒的不斉反応を実現したり、インドールに2-ピリジンスルホニル基を導入することで配向基としてインドールのホモカップリングを報告している。このような化学の発展形として、ピリジンスルホニル基の芳香族上の配向基としての利用を想起するに至った。そこでアクリル酸誘導体との酸化的Heck反応の検討を開始した所、2-ピリジンスルホニル基では反応性が低いものの、酸化段階を落としたスルホキシドおよびスルフィドでは反応性が向上した。スルフィドを用いた場合にはスルホキシドへと酸化されてしまった生成物も得られてきたものの、スルホキシドを配向基とした場合にはスルホンへの酸化は観測されず、Heck成績体が高収率で得られるのみであった。また2-ピリジルをフェニル、メチル、4-ピリジルへと変換すると反応はスルホキシドの酸化が起きるのみであることから、2-ピリジル置換基が配向基として作用していることが示唆された。


本方法論はアクリル酸エステル、ビニルスルホンなどの活性オレフィンのみならず、酸化剤を変える必要があるもののスチレン誘導体にも適応可能だ。芳香環状のメタ位に置換基がある場合は障害のない方のオルト位選択的に反応が進行する。また酸化剤とオレフィンの当量を増やすことで、二置換体を得ることも可能だ。当初の想定通り、2-ピリジンスルフィニル基は酸化条件でスルホンに、還元条件でスルフィドにすることが可能だ。還元条件を選ぶことで、オレフィンの還元を伴いながらスルフィドへと変換することもできる。さらにnBuLiを低温で作用させることで配向基を除去することも可能だ。

全体的にもう少し収率が向上する方が好ましいが、除去可能/変換可能な配向基というコンセプトを示すことには成功している。本条件では酸化的条件でありながら、酸化されやすい硫黄原子を用いてみた点が一つのポイントだろう。

2011/02/19

Rhodium-Catalyzed Enantioselective Addition of Boronic Acids to N-Benzylnicotinate Salts

Christian Nadeau*, Sara Aly, and Kevin Belyk
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja111540g

ピリジニウムイオンへの求核剤の付加は置換ピペリジン合成の有用な方法論である。しかしその触媒的不斉反応は、イソキノリンやキノリンへの付加は多様な求核種が用いられるものの、ピリジニウムイオンへの付加に関してはアルキン、シアニド、ジアルキル亜鉛の付加に限られるのが現状だ。本報告ではキラルロジウム触媒を用いたアリールボロン酸の付加に関するものだ。

臭化ベンジルでピリジニウムイオンとしたニコチン酸エステルに対してロジウム源、配位子、溶媒に関して検討を行った。反応温度は60度にて基質の分解がないことを確認している。120種を超える配位子のスクリーニングから、軸不斉二座配位型リン配位子が良い結果を与えることを見いだした。また塩基の存在は反応の進行に必須であり、溶解性の面からか水を混合溶媒とすることが再現性を得るために重要であった。


さまざまなボロン酸を用いて付加反応を検討した。反応の位置選択性は、全ての反応で、6位:4位が>20:1であった。総じて良好な不斉収率を与えているが、2-MeC6H4-のようなオルト位に置換基を有するものでは少し不斉収率が減少し、電子吸引基を有するものでは収率が減少する傾向が見られる。特にニトロ基置換のものでは収率は23%にまで落ち込んでいる。収率は中程度ながら、本条件はアルケニルボロン酸にも適応可能である。さらに6-メチルニコチン酸エステルを原料とした場合も、6位選択的に付加が起こり、4級炭素構築が可能だ。初期的な結果ではあるものの、BINAPを不斉配位子として中程度の収率、不斉収率で付加体を得ることに成功している。

最初に述べたようにジヒドロピリジンを還元することで多置換ピペリジンとすることができる。本論文でも3,6-cis-ピペリジンを塩化を含めて5段階にて調製している。残念なことに原料が99%eeであるのに対し、得られた多置換ピペリジンは80%eeとなっている。これはPd(OH)2を用いた水素添加条件で、一部オレフィンの異性化が進行してしまっているためだろうと論文中で述べられている。

初期的な検討ながら4級炭素構築反応を試みているところは好感が持てる。当然相当の検討があったと思われるが、高い不斉収率で得られた付加体のeeが進行してしまうのは残念で、さらなる検討が望まれる。また論文中に記載があったキラル配位子のスクリーニングなどはMerckのプロセス研究所ではどの程度自動化されていて、どれ位の時間で終えられるものなのかは興味のある所だ。

2011/02/18

Novel Aerobic Oxidation of Primary Sulfones to Carboxylic Acids

Amy C. Bonaparte, Matthew P. Betush, Bettina M. Panseri, Daniel J. Mastarone, Ryan K. Murphy, and S. Shaun Murphree
Org. Lett., DOI: 10.1021/ol200135m

カルボン酸の合成法としては1級アルコールやアルデヒドの酸化、Grignard試薬の二酸化炭素への付加を始め、様々な方法論が既に知られているが、いまなお新しい合成法の研究が続けられている。本報告ではアルキルスルホンを塩基性条件下、分子酸素を用いてカルボン酸へと合成するというものだ。

著者らは別のプロジェクトの実験でフラン環上のフェニルスルホンをカルボン酸へと変換しようとした際に、既存の方法論では望みの反応が進行しなかったことから条件検討を開始した。その際、ベンジルフェニルスルホンとカリウムtert-ブトキシドを混合させると安息香酸が生成したという報告に着目した。この系では酸化剤は明らかに空気中の酸素であると考えられる。そこで各種塩基(1equiv.)をTHF中で作用させ、酸素雰囲気下で撹拌を継続したものの目的物は得られなかった。アニオンの低反応性が原因だと考えた著者らは、高い反応性で知られるスルホンのジアニオンを利用することとし、塩基を2.5当量用いて反応を行った。すると様々な塩基で反応が進行し、特にKHMDSを用いた場合に最も収率がよかった。また乾燥空気下で反応を行った際も望みのカルボン酸が得られた。


メチルフェニルスルホンのアルキル化により合成した各種基質で反応を行った所、中程度から良好な収率でカルボン酸を得た。反応機構としてはジアニオンの酸素分子への付加、カリウムパーオキシドの分解を経るルートが提唱されている。最後に市販されている13Cで標識されたスルホンを用いて、13C-カルボン酸の合成へと応用している。

あまり目にしないタイプの反応ではあるものの、論文の最後で述べられているようなシアニドからカルボン酸を合成するルートの代替としては、原子効率、収率などの面からもう一つといったところだろう。

2011/02/17

Nucleophilic Fluoromethylation of Aldehydes with Fluorobis(phenylsulfonyl)methane

Xiao Shen, Laijun Zhang, Yanchuan Zhao, Lingui Zhu, Guangyu Li, Prof. Dr. Jinbo Hu
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201006931

フルオロビス(フェニルスルホニル)メタン(FBSM)はフルオロメチル基の導入に用いられ、触媒的不斉反応を含め、様々な反応が報告されている。しかし、FBSMのアルデヒドへの付加は逆反応が優先し、付加体は得られないとされてきた。本報告では低温下、リチウム塩基を用いることでFBSMのアルデヒドへの付加を実現している。本編ではNMR実験と計算化学的手法により、著者らの主張がきれいにサポートされている。

FBSMのベンズアルデヒドへの付加をモデルとして検討を開始した所、LHMDSを塩基としてTHF中で反応を行い、-78度にて塩酸で反応を停止させると27%収率ながら付加体が得られた。-30度での処理では付加体は得られなかったことから、低温でのプロトン化が重要であることがわかる。THF/HMPA混合溶媒では付加体が得られなかったが、トルエンやジクロロメタンなど非配位性の溶媒を用いることで収率が向上した。最終的にはプロトン化を-94度でTFAを用いて行う条件が最適であった。

本条件は各種芳香族アルデヒドのみならず、脂肪族アルデヒドを用いた際にも付加体を収率よく与えることが明らかとなった。また生成物のビススルホニル部位を、一つは脱離基として、一つはスズへの交換の後にStilleカップリングを行うことで、合成化学的な有用性を示している。

本反応はプロトン化における温度が収率に大きく作用することから、著者らは19Fを用いたVT-NMR実験を行って反応を追跡した。-79度にてLHMDSを添加すると、FBSMに相当するピークは速やかに消失し、付加体のアルコキシドに相当するピークがシャープに現れてきた。ここで温度を-49度、-19度、0度、25度と徐々に昇温させていくと、-19度よりも高温ではアルコキシドのピークは消失し、複数の不明瞭なピークが現れた。興味深いことにこのサンプルを再び-79度へとすることで再びアルコキシドに相当するピークに収束した。そのサンプルをTFAを用いて-79度でプロトン化することで、付加体とFBSMに相当するピークが現れた。すなわち、本反応は高温領域では平衡条件下にあり、低温条件にすることで平衡を付加体へと偏らせることが可能となっていることが明らかとなった。
また用いる塩基をNaHMDSやKHMDSに変更すると収率が低下する点、および非配位性溶媒の方が好ましい結果を与えることから、付加後のリチウムアルコキシドの安定性が重要となっているはずだ。

フッ素以外の置換基を有するビススルホニルメタンとして、無置換のものや塩素原子置換のものを本条件で反応を行ってみた所、全く付加体が得られなかった。著者らはDFT計算により、付加後のリチウムアルコキシドがフッ素置換体の場合が最も酸素-リチウム結合の距離が短く、安定であることをその理由として挙げている。しかし、例えば反応が進行するか否かの限界値や、なぜフッ素のみが付加体を与えることに成功しているのかについては不明なままだ。気層におけるギブスエネルギー変化を計算しており、それによるとフッ素の場合のみ-2.3 kcal/molと負の値を示しことから反応が自発的に進みうることが示唆されている。

合成化学的な有用性はもう一歩というところだが、本論文の主要部は後半の反応機構解析だろう。計算による結果のみで解釈を進めて行くことは難しいが、NMR実験の結果は明瞭であり素晴らしい実験結果だと感じた。またLHMDSのような塩基を用いる場合、通常溶媒はTHFを用い、非配位性溶媒を検討する際でもトルエン程度までしか検討しないという先入観があったが、本反応のように特に塩基と反応することなくジクロロメタンを利用可能という点が、個人的には盲点だった。

2011/02/15

Access to High Levels of Molecular Complexity by One-Pot Iridium/Enamine Asymmetric Catalysis

Adrien Quintard, Prof. Dr. Alexandre Alexakis, Dr. Clément Mazet
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201007001

一つの触媒では不可能な変換反応も、複数の触媒が連続的に反応を引き起こすことで可能となる。本報告ではイリジウム触媒によるアリルアルコールのアルデヒドへの異性化と、有機分子触媒による生じたアルデヒドのαー官能基化が段階的におこっている。マッチ/ミスマッチはあるものの、多くの基質でそれぞれの不斉点が触媒制御により構築されている。

著者らはまずCrabtree触媒を用いて3置換アリルアルコールの異性化を進行させた後、Jorsengen型の触媒を用いてビニルスルホンへの1,4-付加を行った。結果は、アルデヒドのα位が完全に制御されることでジアステレオ比が1:1でどちらの異性体も高いeeにて生成物を得た。その後、セリン由来のイリジウム触媒を用いてオレフィン部位の不斉点を制御することで、アルデヒドのα位と並んで高いジアステレオ選択性で反応を制御できた。オレフィンの置換基が極めて嵩高い場合を除くと、アルデヒドα位の不斉は用いる触媒によって高度に制御可能という点がポイントだ。置換基がtert-ブチル基などになるとミスマッチ型の触媒では反応が進行しなくなる。


オレフィンの置換基としては、iPr/Phなどのようにアリール基があると高い選択性が出るようだ。逆の幾何異性での結果も気になる所だが、そのようなデータはない。前述のようにMe/tert-BuやMe/SiMe2Phのような嵩高い置換基を有する基質ではマッチ型のみで反応が進行する。いずれの場合も非常に高い選択性で目的物を得ている。ジアステレオ選択性に関しては用いる求電子剤(ビニルスルホン)の当量を少なめにしていることも関係しており、二段階目の1,4-付加の段階で速度論分割が起こっているために、drが上がっているのだろう。求電子剤としては他にもNFSIやNCS、アゾジカルボン酸エステルなども利用可能で、これらによりフッ素化、クロロ化、アミノ化を非常に高い不斉収率で実現している。

本系で得られるα-置換-β-二置換アルデヒドは冒頭でも述べられているように、MacMillanとJorgensenを中心として2005年位に流行した有機分子触媒によるカスケード型の反応でも得られるタイプの生成物だ。ウリとしては異性化に関する詳細な一般性は不明なものの、カスケード反応における1,4-付加による不斉構築よりもアリルアルコール合成の方が容易という点だろうか。もし本系が段階的ではなく、全て混ぜるだけで進行するようだと非常に魅力的になるのだが、それはなかなか難しそうだ。先日Angew. Chem.のHighlightsにもあったような、NHC触媒とルイス酸を組み合わせる反応のように、今までなかったような触媒の組み合わせを切り開いたという点で本報告の意義があるだろう。

2011/02/10

Palladium-Catalyzed Allylic Fluorination

Charlotte Hollingworth, Dr. Amaruka Hazari, Matthew N. Hopkinson, Dr. Matthew Tredwell, Elena Benedetto, Dr. Mickael Huiban, Prof. Antony D. Gee, Dr. John M. Brown, Prof. Véronique Gouverneur
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201007307

フッ化物イオンによるアリル位置換反応といえば、以前Doyleらによる塩化アリルを基質としたPd触媒/AgFによる系を紹介したが、本論文では[TBAF-(tBuOH)4]をフッ素源としたアリル位置換反応を報告している。Doyleらの例では不斉化が行われているが、本系ではPETへの応用が試みられている。

まずは2-アリールアリルカーボネートをモデル基質として検討を開始した。Pd(dba)2/PPh3/CsFの条件を用いた際に少量ながら目的のフッ素化体が得られた。そこで各種フッ化物源を検討したところ、TBAFを用いると原料が完全に消失し、アリルアルコール体が生成した。そこで無水TBAFとしてtert-BuOH和物を用いたところ、アリルアルコール体はやはり生成するものの、フッ素化体も30%収率で得られた。続いて脱離基の検討を行ったところ、p-ニトロベンゾイルオキシ基の場合にほぼ定量的にフッ素化体が得られることが明らかとなった。


各種基質で検討を行ったところ、2-アリール置換プロペニルのみならず3-アリール置換プロペニル(シンナミル)型の基質でも反応が良好に進行することがわかった。特にシンナミル型のフッ化物は室温でも徐々に分解することが知られており、本系の穏和さが伺える。しかしながら、いずれの基質においてもアリール基によるπ-アリル中間体の安定効果が必要であることが、適応可能基質を狭めている。またジエンが生成しうるような基質では、副反応も少量ではあるが問題となるようだ。論文の最後では本反応が短時間で完結することを活かして、[18F]によるラベル化も行っている。[18F]TBAFを用いたラベル化では脱離基はp-ニトロベンゾイルオキシよりもメチルカーボネートの方が良好な結果を与えるようで、この結果は解釈が難しい。

Doyleらの系では脱離基は塩素原子でフッ化銀との組み合わせが肝であったたため、本系のようなエステルやカーボネート型の脱離基では反応が進行しなかった。そのため二つの系がうまく相補的に働いているとも言える。本系の今後の課題としては、やはりもう少し基質一般性を広げることが一番の課題となるが、これには配位子の検討が近道のように思える。