2010/07/31

Cyclobutenone as a Highly Reactive Dienophile: Expanding Upon Diels−Alder Paradigms

Xiaohua Li and Samuel J. Danishefsky*
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP
DOI: 10.1021/ja1056888

反応性向上を期待して環の歪みを利用するという方法は色々な所で用いられており、例えば近年ではSnapperの縮環シクロブテンの化学やBertozziのgem-ジフルオロシクロオクチンを用いた銅触媒フリーの環化などで利用されている。本報告ではシクロブテノンをジエノフィルとしたDiels-Alder反応に関するものだ。

学部の教科書では加熱により容易に進行するかのように描かれているDiels-Alder反応であるが、分子間の純粋に熱的な条件では2つの電子吸引基を有するジエノフィルと環状ジエンとの反応など基質が活性化されている場合でないとかなりの高温を必要とする場合が多い。特にシクロペンテノンやシクロへキセノンなど環状エノンはルイス酸による活性化を経ずにはほとんどDiels-Alder反応は進行しないとのこと。著者らは無置換シクロブテノンに着目し、この歪んだ構造ゆえに高い反応性が期待できるのではないかと考えた。なお著者らは今回シクロブテノンの改良合成法も併せて開発したが、濃縮状態では容易に重合化が進行するためクロロホルム溶液として調製し、反応に用いることにしたとのことだ。

実際に様々なジエンに対する反応を行ってみた所、endo付加体優先的に、低温から45度程度の温和な加熱条件で環化反応が進行することを見いだした。この際、やや反応性の低いジエンを用いる場合には収率向上のために塩化亜鉛による活性化が必要なようだ。シクロブテノンの反応性は、本文中では電子吸引基を2つ有するマレイン酸無水物とほぼ同等と述べられており、歪みによる反応性の底上げが実感できる(注釈によれば計算による解釈を現在行っているとのこと)。



得られた生成物はシクロブタノン骨格を有しており、さらなる変換が可能だ。論文では環拡大反応を行い、シクロペンタノン、γーラクトン、γーラクタムへと変換している。これらをDiels-Alder反応により直接得るためにはジエノフィルとしてブテノライドなどの反応性の低い基質を用いなければならない。そのため、本変換を含む2段階の反応は反応性の低い基質を用いた熱的なDiels-Alder反応の簡便な代替法として実用性が高そうだ。

基質によっては環拡大の際に橋頭位に原子が挿入されるとは限らないようで、検討開始時点で彼らの求めていたような反応に仕上がっているのかは不明であるが、今後の全合成への応用も含めて続報を待ちたいところ。

2010/07/29

Asymmetric Suzuki Cross-Couplings of Activated Secondary Alkyl Electrophiles

Pamela M. Lundin and Gregory C. Fu*
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP
DOI: 10.1021/ja105148g

本論文はここ1,2年でG.C.Fuが精力的に進めているrac-α-ハロカルボニル化合物を基質とした触媒的不斉カップリング反応に関する報告だ。これまでケトンを基質として根岸、檜山、熊田等のクロスカップリング反応や、金属種としてジルコニウム試薬を使用する反応など様々な例を報告している。今回はインドリルアミドをエステル等価基質とした、アリールホウ素との鈴木カップリング反応を行っている。生成物のインドリルアミドは酸化条件によって、インドールアミドへと変換可能で、生成物のさらなる変換が可能である。

著者らは今までの報告と同様にニッケルを触媒として検討を行っている。以前の報告でも配位子はBOX型とジアミン型と使い分けているように思われるが、今回はジアミン型の配位子を用いている。i-BuOHをプロトン源として用いていることが、収率、不斉収率向上に重要なようだが、作用に関する言及はない。アミド部位はWeinrebアミドや他のアルキルアミド、またエステルなどでも検討しているが収率、不斉収率ともに満足のいく結果を得ていない。



基質としては、αアルキル基はi-Buなどの大きめの置換基からTBS保護されたアルコールを有するものまで幅広く検討されており、収率はどれも良好だが、これら大きめの置換基では多少の不斉収率の低下が見られている。ホウ素上のアリール基も電子吸引基、供与基置換のもの共に非常に高い不斉収率で反応が進行している。また本反応はα位が臭素置換のものでも、塩素置換のものとほぼ同等の結果を得ている。インドリルアミドはかって福山先生が全合成の一コマに用いたこともあることからわかるように、温和な条件で脱離能の高いインドールアミドへと変換可能で、本報告ではこれを加水分解してカルボン酸へと導いている。

これまでの報告と同様にラセミの基質を用いても、単一のエナンチオマーが得られていることから、以前の系でも示唆されているように本反応でもニッケルがラジカルパスを経由して酸化的付加をおこなっていることが示唆される。本論文での新しい知見は、反応の終結前に残存する原料の光学純度を測定した所、低い効率ではあるものの速度論分割が起きていることがわかった点だ。いくつかの対照実験から、酸化的付加前の触媒の基質認識能にわずかながら差があることが示唆されている。臭素置換の基質では酸化的付加のしやすさからか、このような速度論分割が観測されていないこともこの仮説を支持しているだろう。

先日のHoveydaのJACSラッシュもそうだけれど、論文をよほど精査していないと一連の流れを掴みにくい時代になったものです。HighlightやMiniReviewのような記事の需要はますます増えていくんでしょう。

2010/07/26

Carbon Dioxide as the C1 Source for Direct C−H Functionalization of Aromatic Heterocycles

Oleg Vechorkin, Nathalie Hirt and Xile Hu*
Org. Lett., Article ASAP
DOI: 10.1021/ol101450u

以前にAu-NHC錯体によってオキサゾールなどの複素環をCO2を用いてカルボン酸とするという反応を紹介した。本報告では基質はベンゾチアゾールなどのより酸性度の高いものに限られるけれども、炭酸セシウムという塩基のみを用いてCO2との反応によりカルボン酸を得るという反応に関するものだ。

著者らはベンゾチアゾールのC2プロトンのpKaは27(DMSO)なので、LiOtBuなどの塩基で脱プロトン化が可能(tBuOH, pKa=29.4, DMSO)と考え検討を開始した。実際にCO2雰囲気下、DMF中にて反応を行わせることで、LiOtBuだけでなく炭酸セシウムを塩基とした場合にもベンゾチアゾールのカルボキシル化が定量的に進行した。著者らはより温和な条件を好み、その後の検討では炭酸セシウムを用いることとした。また反応条件は125度という高温条件であり、生成物の脱炭酸などの分解反応も5時間で20%ほど進行するとのことで、今後の検討では系中でメチルエステルに変換している。




基質としては冒頭で述べたように複素環の酸性度が肝であり、電子吸引基置換のものが多いのが気になる点だが、置換ベンゾチアゾール/ベンゾオキサゾールに関しては良好な収率で得ている。その他の複素環としては、5-アリールオキサゾールや2-アリールオキサジアゾールも適用可能なようだ。後者の場合、アリール基はメトキシのような電子供与基置換でも良好な収率で反応は進行する。またチアジアゾールを基質とした場合には開環反応が進行してしまうとのこと。

基質一般性などで見劣りするのは否めないが、それは塩基性によるものが大きい。例えばAu-NHC錯体の系で基質としていたチアゾールのpKaは29.4(DMSO)であり、やはり活性化なしに炭酸塩で脱プロトン化するのは厳しいということになるだろう。この反応もLiOtBuを塩基としてもう一度基質一般性を検討すれば、もう少し広い範囲で反応が進行するかもしれないと感じた。

2010/07/24

Facile, Efficient, and Catalyst-Free Electrophilic Aminoalkoxylation of Olefins

Ling Zhou, Chong Kiat Tan, Jing Zhou and Ying-Yeung Yeung*
10.1021/ja104168q

複数の結合を一挙に構築するカスケード(タンデム)型の反応は、単工程で複雑な分子群を得るにあたり魅力的だ。また多成分がワンポットで次々と反応し、生成物を与える反応では単純な原料を用いて複雑な分子を一挙に得られうるが、考えられる多数の反応経路から望みの反応を起こさせるには、反応系の適切な設計と反応条件の検討が必要なことが多い。本論文ではオレフィン、環状エーテル、スルホンアミド、臭素化剤を用いてアルコキシアミドを得る反応を報告している。

著者らはオレフィンと臭素化剤から生じたブロモニウムイオンが環状エーテルにより補足可能だと考え、この際に生じた反応性の高いオキソニウムカチオンを系中に存在する求核種が攻撃することにより多成分型反応が実現可能という着想を得た。NBSを臭素化剤、THFを環状エーテル、求核種として窒素求核剤を用いて検討を開始した所、アルキルアミンやアニリンといった比較的求核性の高い試薬では目的物はほとんど得られなかった。ベンゼンスルホンアミドを用いた場合には収率は78%にまで上昇し、芳香環状の置換基の電子効果を調製し4-Ns-スルホンアミドとすることで最適条件を得た。本文に記載はないものの、低い求核性を有する窒素求核種の方が高い収率で成績体を与えているのは、ブロモニウムイオンへの反応が環状エーテルと窒素求核種との間で競争的だからだろう。また結果論ではあるが、Ns基を用いることで光延反応によるさらなる反応や、チオールを用いた除去など既存の化学が使用可能となるのは大きい。



オレフィンの一般性としては環状オレフィンばかりでなく鎖状型のオレフィン、内部/末端に限らず幅広く用いることが可能のようだ。多置換オレフィンとの反応では、トランス体のMarkovnikov型の生成物が得られている。環状エーテルも5員環に限らずエチレンオキシド、オキセタン、テトラヒドロピランといった他のサイズや、ジオキサンのようなものも用いることが可能となっている。生成物は分子内にさらなる変換の足がかりとなるアルキル臭素原子を有しており、著者らは一つの可能性としてNs基を起点とした閉環反応によりモルホリン合成を行っている。また論文の最後では窒素以外の求核種として酢酸や安息香酸などのカルボン酸を酸素求核種として用いた初期検討の結果を示しており、収率はまだまだ低いもののさらなる可能性を感じさせるデータだ。

実は本論文のToCを最初に見た時は、環状エーテルが3員環エポキシドであったこともあり、アミンがエポキシドへ求核攻撃し、立ち上がったアルコキシドがブロモニウムイオンへと反応する形式の報告だと思った。環状ポリエーテルの生合成カスケードのような反応を分子間で行っているのだと思ったのだ。上述したように、この環状エーテルは色々な大きさの環が使用可能である。どの程度のサイズまで使用可能かは酸素原子の不対電子が張り出た方向と、生じたオキソニウムイオンをSn2形式で開環できるような配座を取りうるかにかかっているだろう。もしもっと大きな環状エーテルを利用できれば、その後の変換ではこれまで10員環以上の大員環を閉環してきた実績のあるNs基であるから、生成物の閉環には6員環のモルホリン以上の大きさも合成可能ではないかなあと感じた。

2010/07/22

A New Combined Source of “CN” from N,N-Dimethylformamide and Ammonia

Jinho Kim and Sukbok Chang*
10.1021/ja104917t

ニトリル基は種々の官能基に変換可能であり合成化学的に有用性が高い。ベンゾニトリル誘導体の合成では、アニリン窒素などを起点としたSandmeyer反応やハロゲンを足がかりとする芳香族求核置換反応やカップリング反応、最近ではC-H活性化を経るカップリング反応などによりニトリル基を導入するのが通例だ。この際のニトリル基は金属シアニドやアセトンシアノヒドリンに由来するものがほとんどだ。本報告は、ベンゾニトリル誘導体の合成に際し、ニトリル源をDMFとアンモニアから生成させるというものだ。

本研究の発端は、2−ピリジルアレンを基質としてアンモニアを窒素源とした芳香族アミノ化反応を検討していた際にDMF溶媒中で反応を行っていた所、望みのアニリン誘導体ではなくベンゾニトリル誘導体が得られてきたことから始まった。反応条件としては酸素雰囲気下、DMFを溶媒として触媒量の酢酸パラジウム、量論量の臭化銅(II)を用いる条件が最適と判明した。さらに条件を検討した所以下の事実が明らかとなった。すなわち、1)銅塩は量論量必要、2)酸素が必要、3)ニトリルの窒素はアンモニアに由来、4)ニトリルの炭素はDMFのN-メチル基に由来、という事実が明らかとなり、これにより詳細は不明なものの反応機構としては銅と酸素による一電子酸化を経ることが示唆された。またパラジウムの挿入段階で速度論的同位体効果が観測されている。



本条件の一般性としては配向基はピリジンまたはピリミジンと6員環窒素に限定されており、さらに芳香環上の置換基に電子吸引基が入ると収率が下がることから、一般性はさほど高くない。注目すべきは、ラベル化されたアンモニアとDMFを用いることでニトリルの炭素、窒素ともにラベル化された生成物を合成することに成功している点だろう。彼らによればこのようなニトリル合成の初の例ということだ。

詳細なメカニズムが不明であり、系中で生じるシアニドがCuCNなのかHCNなのかもよくわからないが、いずれにせよ同位体効果が見られていることからシアニド発生までは早いと考えられる。通常NaCNなどのシアニド含有化合物は法的にも安全性の面からも取り扱いが厄介であるので、本反応のような手法が芳香族シアノ化以外でも利用可能なら便利かもしれない。

2010/07/17

Stereoselective Synthesis of Tertiary Ethers through Geometric Control of Highly Substituted Oxocarbenium Ions

Lei Liu, Paul E. Floreancig, Prof. Dr. *
10.1002/anie.201002281

炭素と水素の大きさを区別するのは容易だが、炭素鎖と炭素鎖の大きさを区別するのは難しい。これがアルデヒドへの付加と比べてケトンへの付加において立体選択性を出すのが難しい要因だ。同様にオキソカルベニウムイオン中間体も1,1-二置換体となると幾何異性の制御が難しくなり、結果として得られるエーテルの選択性低下につながる。本報告ではこのような1,1-二置換オキソカルベニウムイオンの幾何配向について調べ、分子内環化反応により立体選択的な3級エーテル合成へと応用している。

研究の発端は著者らの実験において、通常はE-体のオキソカルベニウムイオンを取るはずのモノ置換体が、置換基がアルキニル基の場合には、約1:1の割合に由来する生成物を得たことに起因する。このことから二置換のイオン中間においてもアルキニル基を有する基質ならば幾何異性の制御が可能なのではないかと考えたようだ。



DDQにより生成させたカルベニウムイオン中間体を分子内で6員環遷移状態を経て補足するような基質をデザインして、実際の検討を行った。メチル基と比べると、アルキニル基はより小さい置換基にあたり、アルケニル基やアリール基はより大きい置換基にあたることがわかった。またオキソニウム根本の立体配置は生成物の立体配置に無関係であることが、想定通りの中間体としてオキソカルベニウムイオンが生成していることを示唆している。他に著者らは、モノ置換オキソニウムに対する求核側のリンカーの立体配置との関係も検討している。さらに条件は多少異なり、収率も不満が残るが、分子間反応への可能性についても初期的な知見を得ている。

本報告の結果は、著者らの全合成研究の結果から得たものだと思われ、彼らの興味はこれを複雑な分子の合成へと応用することにあるようだ。しかし反応開発という側面から見ると、この中間体を酸化条件に耐える炭素求核種などで分子間で補足できれば魅力的な反応になりそうに思える。また山本尚先生の嵩高いアルミニウム錯体によるアセタールの選択的開環など、オキソニウムの試薬による制御はよく研究されているので、本報告で見られたような選択性が逆転するような酸化剤や反応条件を見いだせたらおもしろい。

2010/07/16

A Versatile and Stereoselective Synthesis of Functionalized Cyclobutenes

Frédéric Frébault, Dr., Marco Luparia, Dr., Maria Teresa Oliveira, Richard Goddard, Dr., Nuno Maulide, Dr. *
10.1002/anie.201000911

炭素4員環のシクロブタン、およびその誘導体は天然物によく見られる構造であるのに加え、歪みのかかった構造に起因する様々な反応性は有機合成化学、構造化学の面からも興味深い分子群だ。シクロブタノンやシクロブテノンに関しては比較的研究が進められているのに対し、シクロブテンについては二重結合を有することからさらなる合成展開が可能となるなど魅力的な構造であるものの、その合成法の開発は余り進んでいない。

よく知られた方法論として、アセチレンと無水マレイン酸との光環化反応があげられ、その後の非対称化反応も含めてよく研究されている。シクロブテン合成には他にも2-パイロンを原料とした光による異性化反応も知られているが、異性体であるラクトンが不安定で爆発危険性を有するなどの理由から、こちらの分子の反応性については研究が進められていなかった。本報告はこのラクトンを様々な多官能基分子へと変換する方法論に関するものだ。



不安定とされるラクトンであるが、光反応により異性化は定量的に進行し、エーテル溶液として0.1から0.2M程度の溶液として保管することが可能のようだ。この溶液を用いて著者らはパラジウム触媒と、マロン酸エステルのエノラートなど活性カルボニル化合物系統の求核種の組み合わせにより、ラクトンの開環反応を行っている。収率は中程度から良好で、非対称の求核種を用いた場合にはジアステレオ選択性もほぼ完璧とのことだ。

求核種としてアミノ酸由来のアズラクトンを用いた場合には、対応する付加体ではなく、閉環形式の変更されたラクタムが得られている。ベンゾイル基に電子吸引基を導入することで収率、立体選択性を最適化することが可能で、ベンジル基などのかなり大きな置換基もα位に導入可能となっている。

本反応のウリは生成物のさらなる変換によりさまざまな官能基化を行っていることだろう。シクロブテン中の二重結合はオスミウムによるジオール化、メタセシスによる開環、ヨードラクトン化など、収率は必ずしも高くないけれど原料の2-パイロンからたった3段階でおもしろい分子群に到達しているのが非常に興味深い。論文の最後ではTrost型の配位子を用いた速度論分割も行っている。



安定性などに問題があるために、これまで見過ごされてきた分子に光を当てる本論文のような研究は、化学研究の醍醐味の一つなのではないだろうか。

2010/07/12

New Synthesis of 1-Substituted-1H-indazoles via 1,3-Dipolar Cycloaddition of in situ Generated Nitrile Imines and Benzyne

Christian Spiteri, Steve Keeling and John E. Moses
DOI: 10.1021/ol101150t

1H-インダゾールはインドールからの派生骨格として幅広い応用範囲可能性を有しており、例えば創薬化学においては母骨格として使われることもある。合成法としてはo-Me置換アニリンやヒドラジンからの分子内環化反応、ハロアリールを基質としたPdやCuのクロスカップリングを起点とする反応などが一般的だ。一方でベンザインと1,3-双極子の[3+2]環化反応も直接的にインダゾール骨格を与える手法と考えられ、実際にジアゾ酢酸エステルとの反応が報告されている。本報告も、同様にニトリルイミンを1,3-双極子として用いたインダゾール合成方法に関するものだ。

先のジアゾ酢酸エステルを用いる方法論は、温和な条件で生成物を得ることが可能であるが、生成物の置換様式としては1位窒素無置換-3位エステル基置換型のものしか得られない。ニトリルイミンを用いれば異なった置換様式のものも合成可能であるということが本方法論のウリの一つとなる。この反応を考えるにあたって注意する点は、ベンザイン、ニトリルイミンともに反応性が高いために、お互いを適切な濃度で生成させないと各々のダイマー体などが生成するだけに終わる可能性があることだろう。実際にTBAFをベンザイン発生におけるフッ素源、かつニトリルイミン生成のための塩基として用いた所、望みの成績体も得られてきたがニトリルイミンの二量体も得られてきた。種々検討の結果、CsFと18-クラウンエーテルの組み合わせにより、二量体の生成を抑え、短時間で反応が進行することを見いだした。カリウムよりもイオン半径の大きいセシウムを用いた場合でも、クラウンエーテルの効果が如実に現れている点は注目だろう。



基質適応範囲は広いとは言いがたく、インダゾール3位置換基にあたる部位に電子吸引基を有する芳香環がある場合では収率が落ちる傾向にある。その中でもイソオキサゾールやチオフェンなどの複素環でも中程度の収率で生成物を得ている点は評価できる。全体的に基質によって収率がばらつくのは、先にも述べたように5分という短時間で反応が完結してしまう試薬の反応性の高さに由来するのだろう。

「室温5分」という点を著者らはポイントの一つとしているように見受けられるが、スケールアップを考えた際には「室温」も「5分」も好ましい点ではない。内温測定をすればどの程度の発熱があるかはわかるだろうが、本反応でもかなり発熱しているのではないだろうか。収率改善のためには、ベンザイン生成の限界温度とニトリルイミン生成の限界温度を調べた上で、もう少し低温で温度制御することが重要だと思われる。その際に特にニトリルイミンの場合は、置換基次第で条件を変えることになることも考えられる。

2010/07/11

A Biomimetic Approach to C-nor-D-homo-Steroids

Philipp Heretsch, Sebastian Rabe and Athanassios Giannis*
DOI: 10.1021/ja103152k

通常の古典的ステロイド骨格は6-6-6-5員環の骨格で形成されているが、中にはC-nor-D-homo-ステロイドと呼ばれる6-6-5-6員環の骨格を有するものも存在する。これら非古典的ステロイドは数は少ないものの、生理活性が高い化合物が多く、注目を集めており、様々な合成法が報告されている。なかでも古典的ステロイド骨格から炭素骨格の転位を経て形成するのがもっとも自然であり、生合成経路に沿ったものであると考えられている。本報告は既存の方法論では満足のいく結果を得られていない12-βヒドロキシルステロイドを基質とした、生合成経路を模した炭素原子の転位による反応に関するものだ。

12ーβヒドロキシル基を脱離基に変換して転位を起こそうとした場合に、副反応としては単なる脱離によるオレフィンの生成が考えられ、さらに転移後のオレフィンがエンドとエキソオレフィンの2通りが考えられる。著者らは今回エンドオレフィンを得たかったために条件検討の結果、Comins試薬をTf化剤として用い、量論量のDMAPとともにトルエン中で還流させることで副生成物の生成をある程度抑えながらも目的のエンドオレフィンを高収率で得ることができた。本反応の中間体としては通常ではTfO-体が考えられるが、単離生成したTf体を原料とした場合には望みの生成物は得られなかったと本文中に記載があり、単純に思いつく反応機構ではないのかもしれない。



私はステロイド骨格は軽く触ったことがあるだけなのだが、収率/選択性ともに高くはないが、反応条件も一般的であるし、所謂ステロイド骨格を原料としてバイオアッセイ用に数mg単位で合成するなどのを目的には十分使えそうな印象を受けた。

2010/07/07

Pd-Catalyzed O-Arylation of Ethyl Acetohydroximate

Thomas J. Maimone and Stephen L. Buchwald*
DOI: 10.1021/ja1044874

各種中間体として有用なO-アリールヒドロキシルアミンは、ヒドロキシルアミンを用いたSnAr反応や銅触媒を用いたヨウ化アリールとオキシムとのカップリング反応などで合成されるが、現在最も汎用性のある方法論は銅塩を用いたホウ酸アリールとN-ヒドロキシフタルイミドとのカップリング反応だ。本報告は、パラジウム触媒を用いた方法論に関するものだ。

ヒドロキシルアミン源としては市販の酢酸エチルオキシム体を用いて、臭化アリールを基質として、各種検討を行った所、著者らの開発したビアリール型配位子を用いた際に反応が素早く進行することを見いだした。本反応では、1)生成物のN-O結合の熱安定性、および2)高温によるN-O結合へのパラジウムの挿入、が危惧されるため、比較的低温での反応が望ましい。そのため配位子による触媒の反応性向上がポイントのようだ。



基質一般性も広く、ヨウ化アリール、臭化アリールはもとより塩化アリールでも反応は進行するが、電子豊富な塩化アリールに関しては現状では厳しいようだ。また各種複素環のうち、活性N-H結合を有する基質への適用も現在の所難しいとのこと。それでも一般的な反応よりも広い基質適応範囲を持っていることは間違いない。

生成物は塩酸を用いて容易にO-アリールヒドロキシルアミンへと変換が可能であり、系中にαプロトンを有するケトンを共存させておくことでベンゾフラン誘導体へと変換が可能となっている。最終的にはこの変換も短時間で良好な収率を与える条件を見いだしているが、論文中には相当の検討を重ねたことを示唆する記述がある。

全体を通して、収率、反応時間など細かい部分まで完成度が高く、さすがBuchwaldと感じさせる論文であった。

2010/07/04

Hypervalent λ3-Bromane Strategy for Baeyer−Villiger Oxidation

asahito Ochiai*, Akira Yoshimura, Kazunori Miyamoto, Satoko Hayashi and Waro Nakanishi*
DOI: 10.1021/ja104330g

Baeyer-Villiger反応は、カルボニル化合物と過酸からアルキル基の転位を経て、エステル(ケトン)やカルボン酸(アルデヒド)を得る反応だ。このアルキル基の転位傾向は明確で、ケトンの場合は想定通りのエステルが得られる。一方でアルデヒドの場合は通常ヒドリドが転位することでカルボン酸を与えるが、o-ヒドロキシベンズアルデヒドではアリール基の転位を経てカテコールを与える(Dakin反応)など基質により反応性が異なり、合成化学的に有用性が低い。本報告では、超原子価臭素を用いた通常とは異なるコンセプトを提示し、アルデヒドを基質とした場合にアルキル基の転位を伴い、ギ酸エステルを優先的に得ることに成功している。

本報告では通常過酸のカルボニル基への付加から始まる反応を、水和から始まる反応機構を考え、その後超原子価臭素との配位子交換反応、生じたCriegee型の中間体からの転位によりBaeyer-Villiger型の反応が起こると考えた。超原子価臭素は対応するヨウ素化合物よりも高い脱離能を有することが知られており、所望の反応が進行することが期待できた。



実際に検討を開始した所、溶媒効果が大きく、ジクロロメタンを溶媒とした場合にアルキル基転位体が高い選択性で得られることを見いだした。mCPBAを用いた古典的条件では100%カルボン酸を与える基質でも、良好な選択性でギ酸エステルを与えた。アリール基の転位に関して、p-CF3のような求電子性の高い置換基を有する場合には2:1程度の選択性にとどまっている。

合成化学的観点から考えると、本反応はBaeyer-Villiger酸化の形式を取っているが、生成物はアルデヒドから減炭したアルコール保護体である。この類似反応として、例えば最初の水和の段階をアンモニアを使った場合には、アミナール構造を経てアミン(ホルムアミド)ができるのかどうかなどは気になる点で、これが可能ならカルボン酸からのCurtius転位の代替反応にもなりえるだろう。

2010/07/03

Enantioselective Oxidative Cross-Coupling Reaction of 3-Indolylmethyl CH Bonds with 1,3-Dicarbonyls

Chang Guo, Jin Song, Shi-Wei Luo, Liu-Zhu Gong, Prof. *
10.1002/anie.201002108

C-H活性化反応の中でも、ハロゲン化など基質の事前活性化を必要としない酸化的カップリング反応は、酸化剤由来の廃棄物が生成するとはいえ、より好ましいプロセスだと考えられている。本報告は3-ベンジルインドールのベンジル位とマロネートなどの1,3-ジカルボニル化合物との触媒的不斉炭素ー炭素結合形成反応に関するものだ。

マロネートを用いた触媒的不斉反応は非常に多くの例が報告されており、著者らもそれらの例を参考に銅(II)-BOX錯体を用いて検討を始めたようだ。定法に従い、マロネートエステル部位、中心金属、配位子置換基、反応温度などを検討し、さらに溶媒に関して細かく最適化を行ったところ収率、不斉収率ともに高い値で目的物を得る条件を見いだすことに成功した。インドールの芳香環上の置換基ではあまり検討されていないが、3位の置換基として酸化条件に弱そうに思えるメチレンジオキシ部位を有するものも高収率で目的物を与えているのが注目点だろうか。



近年オキシインドールを求核剤とした不斉反応が多数報告されているが、本反応の成績体も数ステップを経ることでオキシインドール体へと変換可能だ。この化合物はオキシインドールのシンナム酸エステルへの1,4-付加体に相当するが、このタイプの反応は未だ報告されていないとのことだ。

反応機構としてはいくつかの中間体が考えられるが、インドール窒素から共役したイミニウムカチオン型の活性種に対するキラルエノラートの付加が妥当という結果を計算により得ている。

折角インドールを用いた反応を行っているのに、アプリケーションが全てオキシインドールに関するものなのが少し残念な印象を受けた。