2010/06/01

An Organocatalytic Asymmetric Nazarov Cyclization

Ashok K. Basak, Naoyuki Shimada, William F. Bow, David A. Vicic and Marcus A. Tius*
DOI: 10.1021/ja103028r

酸性条件下、協奏的環化反応によりシクロペンテノンを合成するNazarov反応は近年再注目を集めている反応だ。既存例の多くは環状システムに組み込まれた基質を用いて、オレフィンの幾何異性を固定化したうえで環化させることが多く、鎖状型の基質では立体選択的に反応を制御する事は難しいとされてきた。本報告では基質をβ-ケトエステル型にすることでエノールへと容易に移行し、かつ幾何異性を制御しやすいような工夫をこらして、これらの問題を克服している。

著者らはさまざまな酸性条件下でαーケトエノンが分子内環化を経てシクロペンテノンを形成する反応を見いだしていた。この反応は分子内マイケル付加とも考えられたけれども、以下の2つの理由により、彼らはNazarov反応型だと考えた。まず第一に5-endo-trig型の分子内環化はBaldwin則で禁制であること。第二に通常なら反応性が低下するような置換基のついたエノラートにおいて反応が促進されることだ。これらのことから、エノン側のカルボニル基を活性化しつつ、ケトン部位をエノールへと互変異させるような機能を有する触媒を用いれば、反応が促進されるだろうと考えた。




なかでもチオウレア型の有機分子触媒に注目して、各種検討を行ったところ反応時間は極めて遅いものの65%収率、90%不斉収率で望みの環化体を得た。注目すべき事にジアステレオマーは観測されなかったことから、デザイン通りにエノールの幾何異性が制御され、環化が進行している事が示唆される。

反応時間が2週間や3週間と極めて長い事に関して、著者らは生成物の触媒阻害が原因であるとしている。生成物が系中で沈殿してくる基質においては、4日程度で80%以上の良好な収率で反応が進行するという事実もこの仮説を支持しているだろう。また触媒作用点と不斉点が遠い点については、著者らは触媒の不斉点が結合の軸不斉へと転写されることで不斉誘起が実現しているのではないかと仮説を述べている。

難しいNazarov反応で良好な不斉誘起を実現した点はすばらしい。反応時間の促進に関しては、ルイス塩基の添加などにより生成物ー触媒の相互作用を解離させるような工夫が必要だろう。

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