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2010/10/03

A Straightforward Route to Functionalized trans-Diels−Alder Motifs

Jun Hee Lee, Yandong Zhang, and Samuel J. Danishefsky*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja1073855

環状ジエノフィルとジエンとのDiels-Alder反応では、通常cisに縮環した化合物が得られる。transに縮環した化合物を得たい場合、Diels-Alder型の反応で直接得ることができれば魅力的であるが、現在の所成功例はない。本報告はcis縮環型の化合物を経た後にtrans体へと変換するというもので、シンプルな発想に思われるが、このようなアプローチは今までなかったとのこと。

著者らは既に、cisに縮環した橋頭位にニトロ基を有する化合物で還元条件により立体反転を伴って水素化を行わせることに成功している。この前例には、1) 水素化以外のアルキル化は立体的な要因で進行しなかった、2) ジエノフィルがニトロシクロアルケンに限定的で生成物が官能基化されていない、3) ジエノフィルの反応性が低い、といった問題を抱えていた。そこで今回注目したのはアルミニウム触媒を用いたα-ブロモシクロへキセノンのDiels-Alder反応だ。これによって官能基化されたcis-デカリン構造を効率よく合成することができた。


得られたcis-デカリン体を用いてまずはBu3SnHを用いた水素化を検討した所、望みのtrans体を主生成物として水素化体を得ることができた。そこで続いてアルキル化の検討を行うこととした。検討の結果、リチウムナフタリドを用いて反応性の高いリチウムエノラートを生成させることが重要だと判明した。ヨウ化メチルをメチル化剤とした場合にはtrans/cis比率がよくて3/1程度だったが、Trostが開発したPhSCH2Iをアルキル化剤とし、反応後にRaney Niで脱硫するプロセスを経ることでtrans体の選択性を7/1~>30/1にまで上昇させることに成功している。6-6のデカリン構造だけでなく、5-6の縮環構造でも成功している点が魅力的だ。得られた生成物の2重結合に関しては、オスミウムによる酸化や、スルフィドの酸化後にPummerer型の反応を行うことでさらなる官能基化を実践している。

Raney Niによる脱硫など多少回りくどい面もあるが、共通原料から様々な構造を作り分けるという観点からは興味深い試みだろう。本報告は既存のDiels-Alder反応では直接構築できない骨格を得ているという点では、以前取りあげたシクロブテノンを用いた反応と類似している。Danishefskyの最近の興味がどのような点にあるのかはわからないが、今後の展開を追っていきたい。

2010/07/31

Cyclobutenone as a Highly Reactive Dienophile: Expanding Upon Diels−Alder Paradigms

Xiaohua Li and Samuel J. Danishefsky*
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP
DOI: 10.1021/ja1056888

反応性向上を期待して環の歪みを利用するという方法は色々な所で用いられており、例えば近年ではSnapperの縮環シクロブテンの化学やBertozziのgem-ジフルオロシクロオクチンを用いた銅触媒フリーの環化などで利用されている。本報告ではシクロブテノンをジエノフィルとしたDiels-Alder反応に関するものだ。

学部の教科書では加熱により容易に進行するかのように描かれているDiels-Alder反応であるが、分子間の純粋に熱的な条件では2つの電子吸引基を有するジエノフィルと環状ジエンとの反応など基質が活性化されている場合でないとかなりの高温を必要とする場合が多い。特にシクロペンテノンやシクロへキセノンなど環状エノンはルイス酸による活性化を経ずにはほとんどDiels-Alder反応は進行しないとのこと。著者らは無置換シクロブテノンに着目し、この歪んだ構造ゆえに高い反応性が期待できるのではないかと考えた。なお著者らは今回シクロブテノンの改良合成法も併せて開発したが、濃縮状態では容易に重合化が進行するためクロロホルム溶液として調製し、反応に用いることにしたとのことだ。

実際に様々なジエンに対する反応を行ってみた所、endo付加体優先的に、低温から45度程度の温和な加熱条件で環化反応が進行することを見いだした。この際、やや反応性の低いジエンを用いる場合には収率向上のために塩化亜鉛による活性化が必要なようだ。シクロブテノンの反応性は、本文中では電子吸引基を2つ有するマレイン酸無水物とほぼ同等と述べられており、歪みによる反応性の底上げが実感できる(注釈によれば計算による解釈を現在行っているとのこと)。



得られた生成物はシクロブタノン骨格を有しており、さらなる変換が可能だ。論文では環拡大反応を行い、シクロペンタノン、γーラクトン、γーラクタムへと変換している。これらをDiels-Alder反応により直接得るためにはジエノフィルとしてブテノライドなどの反応性の低い基質を用いなければならない。そのため、本変換を含む2段階の反応は反応性の低い基質を用いた熱的なDiels-Alder反応の簡便な代替法として実用性が高そうだ。

基質によっては環拡大の際に橋頭位に原子が挿入されるとは限らないようで、検討開始時点で彼らの求めていたような反応に仕上がっているのかは不明であるが、今後の全合成への応用も含めて続報を待ちたいところ。