Muhammet Uyanik, Hiroaki Okamoto, Takeshi Yasui, Kazuaki Ishihara*
DOI: 10.1126/science.1188217
本ブログでも取りあげた、石原先生らによる超原子価ヨウ素による不斉ラクトン化反応はYahoo!ニュースでも取りあげられるなど記憶に新しい研究成果だった。本報告は先の例をさらに進歩させた内容となっている。
超原子価ヨウ素は反応条件の温和さや金属フリーの反応であることなどから、ますます注目を集めている。爆発危険性と溶解性の低さから必ずしも使いやすいとは言えないのも事実だが、超原子価ヨウ素試薬を触媒量へと低減させることで溶解性に関しては克服可能となる。前報を含む多くの反応例では、共酸化剤としてはmCPBAなどの有機過酸が用いられることが多く、これを環境調和的な過酸化水素で代替できれば魅力的な反応となりうる。
著者らは既存の触媒ではヨウ素原子上が不斉点となるような設計であることに注目した。近年、有機分子触媒の分野ではアキラルなイオンが直接には分子に関与しつつも、近傍に存在するキラルカウンターイオンの効果により不斉が誘起される反応が多数報告されている。これを超原子価ヨウ素の化学に適応してみたのが本論文のコアなアイデアだろう。中でも彼らはアンモニウム塩とヨウ化物イオンの組み合わせに着目し、キラルアンモニウムイオンの骨格としていわゆる丸岡触媒型の分子を選択した。
生成物の合成化学的有用性を考慮して、エステル等価体としてN-フェニルアシルイミダゾールを用いて環化反応を行ったところ、過酸化水素を共酸化剤として高い不斉収率にて生成物を得た。基質によっては無水TBHPの方がよい基質もあるようであるが、多くの場合過酸化水素を利用可能という点は主張してよいだろう。また基質のアシルイミダゾール部位はEvansらもエステル等価体として用いているように、本論文でもエステルへと高収率で変換を行っている。反応機構については系中で生成したアンモニウムhypoioditeまたはアンモニウムioditeが関与しているとの考察をしているが、確証を得るには至っていない。
石原先生は近年、有機合成化学者としては世界でも珍しくScienceやNatureに研究成果を掲載している。以前「チャレンジしてみるのが大事」という趣旨のことを伺ったことがある。普通の有機化学者はよい結果が出るとJACSに投稿しようとは思っても、Scienceなどに出そうとはなかなか思わないものだなと感じたのだった。もちろん優れた結果があることは前提だけれど、アピールの仕方次第では意外とScience/Natureの敷居は低いのかもしれない。
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