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2011/01/29

Phosphate mediated biomimetic synthesis of tetrahydroisoquinoline alkaloids

Thomas Pesnot, Markus C. Gershater, John M. Ward and Helen C. Hailes
Chem. Commun., DOI: 10.1039/C0CC05282E

イミンへのFriedel-Crafts型の反応、Pictet-Spengler反応はテトラヒドロイソキノリンを始めとした含窒素環状化合物の合成法として有用な反応だ。通常、インドールやピロールなどの反応性の高い基質では穏和な条件下反応は進行するものの、反応性の劣る芳香環では強酸性条件で加熱する必要があることが多い。一方で、生体内では酵素の触媒により反応は容易にに進行し、例えばnoroclaurine合成酵素はドパミンと4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4-HPAA)を基質としてnorcoclaurineをS体選択的に合成する。このようなベンジルイソキノリンアルカロイドは植物アルカロイドの1つの大きなグループを形成しており、(S)-norcoclaurineも前駆体として種々のアルカロイドへと変換される。しかし、この酵素の基質適応性は低いことが知られており、他の置換様式の基質には使いにくい。本報告ではリン酸バッファーを用いて弱酸性条件下、種々のイソキノリン誘導体を合成するという方法論を記載している。

ドパミンとL-DOPA、グリセルアルデヒドの反応がpH7.4のリン酸バッファー条件で大幅に促進されるという報告があったことから、著者らは同様の反応促進効果がベンジルイソキノリンアルカロイド合成にも期待できるのではないかと考えて検討を開始した。酵素反応と同じく、ドパミン塩酸塩と4-HPAAを基質として検討を開始したところ、KH2PO4、NaH2PO4、UMPなどのバッファーとアセトニトリルの混合溶媒を用いたところpH6、50℃、1時間で反応は7割強進行することを見出した。pHが4以下、および8以上では反応は目的物は得られないことも確認している。


収率に差はあるもののアルデヒドの一般性はそこそこあり、芳香族アルデヒドのみならずアセトアルデヒドでもよい収率で環化体を得ている。一方でアミン側は限定的で、予想通り反応部位のパラ位にOHやNH2などの電子供与基が必要だ。ただしドパミンのジメチルエーテルでも目的物が得られていない点は不思議な気がする。フェネチルアミンのα位やβ位に不斉点を有する基質では目的物はジアステレオ混合物として得られ、立体選択性はあまりない。

著者らはリン酸アニオンがブレンステッド塩基/求核剤として作用する反応機構を提唱している。また著者らは"catalyst"と表記しているが、実際に触媒回転しているのかどうかは不明だ。この示された機構と類似の形式で進行しているならば、うまくやれば不斉化も実現できるかもしれない。

2011/01/09

Tunable stereoselective alkene synthesis with nonstabilized phosphonium ylides

De-Jun Dong, Yuan Li, Jie-Qi Wang and Shi-Kai Tian
Chem. Commun., DOI: 10.1039/C0CC04739B

一般的にWittig反応では速度論支配下ではZ-オレフィンが優先するため、不安定イリドを用いた場合にはZ体が優先的に生成する。一方で不安定イリドからE-オレフィンを得るにはPhLiを用いるSchlosserの変法(β-オキシドイリド法)と言われる方法がある。本報告はアルデヒドをイミンへと変換し、イミン上の置換基を調節することで、不安定イリドを用いてZ/E体をつくりわけるというものだ。

以前このブログでも紹介したように、著者らは既に同様のアプローチにより準安定イリドを用いたZ/Eの作り分けに成功している。そこで同様にスルホニルイミンを用いて、塩基の検討を開始した。ベンズアルデヒド由来のMsイミンに対するWiitig反応では、LDAを用いた場合にはZ:E=92:8とそれなりの選択性で反応が進行し、n-BuLiを塩基とした場合には>99:1のZ選択性で生成物が良好な収率で得られた。続いてスルホニル基上の置換基を検討したところ、2-MeC6H4 (=o-Ts)基置換のスルホニルイミンでは同様にn-BuLiを塩基として<1:99のE選択性で反応が進行した。


各種基質を用いたところ、芳香族イミンだけでなく、脂肪族イミンも含めて、同様の条件で収率よく高い選択性でZ/Eを作り分けることができた。イリドの一般性としてジメチルアミノ基や1級アルコールを有するイリドでも収率、選択性を損なうこと無く反応が進行し、アリルアミンやアリルアルコールを得ることに成功している。

反応機構解析の一貫として、著者らは付加後に生じるベタイン中間体を低温下、HBr処理することでホスホニウム塩として得ている。ここで得られたホスホニウム塩はジアステレオ混合物であり、このジアステレオ比と、ホスホニウム塩を塩基処理することで得られるオレフィンのZ/Eに強い相関があることから、イリドによるジアステレオ選択的な付加が反応の選択性を決定しているとしている。そしてスルホニル基の置換基の大小による付加方向の違いをNewman投影図により説明している。

以前の準安定イリドの系では基質によっては十分な選択性が得られていなかった例もあったが、今回の反応例は同一の置換基を用いて全ての例で高い選択性を得ているのが特筆すべき点だろう。
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参考)
ODOOS-Wittig反応