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2010/11/09

Insights into the Finer Issues of Native Chemical Ligation

Dr. Zhongping Tan, Dr. Shiying Shang, Prof. Samuel J. Danishefsky
Angew. Chemie. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201005513

以前の記事でも書いたように、ペプチドの単純なカップリングにおいては1994年のScienceに報告されたチオエステルと末端システインとの、チオエステル交換と続くS-N-アシル転位によるペプチド結合形成反応は大きなブレイクスルーであった。Danishefskyらは近年、この化学を応用することで脱硫後にバリン、リシン、スレオニン側鎖を導入することに成功している。本報告ではロイシンに相当する側鎖を導入している。

基質合成の際にはシステインを基にロイシンに相当する炭素鎖を導入するため不斉点が生じてくる。著者らは両方の立体の基質を合成し、以前彼らが報告しているフェノールエステルをアシル供与体として反応を試みたところ、一方の立体の方が20倍以上も反応性が高いことが明らかとなった。そこで反応性の高い立体を有する基質を用いてアシル供与体側の一般性を検討した所、側鎖が嵩高くなるにつれて収率が低下する傾向にあり、バリンでは50%、プロリンでは21%となっている。それでも双方とも10残基以上のペプチド同士のカップリングであることを考えると、この結果は立派なものだろう。


前述の立体配置と反応性の違いについて著者らは詳しく考察している。一般的にチオエステル交換ーS-Nアシル転位では最初のチオエステル交換が律速であると考えられているが、今回の基質に関してはチオールの求核性は同じと考えられるため、アシル転位の段階が反応性の違いに寄与していると推察している。彼らは不利な立体ではペプチド鎖と側鎖イソプロピル基の立体反発のために、窒素原子からアシル基への求核攻撃が生じる立体配座をとりにくいとしている(上図赤囲み)。またチオエステル交換の段階に関しても、分子内水素移動を考慮すると同様の立体反発が考えられるということだ。さらに有利な立体を有する基質とシステインを比べた場合には4倍程度の反応性の差しか観測されなかったことから、置換基を有する基質ではThorpe-Ingold様効果によって環化(アシル転位)しやすい可能性があると主張している。

本論文の最後ではヒトエリスロポエチンの95から120残基を、システインおよび今回検討したロイシン様基質を用いて合成している。最初のカップリングでのニ量化などの副反応を抑え、61%収率と高い収率で3つのフラグメントを結合し、脱硫によりEPO(95-120)を合成している。
Danishefskyのこれらの化学は方法論としては目新しくないが、一つ一つをきっちりと仕上げてきている印象を受ける。

2010/10/16

Catalytic Acylation of Amines with Aldehydes or Aldoximes

C. Liana Allen, Simge Davulcu, and Jonathan M. J. Williams*
Org. Lett., DOI: 10.1021/ol101978h

カルボン酸、アミン、縮合剤を混合するアミド結合生成法は、信頼性に優れた方法論であり、ペプチドの化学と共に発達したことからラセミ化を抑える工夫なども行われている。しかし分子量の大きな縮合剤を量論量用いることから、大量の廃棄物が生じてしまうという問題も抱えている。そのため触媒を用いるアミド化反応の開発が近年のホットな話題と一つとなっており、例えばアルデヒドからアミナールの酸化を経てアミドを生成する反応や、オキシムから金属触媒を用いて1級アミドを生成する方法などが開発されてきた。本論文でもニッケル触媒存在下、アルデヒド、ヒドロキシルアミン、アミンを混合し加熱することで、オキシムを経て2級、3級アミドを生成するという反応を報告している。

著者らは既に前述したオキシムからの1級アミド生成反応を報告しており、その中間体としてニトリルを想定していた。また金属触媒を用いたニトリルから2級、3級アミドへの変換反応について文献例があったことから、条件検討によってオキシム→ニトリル→2級/3級アミドという反応が可能だと考えた。オキシムを原料としてベンジルアミン存在下、インジウムやルテニウム触媒を用いると1級アミドが生成するのみであったが、塩化ニッケル6水和物を用いると望みのベンジルアミン由来のアミドが選択的に生成した。検討により5 mol%のニッケル触媒、キシレン中155度に加熱する条件を最適とした。


オキシムとアミンについて一般性を検討した所、1級アミンのみならずモルホリンなどの2級アミンを用いても良好な収率で目的物を得ているが、求核性に劣るアニリン誘導体では反応が進行しないようだ。アルデヒド側も脂肪族では良好な収率を示しているが、芳香族アルデヒドでは多少の反応性低下が見られる。また中間体としてニトリルを経ることを想定しているように、ケトオキシムを原料とすると全く反応が進行しない。一定の一般性が得られたので、続いて系中でオキシムを形成させながらアミドを生成させる反応ついて検討を行っており、この場合も前述の検討を同様に幅広い脂肪族アミン、脂肪族/芳香族アルデヒドを用いることが可能なようだ。

反応機構としてはいくつか考えられるが、著者らはラベル化実験により2分子がニッケル触媒に関与する反応機構を提唱している。得られている実験結果が必ずしも本反応機構だけで説明できるとは言えないが、類似の反応機構は他の著者によっても提唱されていることから速報段階での妥当性は高いと考えられる。

触媒の安価さは魅力的であるが、いざ使おうと考えると(即座にオキシム生成まで行くとは思われるものの)、ヒドロキシルアミンを高温に加熱することに安全面での不安を少し感じてしまう。

2010/08/05

Chemoselective Peptidomimetic Ligation Using Thioacid Peptides and Aziridine Templates

Naila Assem, Aditya Natarajan and Andrei K. Yudin*
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP
DOI: 10.1021/ja104488d

ペプチド化合物が生体内で重要な役割を果たしていることはあらためて述べるまでもない。そのため非天然型アミノ酸を導入したり、α位を4級にするなど構造の一部を化学的に変換することで新たな機能を有する分子を生み出そうという試みが活発に行われている。その一例として、ペプチド結合の一部を還元し2級アミンとしたものがあげられる。この構造はプロテアーゼ阻害剤の構造によく見られると同時に、生理的pHによりアミンがプロトン化され水素結合供与体となることから通常のペプチドとは異なる構造を取ることが知られており興味深い部分構造である。本報告は、このような還元型擬ペプチド構造の合成法に関するものだ。

著者のYudinらはこれまでもアジリジンアルデヒドの特徴的な反応性を活かした化学を展開しており、本論文ではそこにペプチドの化学でよく用いられる硫黄から窒素へのアシル基の移動を絡めたことになる。C末端のチオカルボン酸がアジリジンを求核的に開環することで、システインによるS-アシル体と類似の中間体を実現可能だと考えたのだろう。実際に反応を行った所、アジリジン開環は末端選択的におき、アシル基の転位は5員環を経由して望みのシステイン相当の擬ペプチド体が得られた。また生成物側鎖のチオール基はアジリジン開環には関与しないようだ。



実際に様々なペプチドとアジリジンを用いてカップリングを行っており、一例を除きラセミ化は進行しないようだ。またペプチドのカップリングでは官能基選択的な結合形成が望ましく、一例ではあるがC末端フリーのアジリジンを用いても良好な収率で目的物を得ているのはすばらしい。Raney Niの利用により硫黄原子を除去することで、システイン以外にもアラニンやフェニルアラニンに相当する生成物も合成している。

Direct Arylationに多大な貢献をしたFagnouが若くして亡くなった今、Yudinはカナダ期待の星だと言えるだろう。今後も彼の化学には要注目である。