2010/03/31

Cooperative N-Heterocyclic Carbene/Lewis Acid Catalysis for Highly Stereoselective Annulation Reactions with Homoenolates

Benoit Cardinal-David, Dustin E. A. Raup and Karl A. Scheidt*
DOI: 10.1021/ja910666n

カルボニル基の根元は本来求電子的であるが、そこを求核的な反応を行うように変換させることを極性転換という。たとえばアルデヒドに対応するジチアンは、カルボニル炭素に由来する炭素原子が求核的になる。
NHC触媒を用いたStetter反応を始めとする極性転換の化学はRovisやBodeらの研究が最近では有名だろう。本論文はこれらの流れを引き継ぎつつ、NHC触媒とルイス酸を組み合わせたらどうなるかという考え方をポイントに組み立てられている。

ターゲット反応はシンナムアルデヒドとチャルコンを用いたシクロペンテンの合成に定めている。種々検討の結果、ルイス酸として金属アルコキシド、特にTi(OiPr)4が最適で、触媒回転を促進させるためにプロトン源としてイソプロパノールを添加している。
最適条件下、種々α,βー不飽和アルデヒド、チャルコン誘導体について反応を行っているが、βー芳香族置換アルデヒドにおいては良好な収率、極めて高いeeで目的物を得ている。チャルコン誘導体は電子吸引基を有する基質が多く、電子供与基を有する基質では収率が中程度に落ち込むようだが、いずれの場合においても不斉収率は極めて高い。



さて本論文のもう一つのポイントは不斉源のスイッチだ。つまり上述の触媒系ではキラルNHCとアキラルルイス酸の組み合わせにより不斉誘起を起こしていた。しかし、想定遷移状態を考えるに、アキラルNHCとキラルルイス酸でも不斉誘起が可能なはず、と著者らは考え実際に中程度ながら不斉誘起に成功している。



NHCの極性転換は既に多くの報告があるけれども、このように組み合わせの妙によって新たな展開が感じられるとおもしろい。NHCはリガンドとしても頻用されているわけで、あえて金属と併用したところがポイントだろう。

2010/03/30

Direct, One-pot Sequential Reductive Alkylation of Lactams/Amides

Kai-Jiong Xiao, Jie-Min Luo, Ke-Yin Ye, Yu Wang, Pei-Qiang Huang, Prof. *
10.1002/anie.201000652

アミドは対応するエステルなどと比べると反応性が低いために、カルボニル上での置換反応を起こしたいなら一旦イミドに変換して活性化したり、アミンへ還元するならLiAlH4でTHF還流条件など、通常他の官能基へ変換する足がかりとするには不便な官能基だ。
本論文はTf2Oを用いて活性化させることで、カルボニル酸素を求核種で置換しようという論文である。アミドのルイス塩基性の強さを利用したアプローチであり、チオアミドをアルキルハライドで活性化する様式のアナロジーだと考えるとわかりやすい。

メカニズムはカルボニル酸素がOTfとなって活性化されるとともにアミド窒素がイミニウムカチオンとなる。ここにグリニャール試薬が求核種として付加し、N,O-アセタールとなった化合物は余剰のグリニャール試薬のルイス酸性により再びイミニウムとなりもう一つの求核種が付加するというものだ。
本論文の売りは、この二つ目の求核種はグリニャール試薬以外にもリチウム試薬やエノラートイオンを適応可能であるという点だろう。これによって小さな分子中に複数の官能基が適度に配置された魅力的な分子群が合成可能になる。



コンセプト自体は斬新ではないものの、こういった反応をきっちりと抑えていくのも大事だなと思うこのごろ。改善点としてはN,O-アセタール後の脱離に二当量の金属試薬を必要としている点と、グリニャール付加は室温で行うにも関わらずTf2Oによる活性化は-78℃という低温が必要な点で反応操作が煩雑になる点と試薬自体の扱いやすさが低い点だろうか。
積極的に別のルイス酸を添加することで、TfO-よりもマイルドに活性化できる可能性はあるような気がする。

2010/03/29

A Highly Tunable Stereoselective Olefination of Semistabilized Triphenylphosphonium Ylides

De-Jun Dong, Hai-Hua Li and Shi-Kai Tian
DOI: 10.1021/ja910238f

Wittig反応はカルボニル化合物からオレフィンを合成する基本的な反応の一つである。アルキル基などを有する不安定イリドでは速度論的にZ-アルケンが、エステル基などを有する安定イリドではE-アルケンを生成することが知られているが、アリールやビニル基を有する準安定イリドでは生成物の幾何異性が混じることが知られいる。
この課題に対して、イリドリン原子上の置換基をフェニル基から他の置換基へ変更するアプローチが様々取られてきたが、現在のところ満足のゆく成果には至っていない。本論文では発想を転換し、求電子側であるカルボニル化合物を対応するイミンへと変更し、イミン上の置換基を調節することで選択性向上を達成している。

通常のWittig反応との類似性から、4員環のアザフォスフェタンの構造と生成するアルケンの幾何異性には相関があると考えられ、イミンの反応性を向上させるために電子吸引基を導入する方向で著者らは検討を開始した。実際には種々スルホニル基を検討し、多くの場合においてTs基がZ選択的に生成物を得られることを見いだした。興味深いことにn-ヘキサデカンスルホニル基を用いた場合にはE選択的に生成物が得られており、立体的/電子的に微妙なチューニングが選択性に効いてきていることがわかる。そのため、必要な置換基の傾向は同様であるものの、基質によってはZ/E-選択的反応に最適な置換基が変わってしまうようだ。



昔、魚住先生のインタビューで「学部レベルの教科書からテーマを探す」という言葉を読んだ記憶があるが、まさに本論文のコンセプト通りだろう。個人的にはこういった一工夫で既存の反応性を塗り替えるような反応が好きなんだなと改めて思った。

参考)
Wittig反応@ケムステーション
[PDF] 魚住泰広教授に聞く

2010/03/26

An Organocatalyzed Enantioselective Synthesis of (2S,3R,4S)-4-Hydroxyisoleucine and Its Stereoisomers

Gullapalli Kumaraswamy*, Neerasa Jayaprakash and Balasubramanian Sridhar
DOI: 10.1021/jo100233u

フラン環がカルボン酸等価体であることを利用して、γ-ヒドロキシルイソロイシンを合成しましたという論文。こう書くと単純だが、個人的に2-フリルアルドイミンがアミノ酸等価体であるということを今まで意識したことがなかったのでメモがてら紹介。

逆合成を下に示すが、要するにフリルイミンとアルデヒドを有機分子触媒(Jorgensen型のTMS-ジフェニルプロリノールと林先生のシリルオキシプロリン)を用いた触媒的不斉マンニッヒ型反応でジアステレオ選択的に骨格を構築し、アルデヒドに対してグリニャール試薬をアミドを足がかりにジアステレオ選択的に付加させてるということだ。



論文としては上述した着想が内容の全てであり、一応形にするためにanti-syn, anti-antiの両ジアステレオマーを両エナンチオマー作っているが、評価ポイントにはならないだろう。学術的なレベルはさておき、用いるグリニャール試薬を変えたり、マンニッヒ型反応のパートナーを変えることで種々のアミノ酸誘導体を作ることができそうで何かの役に立つかもしれない。

2010/03/25

Asymmetric Tandem Wittig Rearrangment/Mannich Reactions

Natalie C. Giampietro, John P. Wolfe, Prof.
10.1002/anie.201000609

α位に二つの置換基を有するカルボニル化合物のエノラートは、E/Z幾何異性体の作り分けが難しく、そのため生成物のジアステレオ選択性に難があることが多い。さらにエステルα位のpKaの高さから、エステルエノラートを用いた直接的アルドール/マンニッヒ反応の例はまだまだ少ない。
本報告は[1,2]-Wittig転位を利用して、αーヒドロキシ-αーアルキルエステルエノラートを選択的に作りマンニッヒ型反応を行うことで、立体選択的に4置換炭素を有するβアミノ酸誘導体の合成に成功している。
本反応の肝は幾何異性を制御したエノラートの生成であるが、これは恐らくヒドロキシル基によるホウ素原子へのキレーション効果によることが多いと推察される。N-アルキル(ベンジル)イミンを用いたマンニッヒ型反応は収率はやや低いものの、高ジアステレオ選択的に進行するようだ。またエノール化しやすい脂肪族アルデヒド由来のイミンについても、スルフィニル基を有するイミン前駆体を用いることでまずまずの収率で目的物を得ている。



興味深いことはイミンを用いた場合にはsyn体が取れたものの、イミン前駆体を用いた場合にはanti体が得られている点だ。著者らは環状型遷移状態と非環状型遷移状態の図を描くことで説明している。しかし、立体選択性の違いは結果としては環状/非環状の違いに起因すると思われるが、後者の場合にプロトン化されたイミニウムカチオンの立体的嵩高さをあげており塩基性条件下におけるこの状態図には疑問が残る。
また細かいけれど、この論文では不斉補助基を用いて不斉を導入しているわけで、タイトルには"Asymmetric"とあるが"Diastereoselective"が適切なのではないかと考えてしまう。いずれにせよ、まだまだ珍しいα、αー二置換のエステルエノラートを積極的に利用した反応で、その生成機構もWittig転位を利用するという興味深い論文だといえる。

2010/03/24

The Productive Merger of Iodonium Salts and Organocatalysis

Anna E. Allen and David W. C. MacMillan
DOI: 10.1021/ja100748y

トリフルオロメチル基は脂溶性の増大をはじめ、その電子吸引性の大きさに起因する活性の増大など、産業的にも重要な置換基であり、その立体選択的な導入法の開発は需要が大きい。
本報告はTogni試薬という3価ヨウ素試薬とMacMillanらの有機分子触媒を用いることで立体選択的にトリフルオロメチル基の導入に成功している。
ルイス酸によるTogni試薬の開環がキーコンセプトであるが、生じるαートリフルオロメチルアルデヒドは原料のアルデヒドよりもはるかにラセミ化しやすいため、ルイス酸の選択が鍵となることが予想される。実際、種々ルイス酸を検討しており塩化銅(I)という酸素親和性はかなり低いルイス酸が選択されている。また塩化鉄(II)にtert-アミルアルコールを添加することでもeeの低下を防ぐことができることも見いだしており、生成物をアセタール化しているのだろうと考察している。



基質一般性はアダマンチルがついていても7割で目的物が取れており、立体的な許容性はありそうだ。またβ位に不斉点を有する基質にて反応を行っているが、>95:5の選択性で触媒制御により反応が進行する模様。いずれの基質においてもeeは極めて高い。
本反応は実質的にはCF3カチオン等価体の利用によるαートリフルオロメチル化であり、今後この論文を見て参入してくるグループがいっぱいあるのかなあと思ってしまう。

2010/03/23

Nucleophilic Acyl Substitution via Aromatic Cation Activation of Carboxylic Acids

David J. Hardee, Lyudmila Kovalchuke and Tristan H. Lambert
DOI: 10.1021/ja101292a

カルボン酸を活性エステルや酸塩化物などの高活性体へと変換し、アミンなどと反応させる一連のスキームは通常の実験室でも頻用される合成である。それゆえ、これまでも多くの手法が開発されてきた。本報告もその流れの一つであり、芳香性を有するシクロプロペニウムイオン中間体を経ることが新しいコンセプトである。

シクロプロペノンと塩化オキサリルから系中にて容易に調整可能な試薬を用いて、シクロプロペニウムイオン中間体を経由し、生じた塩化物イオンによる求核攻撃によって酸塩化物が生成する。ここにアミンを加えればアミドが合成できるというのが本論文の骨子であり、温和な条件で酸塩化物が合成可能であるためにN-Boc基、グリコールアセタール、TBS基など酸性条件に弱い官能基受容性があるようだ。またカルボン酸の反応性から脂肪族カルボン酸は良好な収率でアミド体が得られるものの、芳香族カルボン酸では中程度の収率にとどまっている。またラセミ化が進行しやすいと言われるペプチド合成にも適応されており、二つの基質で試されており、どちらもラセミ化は観測されていないようだ。



どこまで実用的かはわからないが、中間体安定性におけるコンセプトがおもしろかったので取りあげてみた。意地悪いことをいえば、アラニンを用いたカップリングでは室温で反応を行っているのに、ラセミ化しやすいフェニルグリシンでは−78℃で反応させていることから、、、と推測も可能であるが、それも含めて今後の改良次第の化学といえるだろう。

2010/03/22

A C2-Symmetric Chiral Bis-Sulfoxide Ligand in a Rhodium-Catalyzed Reaction

Jun Chen, Junmin Chen, Feng Lang, Xiangyang Zhang, Linfeng Cun, Jin Zhu, Jingen Deng and Jian Liao
DOI: 10.1021/ja1005477

触媒的不斉合成では、
1)現存する触媒系では達成できない反応を進行させる
2)現存する触媒よりも低触媒量、高反応性/高選択性を達成する
といった目的で新規配位子の合成を目指すことが多い。
BINOLやBINAPに代表されるビナフチル型の配位子や、PyBOX、BOXなどオキサゾリン型の配位子、サレン型の配位子などはPrivileged Catalystと呼ばれ多くの触媒的不斉合成に用いられてきた。近年ではこういった配位子では成し遂げられない不斉空間を構築しそうな配位子として、金属に直接配位する原子に不斉中心を持たせたタイプが一つの候補として注目されており、リン原子や硫黄原子の利用があげられる。本論文も硫黄原子にキラリティーを持たせたタイプの配位子を用いている。
ロジウム触媒を用いたsp2-炭素求核剤のエノンへの1,4-付加は京大の林先生らの先駆的な研究が有名である。本触媒ではRh-BINAP系では十分な反応性を得られないchromenoneへの付加を、ホウ酸エステルを用いた場合には既存の触媒と同程度の低化学収率/高不斉収率ながら、テトラアリールボレートナトリウムを用いた場合には中程度の収率/高い不斉誘起に成功している。
触媒の構造はX線を取得しており、ロジウムダイマーを挟む形で2:2錯体を形成しているようだ。



tert-ブチルスルフィニル部位といえば、Ellmanのキラルスルフィニルイミンを用いたアミン合成が有名であり、リガンドの不斉部位へと導入するのも自然な流れともいえるだろう。それでもこういったシンプルなリガンドすら今まで合成されてきていなかったのだから、キラリティーを有する硫黄原子はまだまだ可能性があるように思える。併せて合成自体の難易度が高い、キラリティーを有するリン系配位子も今後種類が出てくるだろうと考えられる。あとは配位子ではないが、ケイ素周りに不斉を有するルイス酸あたりがおもしろいかもしれないと個人的には思っている。

参考)
Ellman Group

2010/03/19

Copper(I)-Catalyzed Addition of Grignard Reagents to in Situ-Derived N-Sulfonyl Azoalkenes

Copper(I)-Catalyzed Addition of Grignard Reagents to in Situ-Derived N-Sulfonyl Azoalkenes: An Umpolung Alkylation Procedure Applicable to the Formation of Up to Three Contiguous Quaternary Centers
John M. Hatcher and Don M. Coltart
DOI: 10.1021/ja100932q

カルボニル化合物のαーアルキル化反応は単純でありながら制御が難しい反応であり、メタラヒドラゾンなどが用いられることが多い。この場合は、α位にアニオンをだすことで求電子剤であるアルキル化剤と反応することになる。
筆者らは極性転換のアプローチを取ることで、α位に求核種を反応させることでαーアルキル化を目指した。コンセプトを下に示す。Tsーヒドラゾンを酸化することで、電子不足のアゾアルケンを生成させ、そこに求核種を作用させるというコンセプトだ。

実際の検討にはまずαークロロヒドラゾンを用い、塩基条件により脱離させることで中間体アゾアルケンを生成させることとしている。すなわち、2当量のグリニャール試薬と銅触媒を用いることで、1当量目のグリニャール試薬が塩基として作用しアゾアルケンを生成し、そこに銅触媒とグリニャール試薬から生成したキュープレート試薬が共役付加することでアルキル化を達成し、触媒が再生することで反応を進行させる。この方法により様々なαー4級炭素の構築に成功している。



興味深いのは、α、αージクロロヒドラゾンを用いることで二種類のグリニャール試薬を付加させることに成功してる点だ。また収率は若干劣るものの、最終的には作業仮説通りにヒドラゾンの酸化によりアゾアルケンを生成させることにも成功してる点も評価できる。



個人的にはこの論文のようにconcept-orientedな論文が好きである。α,α-di-tert-butylethylのような非常に込み入った炭素を構築したりとパワフルな反応のようにも伺える。もちろん、酸化条件での位置選択性の可否や、理論量よりもグリニャール試薬の当量が多めなこと、官能基化されたグリニャール試薬の利用などもう少し踏み込んでほしい部分もあるが、それは今後に期待。
またきちんと前例を調べているわけではないが、酸化条件でアザアルケン生成+ジエノラートの利用でaza-D-A反応への応用などはどうだろうか。

2010/03/18

Iron-Catalyzed Aminohydroxylation of Olefins

Kevin S. Williamson and Tehshik P. Yoon
DOI: 10.1021/ja1013536

オレフィンのアミノヒドロキシル化反応は、SharplessのAAを始め様々な反応が存在する。
筆者らは以前、銅触媒を用いた反応を報告しているが、今回は鉄触媒を用いた例である。興味深いことに触媒金属を変えることで、生成物の位置選択性がスイッチするという現象を見いだしている。



Davis型のオキサアジリジンを用いて、スチレンを始めとするオレフィンのアミノヒドロキシル化反応を行っている。試薬の二つの芳香環上に電子吸引基を導入することで反応条件の最適化を行い、高い収率にて目的物を得ることに成功している。電子吸引基/供与基を有する芳香環置換のオレフィンや、共役型オレフィンでは末端オレフィン選択的に良好に反応は進行するものの、脂肪族置換のオレフィンでは中程度の収率にとどまっている。



反応機構に関する詳細は明らかになっていないが、予備実験からリガンドの酸化工程が第一段階であると著者らは推定している。また、「鉄触媒に微量混入した銅がBuchwald型カップリングにおいて真の活性種であった」という昨年の報告を受けて、本報告では混入した銅が関与しているわけではないと但し書きされているのが微笑ましい。

SharplessのAAでは位置選択性が問題となることがあるが、鉄触媒を用いた本条件では末端選択的に窒素が導入されると予測可能な点が有利な点だろう。触媒金属を鉄ー銅と変更することで反応パスが変わる現象は非常におもしろく、この部分に関する詳細な反応機構解析が待たれる。

参考)
Sharpless不斉アミノヒドロキシル化 Sharpless Asyemmtric Aminohydroxylation (SharplessAA)

2010/03/17

Selective Deprotection of Methanesulfonamides to Amines

Hiroyuki Naito, Takeshi Hata and Hirokazu Urabe
DOI: 10.1021/ol100086j

Ms(メタンスルホニル)、Ts(p−トルエンスルホニル)、Bs(ベンゼンスルホニル)、Tf(トリフルオロメタンスルホニル)などのスルホンアミドは酸性、塩基性条件ともに安定であるため、アミンの保護基として用いられることもある。しかし、その安定性ゆえにその除去にはバーチ条件やHBr/AcOHの還流条件など激しい条件が必要なことが多く、脱保護工程が問題となることが多い。そのため、より温和な条件にて除去可能なSES(トリメチルシリルエタンスルホニル)、Ns(ニトロベンゼンスルホニル)、2−ピリジンスルホニル基などの改良型スルホニル基も開発されてきた。
本論文はn-BuLi(or LDA)/O2(or air)という条件でMs基の除去を行うという報告であり、Ms基末端のC−H結合を反応に用いることから、末端水素の存在しないBs基やTf基、またはカーバメート型のBoc基存在下に選択的にMs基のみを除去することが可能になっている。ただし、アミドN-Hの活性プロトンが存在してしまうと塩基により真っ先に引き抜かれてしまうため、2級アミンに限られている。



合成計画上で、複数のスルホニル基を使い分けることはほとんどないので、使う時がくるかどうかは不明であるが、コンセプトがおもしろかったので紹介してみた。
余談だが、世の中にはTs-イミンを用いたマンニッヒ型反応が数多く存在するが、反応物から保護基(活性化基)を除去している論文は極めて少ない。こういう外しにくい保護基を使った場合は、きれいに(エピマー化等が起きずに、収率よく)外せることを示すのが、誠意ある研究っていうのじゃないだろうかと思うよ。

2010/03/16

A Triple-Aldol Cascade Reaction for the Rapid Assembly of Polyketides

Brian J. Albert, Dr., Hisashi Yamamoto, Prof. Dr.
10.1002/anie.200907076

ポリケタイドはシンプルな構造ながら、様々な生理活性物質を有する化合物群であり、またアルドール反応生成物から得ることが可能であるため、合成化学者のターゲットとしての地位を築いてきた。
しかしながら、ボトムアップアプローチによる合成法では、例えばEvansアルドール後に、キラル補助基をアルデヒドへと変換し、再びアルドール反応を行うなど、多段階の変換工程が必要となる場合が多く、効率的とは呼べないものが多かった。
本報告では山本先生らが最近力を入れているトリストリメチルシリル基を用いたアルデヒドエノラートの向山型アルドール反応において、連続的なアルドール付加を経るトリオール/テトラオールのジアステレオ選択的合成法について述べられている。
以前の報告より2回目のアルドール反応は進行することが知られていたが、今回添加剤の検討によりヨードベンゼンを添加することで3回目の付加が進行することを見いだした。
またα位、またはβ位にキラル炭素を有するアルデヒドを用いた場合には高いジアステレオ選択性にて成績体を得ることが可能である。さらにアルドール反応後に、ワンポットにてグリニャール試薬を添加することでジアステレオ選択的にテトラオールを得ている。



あまり類似例を見ないヨウ化物化合物の特異的な反応促進効果について、筆者らはヨウ素原子のシリコン原子へのルイス塩基性によるものだとMS測定により推測している。ヨードベンゼンを用いた場合には10 mol%必要であるが、ヨードアセチレン誘導体を用いた場合には0.1 mol%にまで低減可能性を示すなど、さらなる反応機構解析と条件検討が期待される部分だ。



本反応はシリルエノールエーテルを利用しており、一見すると環境調和性を求められる現代化学に逆行しているようにも見えるが、短工程かつ低触媒量にて多段階反応が進行することから有用な反応のように思える。(因みに収率が低いと感じる人もいるかもしれないけれど、生成する結合数を考えるとこの収率は相当高い。)
今後の展開としては、プロピオンアルデヒド由来のエノールエーテルを使った場合の反応が挙げられるが、個人的にはケイ素ーヨウ素の相互作用というコンセプトで新しい反応性が活かせる方法論の創出に期待したい。

2010/03/15

Rapid Cu-Free Click Chemistry with Readily Synthesized Biarylazacyclooctynones

John C. Jewett, Ellen M. Sletten and Carolyn R. Bertozzi
DOI: 10.1021/ja100014q

Sharplessが提唱したClick Chemistryの代表格としてあげられる銅触媒を用いたアジドとアルキンの環化反応は、官能基選択性が高く、温和な条件にて反応が進行するため、近年非常に多くの反応例が蓄積されている。しかしながら、蛍光プローブなど生体内用途に分子を用いたい場合には微量でも毒性の生じる銅を用いる本反応は好ましくない。
Bertozziらはこの問題に対して、シクロオクチンという歪みを持ったアルキンを用いることで反応性を上げ、触媒なしでも反応を進行させることが可能であると報告している。本報告では、改良型シクロオクチン誘導体を用いて、1)反応性をさらに上げる、2)アッセイに於ける蛍光強度を上げる、3)簡便な合成法で作る、という改良を施している。

実際の合成スキームは下図である。鍵はmCPBAを用いたインドールの環開裂/拡大と、プローブユニットをくっつけるところだろう。全6工程18%とまずまずの収率だ。



実際に以前のジフルオロシクロオクチンとでは反応速度定数で12倍以上、通常のシクロオクチンとは450倍以上の違いがあるもよう。速い反応速度のために蛍光強度が強く、そのため試薬濃度を低く抑えることができ、単純な洗浄により取り除くのも容易とのこと。

こういったケミカルバイオロジーの論文は実際に自分で実験を行ったことがないので、イメージがわきにくいのだが、分子の設計など有機化学の中心部分は参考になる部分も多い。

2010/03/12

Overriding Felkin Control: A General Method for Highly Diastereoselective Chelation-Controlled Additions to α-Silyloxy Aldehydes

Gretchen R. Stanton, Corinne N. Johnson and Patrick J. Walsh
DOI: 10.1021/ja910717p

学部後期以降の教科書には必ず書いてある、α位に不斉炭素を有するカルボニル化合物への求核付加反応、すなわちFelkin-AhnモデルとCram-chelationモデル型の付加反応というものが知られている。特に80年代から90年代初頭の全合成ではマクロライドの立体制御などを行うのに頻用されてきた手法である。
これらではαーヒドロキシル基を有する化合物は嵩高いシリル基を用いて酸素原子の不対電子をマスクすることで前者のモデル、ベンジル基のように酸素の不対電子を利用可能にすることで後者のモデルで付加が進行するように調整することが可能である。
しかし、保護基というのは合成戦略全体から考えて選択する物であり、付加反応に於ける立体選択性のために保護期のかけかえが行われるようなことは望ましくない。
このような基質制御型の反応を逆に制御するためには、例えば不斉補助基の導入、キラルな試薬の利用、不斉ルイス酸の添加といった方法論が用いられることが多いが、両論量のキラル源が必要な場合等改善の余地が多い。

前置きが長くなったが、本論文はこのような問題に対して、アキラルな試薬を用いて通常Felkin-Ahn型で進行する試薬をCram型で反応させることを試みている。

反応の概略としては下図に示すように、α位にTBS基で保護されたヒドロキシル基を有するカルボニル化合物に対して、RZnX(Cl,Br,OTf)をルイス酸、ZnR2を求核種として用いることでCram型付加に由来する化合物が高いジアステレオ選択性でとれるというものだ。



収率は化合物によって変動があるが、恐らく亜鉛試薬の求核性の低さもあり、カルボニル化合物が還元されてしまうアルコール体が取れてきてしまうために中程度の収率にとどまる基質が多い。しかしながら多置換ビニル試薬を含めて、官能基化された求核種の導入にも成功しており、注目度は高い。

本反応のポイントとしては求核性の低い亜鉛試薬を用いることで、バックグラウンドのFelkin-Ahn型付加を押さえていることにあるだろう。
逆に現時点での弱点としては、ルイス酸/求核種共に亜鉛試薬であるために、アルキル基交換が行われてしまい、結局すべてのアルキル基を導入したいものにしないといけない点だろう。これは全合成などで官能基化された貴重なアルキル基を導入したい場合に大きく効いてくるため、キュープレート試薬のようなダミーリガンドを載せられるように改良できたらより魅力的になるだろう。
また亜鉛であるがゆえに還元体が取れてしまうなら他の金属で達成不可能かの精査もありうる。個人的には根岸先生のようなアルミニウムに魅力を感じるがどうだろう?

2010/03/11

Desymmetrization of Cyclohexadienones via Brønsted Acid-Catalyzed Enantioselective Oxo-Michael Reaction

Qing Gu, Zi-Qiang Rong, Chao Zheng and Shu-Li You
DOI: 10.1021/ja100207s

もはやプロリン並の一大勢力となった、秋山ー寺田型触媒を用いた反応の報告例である。
非対称化反応は不斉を導入するにあたって、思いつきやすく、また分子内反応であるならば(分子間反応は反応を上手く設計しないと難)触媒を介することで比較的立体制御を行いやすいためこれまで多くの反応が報告されている。
一般にオキシマイケル反応は、1)反応性が低い、2)レトロ反応が容易、という理由から進行させるのが難しい反応である。本論文は例の少ないオキシマイケル反応を選択することで他の論文との差別化を図っている。

反応の概略は以下のようである。4位に置換基を有するフェノール誘導体を酸化処理することで基質を合成し、触媒存在下反応を行うことで目的物を得ている。



4位置換基の一般性は、アルキル基の場合エチル、イソプロピルと大きくなるにつれて反応収率、不斉収率ともに低下していくが、芳香族置換基の場合は電子吸引基、供与基ともに良好な収率、不斉収率で適応可能である。

正直に申し上げて特筆すべき所のない論文であるが、以下のようなことを考えたので取りあげてみた。
1)酸化段階からワンポットでいったらおもしろい
まだまだ未達の部分が多いのは承知の上で書くと、アルドール、マイケル、マンニッヒに代表されるアニオンの化学や、D-A反応のような電子環状反応の触媒的不斉反応の例はすでにたくさんあるのだから、これからは触媒的不斉反応炭素ー炭素結合形成反応にredoxにを取り入れるようなものを考えていくと、新しいコンセプト・触媒設計に繋がるのではないかと思う。MacMillanのSOMO-catalysisが有機分子触媒としては一つの方向性だけど、SharplessやJacobsenの例を持ち出すまでもなく金属こそ酸化段階の変化に強いのだから有機金属でも工夫次第でいけるんじゃないかなと思う。まあ外野から言ってるだけなんですが。
2)変換反応にこそ誠意を見せるべき
反応の論文は、絶対立体配置の決定であったり、保護機の除去だったりで「一応」変換しましたのような論文が沢山あるが、実務家から見たらこういうところこそ最適化してチャンピオン収率を出すべき。例えばこの論文では二重結合をパラジウムで水素添加するだけで85%収率であるが、こんな低い収率を見るとなんかしらの副生成物が生じるのか?(この場合だとケトンが還元される)といったあらぬ疑問を抱きかねず、反応が魅力的でも敬遠される原因になるんじゃないだろうか。人に使われる反応を開発したいのであれば、アプリケーションを魅力的に見せるべき。

2010/03/10

Difluoromethyl 2-Pyridyl Sulfone: A New gem-Difluoroolefination Reagent for Aldehydes and Ketones

Yanchuan Zhao, Weizhou Huang, Lingui Zhu and Jinbo Hu
DOI: 10.1021/ol100090r

フッ素という原子は立体的に小さいながらも最強の電気陰性度を持っており、分子内に導入することで不思議な反応性を示すことが多い。これはマテリアルから医薬品まで共通であり、それゆえ企業人はフッ素化反応の類はチェックしていることが多い。
本報告は、カルボニル基をアリールスルフォンを用いてオレフィン化する、ジュリア反応の変法としてgem-ジフルオロオレフィンを合成する反応である。



筆者らはすでにジフルオロメチルスルフォン型の分子として二つのタイプを報告しており、今回で3つ目を報告することになる。
適応基質は多くの芳香族アルデヒド/ケトンでは良好な収率を示しているが、エノラート化する基質に対しては収率が低下する傾向が見られている。
反応機構に関しては、Smiles転位を経るタイプの一般的な機構が提唱されているが、特筆すべきは生じるはずの中間体アニオンをヨウ化メチルでトラップすることに成功している点だろう。このように中間体の存在を可視化することで推定反応機構の信憑性が大幅に高まる。

参考)
東京化成フッ素化試薬
ジュリア反応

2010/03/09

Heterogeneous Allylsilylation of Aromatic and Aliphatic Alkenes Catalyzed by Proton-Exchanged Montmorillonite

Ken Motokura, Shigekazu Matsunaga, Akimitsu Miyaji, Yasuharu Sakamoto and Toshihide Baba
DOI: 10.1021/ol100228t

オレフィンへの直接的な付加反応はアトムエコノミーもよく、近年はハイドロアミネーションを始めとして研究が活発な分野である。その中でも本報告はアリルシランのオレフィンへの付加反応、アリルシリレーションという珍しい反応に関する報告であり、後半部の反応機構に関する考察が読みがいがある。

これまでにアリルシリレーションは塩化アルミニウムを触媒とした反応が報告されており、本報告では前報告の弱点であったスチレンへの反応の克服を目指して研究が開始されている。



本反応の肝は、オレフィンとケイ素という二つの活性化されうる部位の選択的活性化である。筆者らはソフトな求電子剤であるオレフィンの活性化を防ぐために、ハードな酸であるプロトンを用いている。このプロトン源の選択はかなりシビアなようでH-montmorilloniteが最もよかったようであるが、他のプロトン源では収率がかなり落ちるようだ。その一つの考え方として、計算によるプロトンへの親和性の計算結果が挙げられており、アリルトリメチルシランとスチレンでは4kcal/molしか違わないと計算されている。

固体NMR等を駆使して筆者らは反応機構解明を試みているが、最終的にはmontmorillonite表面で1,3-ジシリルプロピルカチオンが生じ、オレフィンの求核攻撃を受けるという反応経路を提唱している。
反応基質の一般性からは、電子吸引性基を有するスチレンの方が収率がよいことなどから少し矛盾を感じる面もあるが、先のプロトンへの親和性等など、条件にシビアな反応であるとも考えられるので、一つの説明としては妥当であると思う。

反応機構研究はおもしろい内容である。合成化学的な見地からは、玉尾酸化、檜山カップリング(or デンマークタイプ)などが利用可能なシリル基を導入可能になれば、反応後の変換可能性がぐっと広がりより魅力的な反応になるだろうと考えられる。

2010/03/08

Enantioselective Kita Oxidative Spirolactonization Catalyzed by In Situ Generated Chiral Hypervalent Iodine(III) Species

Muhammet Uyanik, Dr., Takeshi Yasui, Kazuaki Ishihara, Prof. Dr.
10.1002/anie.200907352

ハーバード大学のE.J.Corey教授がよく用いるハロラクトン化反応というものがある。カルボン酸に近接した環状オレフィンに対してブロモニウムまたはヨードニウムイオン化を行い、カルボン酸が分子内環化反応をすることで、二環性のラクトンを得るという手法だ。(下図)



本論文はイメージとしては上述のハロラクトン化反応をスピロラクトン化として、不斉化したものだと考えるとわかりやすいだろう。
"Kita Oxidation"と名がついているのは、超原子価ヨウ素の大家である北先生が報告した反応を不斉収率を改善したものだからである。



触媒前駆体としてはヨードレゾルシノールを母骨格、不斉源の乳酸をリンカーとし、アミド部位をチューニング可能とした分子を用い、酸化剤としてmCPBAを用いることで10 mol%の触媒量での反応を実現している。
反応機構に関する考察は、別途調製した3価ヨウ素化合物を用いた結果から活性種は3価ヨウ素化合物であると述べられているに過ぎないが、触媒設計のコンセプト通りにアミドのルイス塩基性によるヨウ素への関与が最初の酸化段階における不斉空間の創出につながっていることは間違いないだろう。

基質一般性としては、北先生の報告に習ってナフトール誘導体にとどまっている。しかし、北先生の触媒がπ電子に富んだがっしりとした触媒であるのに対し、石原先生の本報告では触媒構造が柔軟性に富んだいるため、さらなる基質適応可能性が十分にありえるのではないかと感じた。

2010/03/07

PROTECTION OF DIOLS WITH 4-(tert-BUTYLDIMETHYLSILYLOXY)BENZYLIDENE ACETAL AND ITS DEPROTECTION

Hiroyuki Osajima, Hideto Fujiwara, Kentaro Okano, Hidetoshi Tokuyama, and Tohru Fukuyama
Organic Syntheses, Vol. 86, p.130 (2009).

保護基というのは最終的にはいらないものなので、できることなら使いたくないものだ。しかし、多段階の合成を行ううえではそうも言っていられないことも多い。
保護基にもとめられるものは、1)容易に保護可能、2)種々条件に安定、3)容易に除去可能、と矛盾を含んだものである。また同じような保護基でも酸性、塩基性、酸化的、還元的、と色々な条件で除去可能なものがチョイス可能であると合成戦略を立てる上では嬉しい。

本論分では、1,2-ジオールの保護基として、塩基性条件にて除去可能なベンジリデンアセタールを報告している。ベンジリデンアセタールは通常プロトン酸、ルイス酸条件にて除去される。またp-メトキシベンジリデンアセタールはDDQを用いた緩和な酸化条件にて除去可能である。本報告ではこれらに続いて、第3の選択肢としてのベンジリデンアセタールについて記していることになる。



脱保護条件の温和性や、保護・脱保護工程での収率は高いものの、試薬の合成に量論量のTBS-Clが必要な点など、「グリーン」さは足りないかもしれない。いずれにせよ、頭の片隅にいれておくとよいんじゃないだろうか。

2010/03/04

Superelectrophiles and the Effects of Trifluoromethyl Substituents

Matthew J. O’Connor, Kenneth N. Boblak, Michael J. Topinka, Patrick J. Kindelin, Jason M. Briski, Chong Zheng and Douglas A. Klumpp*
DOI: 10.1021/ja1001482

トリフルオロメチル基はその電子吸引性の強さから、不思議な反応性を示す分子群である.本報告もそういった類に属する反応例だ.
有機化学の基本的な教科書に記述があるように、共鳴効果などを通じてカチオン性基は電子吸引効果を示し、隣接するカチオン性基の数が増える程にその活性化効果は増すことになり、多重に活性化された求電子剤を"Superelectrophile"と呼ぶ
本報告ではジカチオン/CF3基を有し、高度に活性化された基質がどのような反応性を示すかについて述べられている.


基本的なコンセプトはカルボニル基とピリジン窒素をプロトン酸で活性化することでジカチオンとしつつ、さらにCF3基で活性化されたような基質では何が起こるだろうか?というものだ.
そして実際に反応させてみるとおもしろい結果が得られる.


つまりベンゼン中にて室温で反応させることで、カルボニル基にフリーデルクラフツ反応が起きる.興味深いのは、メチル基置換の基質であると、生成物の3級アルコールはすぐにプロトン化され脱離し、もう一つベンゼン環が入るということ.著者らは脱離した水自体も求核種であり、CF3を有する反応性の高いカチオンとはすぐに反応して3級アルコールに戻ると説明している.
また反応をより高温で行うと、水の脱離に生じたカチオンへ、またはSn2'タイプにベンゼンが求核攻撃することでビフェニルタイプの生成物が得られている.

このようなシンプルな化学に、意外な反応性が隠されており読んでいて非常に面白い論文だ.

2010/03/03

Palladium-Catalyzed Benzylic Addition of 2-Methyl Azaarenes to N-Sulfonyl Aldimines via C−H Bond Activation

Bo Qian, Shengmei Guo, Jianping Shao, Qiming Zhu, Lei Yang, Chungu Xia and Hanmin Huang*
DOI: 10.1021/ja910104n

遷移金属を用いたAr-H結合の活性化、いわゆるC-H活性化反応は近年活発に研究がなされている分野である.
クロスカップリング反応に代表されるAr-X結合に対する酸化的付加を伴う反応は、必然的に量論量の塩が生じてしまい環境調和型化学が叫ばれる昨今好ましいとはいえない.一方でC-H活性化を経由した反応ではその副生成物が生じないことが魅力的である.しかし、最初からハロゲン分子が導入されている従来の酸化的付加反応とは異なり、複数あるC-H結合の中から望みの結合を活性化するという別の問題が生じてくることも事実である.報告されている多くの例ではこの問題を、カルボニル基やピリジンの窒素原子などをdirecting groupとして用いることで位置選択的に反応を進行させている.
本報告ではピリジン窒素をdirecting groupに用いつつ、ベンジル位のC-H結合を活性化することでベンジルパラジウム種を生成させ、さらに生じた金属種とアルドイミンへと付加させることに成功している.反応の概略は以下の通りである.



以下、反応の詳細を述べる.
触媒に関しては検討の結果、酢酸パラジウムが最適であり、この結果は多くの類似反応と同様に酢酸イオンによる分子内水素引き抜きメカニズムを考えると納得しやすい.
ヘテロ芳香族については2.6-ルチジンを用いて条件検討を行っているものの、Ar-H結合との競合反応が起きるというよりは、ベンジル位の引抜が遅いことを反応点を増やすことで対応しているという印象を受ける.実際2-ベンジル-6-メチルピリジンを基質とした場合は2重にベンジルである炭素からの反応の方が多いという結果を得ている.そのほかキノリンタイプの基質も適応可能である.
イミンの一般性については、オルト、メタ、パラ位置換のハロゲンが適応可能であり、クロスカップリングによるさらなる変換の可能性を示すものの、電子供与基に関してはメチル基程度の電子供与能であっても著しく反応が減退してしまうようだ.もっともこの場合はスルホニル基をより電子吸引性のNs基に変更することである程度は改善可能である.また脂肪族イミンについては反応が進行しないとのこと.
速度論実験からベンジル位水素において同位体効果が見られたことから、C-H結合の開裂が律速であるようである.

本論分は、例が少ないベンジル位のC-H活性化に加えて、ロジウム等を除くと例の少ないイミンへの付加を試みたという点で評価される.今後は配位子の最適化による反応性の向上や不斉化などの展開が考えられるだろう.