2010/04/30

Sonogashira Cross-Coupling of Arenediazonium Salts

Giancarlo Fabrizi, Prof., Antonella Goggiamani, Dr., Alessio Sferrazza, Dr., Sandro Cacchi, Prof. *
10.1002/anie.201000472

クロスカップリングの基質としては通常アリールハライド、トリフレートなどが用いられるが、反応性の高さと対応するアニリンから容易に調製することが可能ということを考えるとジアゾニウム塩の利用は一つの魅力的な代替案になりうる。実際、アレーンジアゾニウム塩はHeck反応や鈴木カップリング、Stilleカップリングなどのパラジウム触媒反応には適応されてきている。本報告はこのジアゾニウム塩の化学を薗頭反応に拡張しようというものだ。

筆者らはまず各種パラジウム触媒、塩基、溶媒にて反応を試したが目的とするアリールアルキンは得られず、複雑な混合物を与えることが多かった。そこで、ヨウ化物イオンを系中に添加することでヨードデジアゾニウム化を起こすことを試みることとした。すると2当量のTBAI添加により良好な収率で目的物が得られることがわかった。



最適条件下、基質一般性の検討を行ったところ、電子供与基、吸引基いずれを有するアリールジアゾニウム塩も良好に反応することがわかった。またアルキン部位の一般性も直鎖アルキル基から2-ピリジルのような触媒毒となりうる置換基でも良好な収率で目的物を得ることに成功している。さらに一端ジアゾニウム塩を単離することなしに、アニリンからワンポットにてアリールアルキンまで高収率で導くことにも成功している。

興味深いのはTBAIを添加することで何が起きているのかである。筆者らは対象実験の結果から、まず脱ジアゾニウムによるヨウ化アリールの生成がおき、続いてパラジウム触媒による酸化的付加がおきて反応が進行していると述べている。別途調製した[PhPdI(Ph3P)2]、[PhPdBr(Ph3P)2]をアルキンと反応させたところ臭化物イオン由来の化学種の方が高活性であったことと、ヨウ化物イオンの変わりに臭化物イオン源としてTBABを用いた場合には目的物は得られずブロモベンゼンが高収率で得られたことから、この場合はブロモベンゼンへの酸化的付加が律速段階になっているということだろうか。

収率、官能基受容性ともに高く魅力的な反応と言えるけれど、系中でヨウ化アリールを発生させているなら必ずしもジアゾニウム塩を経由する必要がないとも言えるのがアピールに弱い気がする。

参考)以前紹介したフェノール塩を基質とするクロスカップリング反応

2010/04/29

Tandem β-Alkylation−α-Arylation of Amines by Carbolithiation and Rearrangement of N-Carbamoyl Enamines

Jonathan Clayden*, Morgan Donnard, Julien Lefranc, Alberto Minassi and Daniel J. Tetlow
DOI: 10.1021/ja1007992

tert-アルコールの立体選択的合成が対応するケトンへの付加が立体的に込み入っているために難しいのと同様に、tert-アミンの合成も対応するケトイミンの嵩高さのために難しい。代替合成法としては例えばニトロアルカンを求核剤として用いた反応や、Overman転位などの転位反応を用いたアプローチが考えられる。本報告ではビニルウレアへのリチウム試薬への付加と続く分子内からの転位を経て、tert-アミンの合成を達成している。

反応の全体像は、ビニルウレアへのアルキルリチウムの付加の後、生じた中間体からアリール基が分子内転位し、メタノールで反応を止めることで4置換炭素を有するウレアを得ている。得られたウレアはn-ブタノール中で加熱することでウレア部位を除去し、アミンを合成することが可能となっている。



アルキルリチウムはtert-ブチルのような嵩高いものを用いると転位反応が進行しないものの、様々なアルキル基、アリール基を導入可能だ。また転位させるアリール基も電子供与基、吸引基ともに適応可能となっており、多くの例で良好な収率で置換ウレアを得ている。基質のアルケニル基がZ,Eの異性体を有する基質を用いた場合には、それぞれのジアステレオマーが選択的に得られていることから、付加、転位ともに立体特異的に進むことが示唆されている。

本反応は合成方法の少ないtert-アミンを高収率に合成可能な方法論であり有用性が高いだけでなく、反応機構的にも興味深い反応だ。恐らく狙っていたわけではなく偶然の副反応から到達した反応だろうが、こういうものをきちんと拾って形にすることって大事だなとしみじみ思った。

2010/04/28

Synthesis of Alkyl Alkynyl Ketones by Pd/Light-Induced Three-Component Coupling Reactions of Iodoalkanes, CO, and 1-Alkynes

Akira Fusano, Takahide Fukuyama, Satoshi Nishitani, Takaya Inouye and Ilhyong Ryu*
DOI: 10.1021/ol1007668

アルキニルケトン(インオン)はマイケル付加受容体としてヘテロ環合成の原料に使われるなど合成中間体として有用な化合物群である。通常、酸塩化物と末端アルキンの薗頭カップリングや、金属アセチリドのカルボニル化合物への付加(と続く酸化)などの手法で合成されており、前者の応用例として一酸化炭素雰囲気下でヨウ化アリールと末端アルキンをカップリングさせる反応も用いられる。しかしアルキルハロゲン化合物に対する酸化的付加に難があるために、通常用いられるヨウ化物はアリールまたはビニルというsp2炭素に限られており、上述の3成分反応でアルキルケトンの合成を行うことは難しかった。
本報告は光照射条件でアルキルヨウ化物から炭素ラジカルを生成させることで、アルキルーアルキニルケトンの合成を達成している。

反応条件を検討したところ、フェニルアセチレンと1−ヨードオクタンのカップリングがベンゼン/水の混合溶媒中、キセノンランプ照射条件でPdCl2(PPh3)2触媒を用いることで良好な収率で反応が進行した。また1−オクチンのようなアルキルアセチレンを用いる際には5等量のアルキンを用いることで、同等の良好な収率で目的物を与えることも見いだした。最適条件下、反応は様々なアルキル置換の基質で中程度から良好な収率で進行することがわかった。またラジカル経路を通っていることは、分子内の適当な位置に二重結合を有する基質を用いた際に環化が進行した後に、アルキンとのカップリングが起きているような生成物が取れていることから示唆されている。



本反応では光照射によるラジカル生成を介していることで、従来適応が難しかった1級ハライド由来のアルキニルケトンの合成に成功した。実際のところ本法ではsp2炭素ーヨウ化物の適応は難しいだろうから、従来の手法と相補的な方法論になるだろう。光化学には詳しくないのでキセノンランプ装置の実用度がどのくらいなのかと、45atmという高圧の一酸化炭素を用いていることが気になる点ではある。

2010/04/27

Carbon−Carbon Bond Formation and Pyrrole Synthesis via the [3,3] Sigmatropic Rearrangement of O-Vinyl Oxime Ethers

Heng-Yen Wang, Daniel S. Mueller, Rachna M. Sachwani, Hannah N. Londino and Laura L. Anderson*
DOI: 10.1021/ol100659q

有機材料や医薬品の母骨格として有用な置換ピロールの合成法として教科書によく取りあげられる反応には、1,4ージカルボニル化合物とアミンとの縮合、Paal-Knorr反応がある。しかし原料の1,4-カルボニル化合物の調製は、逆合成しにくい場合も多々あり厄介となることがある。
その点、O-ビニルオキシムを原料とする[3,3]-シグマトロピー転位を介する1,4-イミノカルボニル化合物の生成と、連続する環化によりピロール環を構築するTrofimovらが報告した手法は1,4-ジカルボニル化合物を合成する必要がない点が勝っているといえるが、Trofimovらの方法はO-ビニルオキシムを合成する際に、強塩基存在下でアセチレンを用いており、官能基受容性と生成物の位置選択性に問題を抱えていた。

本報告では、O-アリルオキシムの異性化というアプローチを取ることで、より温和かつ位置選択的にO-ビニルオキシムを合成することを達成しており、同時に2,3,4位選択的に3置換ピロール合成に成功している。



O-アリルオキシムの異性化が鍵となるが、通常アリルエーテルの異性化に用いられるロジウムやイリジウム錯体では望みの反応が起こらず、[(cod)IrCl]2/2NaBH4/2AgOTfという条件から生じるカチオン性イリジウム錯体が有効であり、種々のO-アリルオキシムからTHF中、室温にて中程度から良好な収率でcis/transの混じりとしてビニルオキシムを得ている。調製したオキシムはジオキサン溶媒でモレキュラーシーブを添加して加熱することでシグマトロピー転位と続く環化が起き、中程度の収率で目的物の置換ピロールを得ている。この際、両α位からエナミンが生じうる場合には、立体的にすいている方、電子的に安定化する方から反応が進行している。ここでは段階的に反応を進行させているが、ワンポットで進行させることも可能で、その際はTHF溶媒で脱水剤なしで加熱することで目的物を中程度の収率で得ている。

本反応はオレフィンの異性化に着目することで、温和な条件でO-ビニルオキシムを得ることに成功しているものの、全体的に収率が低いのが気になる点だ。特に環化段階の収率が低く、この部分の改善が必要だろう。基質としては原料の合成が難しくなるかもしれないが、アリルではメチル置換のピロールしか合成できないので、もう少し複雑な置換基の導入に挑戦するというのも次の展開として考えられる。
シグマトロピー転位は、多くの場合立体選択的にきれいに決まることが多いので、日頃の合成戦略にも上手に組み込めるようになりたいものだ。

2010/04/26

Design of Thermally Stable Versions of the Burgess Reagent: Stability and Reactivity Study

Thomas A. Metcalf, Razvan Simionescu and Tomas Hudlicky*
DOI: 10.1021/jo100212n

Burgess試薬は本来は2級3級アルコールの脱水に使われる試薬であるが、近年その特徴的な構造と反応性から脱水反応以外にもおもしろい反応が報告されてきている。著者らのグループもそのようなBurgess試薬を用いた反応を研究しているグループであり、エポキサイド開環など新しい応用例の探索に当たって試薬の熱安定性に不満を抱えており、その改良に着手することとしたようだ。

コンセプトとしては脱離基となるスルホニルートリエチルアミン部位のアミンをより嵩高いメチルピペリジンとすることで安定性を増加させること、およびメチルカーバーメート部位に電子吸引性のトリフルオロメチル基を導入することで窒素アニオンの求核性を弱めるというものだ。



加熱条件下に重THF中にて安定性試験を行ったところ、安定性がかなり向上していることが確認された。反応性に関して、通常の脱水反応、エポキサイド開環反応、ジオールとの反応と試してみた結果、多くの場合で収率が向上しているのがわかった。ただしこれはTHF還流条件にて行っているため、高温が不要なこともある普通の脱水反応などでも通常のBurgess試薬では分解反応との競合によって収率が低めに出ている可能性があり、フェアな検討では内容に感じた。

Burgess試薬は、反応機構の異なるMartinスルフランと並んで全合成などでよく用いられる脱水試薬であり、本研究のような改良は地味であるけれども大事だろう。

2010/04/22

Direct Asymmetric Aldol Reaction of 5H-Oxazol-4-ones with Aldehydes Catalyzed by Chiral Guanidines

Tomonori Misaki*, Gouta Takimoto and Takashi Sugimura*
DOI: 10.1021/ja101216x

アルデヒドやケトンと比べるとエステルやアミドといったカルボン酸誘導体はα位のpKaが高く、その触媒量の塩基によるエノラートの生成は未だ難関の一つといえる。近年いくつかのエステルと等酸化状態にあるエノラートの利用が報告されてきているが、多くは向山型の求核種を事前調製する反応である。このようなエノラート生成のしにくさに加え、α位が二置換の基質では立体的な嵩高さから求核能が低く、さらにアルドール反応においては炭素ー炭素結合形成後でもレトロ反応が問題となる。

本報告ではαーヒドロキシルエステルとして、5-H-オキサゾール-1-オンという環状基質を用いることでα位の嵩高さを軽減し、環状グアニジン型分子触媒存在下でアルドール反応が高い収率、不斉収率で進行することを見いだした。実際の反応においては生成物のアルドール体がシリカゲルによる精製中でレトロ反応を起こしてしまうため、反応後にヒドロキシル基をアセチル基で保護している。



用いている触媒は、一見したところプロリンを母骨格としたJorgensen型の触媒を基に、エステルα位を脱プロトン化できるようにグアニジンにすることで塩基性をあげるようなデザインをしているように感じられる。触媒中のヒドロキシル基による水素結合が重要であることは対象実験から示されており、触媒の構造を嵩高くすることでジアステレオ選択性があがる傾向にあるようだ。

基質としては種々の脂肪族アルデヒドに対して適応可能であり、自己縮合を起こしやすい直鎖型の基質もジアステレ選択性に難があるものの良好な収率、不斉収率で目的物を得ることに成功している。一方で芳香族アルデヒドについてはベンズアルデヒド一例のみであるが、反応がやや遅いことを除けば、収率、選択性ともに問題ない。

触媒の設計も見事だが、用いている基質も珍しいと感じた。というのも本文中にも書いてあるが、アミノ酸を環状に縛ったアズラクトンは近年いろいろな反応の求核種として用いられているものの、それを逆にした5-H-オキサゾール-1-オンは珍しいからだ。著者らによるとTrostらがAAA反応に用いたことがあるが、それ以来使われていないとのこと。魅力がないから他では使われてなかったのか、単に酸素と窒素を逆転させるというシンプルな発想がなかったのか、どちらかわからないがこういう発想は大事にしていきたいもの。

2010/04/21

Direct Application of Phenolic Salts to Nickel-Catalyzed Cross-Coupling Reactions with Aryl Grignard Reagents

Da-Gang Yu, Bi-Jie Li, Shu-Fang Zheng, Bing-Tao Guan, Bi-Qing Wang, Prof., Zhang-Jie Shi, Prof. Dr.*
10.1002/anie.200907359

クロスカップリング反応は非常に有用な反応であり、その適応基質は反応性の高いAr-I,BrからCl,Fなどへと徐々に適応範囲が広がってきた。またフェノール誘導体としてはOTfがもっとも頻用されているが、最近ではエステルやアニソールなども使用可能となっている。またC-H活性化反応によることで、ハロゲン化などの事前の基質活性化を必要としない例も多くなってきた。しかし、前者のハロゲン化合物では基質の合成に多段階を有すること、後者のC-H活性化では高温を必要としたり触媒量が多めになってしまうこと、また多くの場合隣接基が必要であるなどの課題があった。

筆者らはフェノールを直接クロスカップリングの基質とすることができれば、ステップエコノミー、アトムエコノミーの観点から有用だろうと考え研究に着手したようだ。結合開裂エネルギーを考えるとフェノールのC-Oを開裂させるのは難しそうなので、フェノキサイドイオンとすることでC-O結合を弱めてやる方針で種々検討を行った。

ニッケル触媒とフェニルグリニャール試薬存在下、カウンターカチオンとしてリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムと検討したところ、マグネシウムがもっとも良い結果を与えた。またグリニャール試薬中のハロゲンイオンも検討した所臭化物イオンが最も良い結果を与えることがわかった。実際、メチルグリニャール試薬から調製したナフトキサイドイオンはX線結晶構造解析から二量体構造を示しており、ナフトール酸素原子が2分子のマグネシウムに配位することで、他のカウンターカチオンよりもよりC-O結合距離を伸ばして切断しやすくしている可能性が示唆される。本反応が現状ではフェノール誘導体には適応できないことも、微妙な電子状態の差が反応の成否を決めていることが伺える。



ナフトール誘導体とグリニャール試薬の一般性では立体的な要素は収率にはあまり影響を与えず、シリルオキシ、ジメチルアミノ基、ピロールなど多様な構造に対して許容性があるようだ。

結局のところ当量のグリニャール試薬を用いるため、総プロセスとしてアトムエコノミーに優れているかどうかは不明だが、ステップ数は短くすむため、既存の方法論との優位性は強調できるだろう。今後は反応機構研究を通じて、なんとかフェノール誘導体にまで適応範囲を広げたい所だ。

2010/04/20

Nickel-Catalyzed Asymmetric Addition of Alkyne CH Bonds across 1,3-Dienes

Masamichi Shirakura, Dr., Michinori Suginome, Prof. Dr. *
10.1002/anie.201001188

プロパルギル位に不斉点を有する化合物の合成手法としては末端アルキンのカルボニル化合物への付加がもっとも研究が進んでおり、ブチルリチウムなど両論量の強塩基を用いずに触媒量の塩基で反応が進行するような触媒的不斉合成を含めていくつかの例が報告されている。一方で、遷移金属を用いた末端アルキンのオレフィンへの付加、すなわちハイドロアルキニル化反応はアルキンの二量化反応が進行しやすく現在でも課題の残る研究分野だ。
本報告は嵩高いアルキンを用い、さらに定速添加させることでニ量化の抑制を図りつつ、キラルニッケル触媒の存在下、1、3−ジエンへのヒドロアルキニル化を達成している。



配位子としてはタドール由来の配位子を用いると不斉収率は最もよかったが、80時間以上かけてアルキンを添加してもニ量化を完全に制御することはできず収率はどの基質も中程度にとどまっている。本反応はアルキンは嵩高いものを用いることが必要であるため、基質で振れるところはジエンの芳香環置換基のみであるが、電子吸引基、供与基ともに同程度の収率で目的物を得ている。またトランスジエンを用いると収率が低下することから、ジエンがニッケルに配位して反応が進行していることが推察される。

アルキンの置換基がジメチルの場合にはアセチレンのアセトンへの付加体であり、これは塩基性条件にて逆反応を起こすことが可能で、アルキンの保護基、またはアセチレンガスの等価体として用いられる。本反応の場合はメチルではなくイソプロピル基であるが、ロジウム触媒を用いることで系中でのロジウムアセチリドの生成と共存させたメチルビニルケトンへのマイケル付加を行わせることで、生成物のアルキン部位の有用性を示すことに成功している。

当然相当な検討がなされているのだと思われるが、収率の低さと80時間以上もの反応時間がやはり気になる点だ。一方でアルキン部位の変換に成功していることでやや特殊なアルキンを用いている点を補っている点は評価できる。

2010/04/19

Asymmetric Rh(I)-Catalyzed Addition of MIDA Boronates to N-tert-Butanesulfinyl Aldimines

Katrien Brak and Jonathan A. Ellman
DOI: 10.1021/jo100318s

Ellmanグループといえばtert-ブチルスルフィニルイミンを用いたキラルアミン合成を精力的に研究している。本報告ではロジウム触媒を用いたアルケニル基のイミンへの付加反応であるが、アルケニル源を以前に報告していたKBF3RではなくMIDAを用いた所、収率の面で優れていることがわかったというものだ。
MIDA(N-methyliminodiacetic acid)は最近急速に広まっているホウ酸源である。特徴としてはカラム生成可能なほどの安定性を持ちながら、容易に調製可能な点であり、さらにアルドリッチ社から様々な誘導体が購入可能となりつつある。以前のカリウム塩をアルケニル源とした場合には、反応条件下において分解/二量体化などの副反応が進行してしまい低収率に終わるものがあった。そこで今回、より安定なMIDA誘導体を用いて検討を行うに至ったようだ。



反応はH2O/dioxaneの2層系で行われており、MIDAから徐々にホウ酸が放出されることで反応が進行することになる。このため、加水分解のおきにくい芳香族イミンでは高収率にて反応が進行するものの、容易に加水分解の起きる脂肪族イミンでは思うように反応が進行しないという欠点を有している。
触媒的不斉反応の進歩が著しい現代有機化学においても、Ellmanのジアステレオ選択的な反応は依然として有用度が高く、こういった手法をきちんと抑えておくことは大事。
ーー
参考)
Aldrichmica ActaのMIDAの総説(PDF)

2010/04/15

Calcium-Catalyzed Friedel-Crafts Alkylation at Room Temperature

Meike Niggemann, Prof. Dr. *, Matthias J. Meel, Dr.
10.1002/anie.200907227


フリーデルクラフツアルキル化反応はクロスカップリング等の反応が発達した現在でも、芳香族の官能基化においては頻用される反応である。古典的には塩化アルミニウムを用いて加熱する本反応も、触媒量の金属を用いたりやアルコールを基質とするなど様々な研究が進められている。
本報告では、カルシウム塩を用いてアリル、プロパルギルアルコールに対する電子豊富アレン類のフリーデルクラフツアルキル化に関する報告だ。これまで触媒としてさまざまな金属が用いられてきたが、カルシウムを用いているというのが一つ特徴的である。
条件検討の結果、Ca(NTf2)2を触媒とし、添加剤としてBu4NPF6を用いることで系中でより反応性の高いカチオン性錯体Ca(NTf2)PF6ができていると著者らは説明している。カチオン性錯体を利用することで触媒のルイス酸性を増大させ、ヒドロキシル基の脱離能を増強させているのだろう。



基質としては2級のアリル、プロパルギルアルコールに対して良好な収率でαー付加体を得ている。やはり芳香環を有する(ベンジル)アルコールの方が反応性が高いために反応時間、収率ともに高い傾向が出る。興味深いことに3級のアリル、プロパルギルアルコールに対しても良好な収率にて生成物を与えるが、2級アリルアルコールがαー体を与えていたのに対し、3級アリルアルコールはその嵩高さのためかγー体を与えている。芳香環の方の一般性もピロール、フランなどのヘテロ芳香族でも良好な収率で目的物を得ている。いずれの場合も室温にて進行していることも特徴である。
さて、本反応ではアンモニウムPF6を用いてCa(NTf2)PF6を系中で生成させていた。この場合はカルシウム金属を用いることをアピールする狙いもあって他の金属種を用いることを避けている面も見受けられるが、例えばCaCl2とAgPF6などを用いて、より反応性の高いと思われるCa(PF6)2を生成させる試みをした場合はどうなるのか気になるところだ。またなぜカルシウムがよいのかについて、定性的であっても議論をしてほしかったところである。

2010/04/14

N-Heterocyclic Carbene-Catalyzed Cascade Reaction Involving the Hydroacylation of Unactivated Alkynes

Akkattu T. Biju, Nathalie E. Wurz and Frank Glorius*
DOI: 10.1021/ja102130s

アルキンに対するヒドロアシル化はα、βー不飽和カルボニル化合物を与え、そこからさらなる官能基変換が可能なことから有用な反応と考えられる。しかしアルケンのヒドロアシル化と比べるとまだまだ一般的な反応ではない。
以前にNHC触媒を用いた極性転換の反応を紹介したように、Stetter反応を始めアシルアニオン等価体を活性多重結合に反応させる例が多いが、本反応は単純なアルキンに対する反応である。これは分子内で6員環を形成するようにアルキンを配置していることで可能となっている。
生成物は先に述べたようにα、βー不飽和ケトンになり、もし系中にアルデヒドが存在していればNHC触媒を用いてさらなる炭素ー炭素結合形成の可能性が出てくる。実際にアルデヒドを共存下に反応を行うと、極性転換したアルデヒドが求核種となってマイケル付加することでさらなる結合形成が起きている。この際にケトンとNHC触媒が反応することでβ位からの求核攻撃が起きる可能性もあるが、立体的に嵩高いNHC触媒を用いることで回避している。
またアルデヒド非存在下で末端アルキンを用いてしまうと、自己縮合が起こってしまうことからも立体的な因子の影響力が伺える。



基質としては末端アルキンを用いた場合にはその後のマイケル付加が進行し(しやすく)、内部アルキンを用いるとマイケル付加はいかない(いきにくい)と推測できる。これを解消できるような強い求核性を有するNHC触媒の開発と不斉化が考えられる発展形だが、他にもカスケード反応部分を広げていく方向性も考えられるだろう。

2010/04/13

An Alternative Approach to Aldol Reactions: Gold-Catalyzed Formation of Boron Enolates from Alkynes

Cindy Krner, Pavel Starkov and Tom D. Sheppard*
DOI: 10.1021/ja102129c

アルドール反応は今なお重要な炭素ー炭素結合形成反応の一つであり、研究が重点的にすすめられている分野の一つである。課題は2+1つあり、1)逆反応をどう抑えるか、2)エノール化しやすいアルデヒドと求核種をどう区別するか、3)環境調和性をどうするか、である。
最初の二つをまとめて解決したのがシリルエノールエーテルを用いる向山アルドールであり、反応終了後のアルコキシドをシリル基でトラップすることで逆反応を抑え、かつ事前に求核種を調整しておくことでアルデヒドとの区別を可能としている。しかしグリーンケミストリー、アトムエコノミーといった言葉が叫ばれる近年、3つめの課題にとりくむべく求核種を系中にて発生させる直接的な方法に関する研究が発展してきた。この場合にはやはり逆反応の制御も課題になるが、多くの場合塩基性条件下にてエノラートの生成を行うためにアルデヒドの自己縮合などの副反応が問題となりやすい。
本報告はフェニルアセチレンホウ酸誘導体と金触媒を用いることで、エノラートを温和な条件下に生じさせアルデヒドへ付加させている。さらに生じたアルドラートは速やかにホウ素にトラップされるために逆反応を防いでいる。



反応後の環状ホウ酸エステル誘導体はシリカゲル上で分解してしまうようであるが、酸化的開裂でフェノール誘導体へ、鈴木カップリングでビアリール誘導体へ、といった具合に未精製のまま高収率で変換可能となっている。本反応は金触媒というソフトなルイス酸による活性化を経ているため、アルデヒドとの区別を可能としており、期待通りに塩基性条件下においては適応例の少ない直鎖状アルデヒドに対しても高収率で変換後化合物を得ている。また1例のみであるが、触媒量のホウ酸を用いて分子間活性化によるエノレート生成にも成功しており、今後の応用が期待できる。
今後の課題としてはジアステレオ選択性が不十分なことがあげられる。エノラートはZ-体選択的に作れているので、付加工程における制御が大事になるだろう。また本反応は実質的にはαーアリールケトンのアルドール反応であり成績体の変換可能性に大きな可能性を秘めているが、原料のホウ酸誘導体の多様性が示されておらず他の部位に置換基を有する基質に適応できるかが気になる点である。アルデヒド共存下にエノラートを生成させている例もあるものの基本的にはエノラートを別途調整している点で冒頭で述べた直接的方法とは異なるが、ホウ素部位を他の官能基変換への足がかりとしている点が向山型とも異なるだろうし、何よりアルキンからエノラート種を生成させるというアイデアが素晴らしい。

2010/04/12

Cascade Cyclization To Produce a Series of Fused, Aromatic Molecules

William J. Behof, Dongchuan Wang, Weijun Niu and Christopher B. Gorman*
DOI: 10.1021/ol100656d

多縮環芳香族は電子材料を始めとして有用な有機化合物としてしられる。窒素含有の多縮環化合物はさらに、複数点で水素結合受容部位としても働き構造的にも興味深い化合物といえる。
本報告はこのような窒素含有分子を近接するニトリル基への求核攻撃を開始としてドミノ反応で構築するという報告だ。アイデアはシンプルだが、変わった構造の分子を高収率で取得することに成功している。



得た化合物の吸収波長スペクトルを取った所、予想通り縮環が多くなるほどレッドシフトを起こすことがわかった。また各分子の量子収率を測った所、分子右下のフェニル基が安定性に寄与しており、量子収率に影響を及ぼすことも明らかとなった。
ところでこういった分子種でもっとも興味深いのはその構造である。下図に示すように含窒素2環性化合物は2点で、3環性のものは4点で分子間水素結合をすることで二量体を結晶中では基本構造としている。この平面図ではわからないが、3次元的には2環性の方は垂直に近い形で重なりあっており、逆に3環性の方はほぼ平行である。さらにこの2量体を基本単位として積み重なり構造を取っているが、いずれの場合も階段状にスリップするようにスタックを組んでいる。知らなかったが特に後者のようなスリップした2Dスタッキングは置換5環性化合物には特徴的なものらしい。



本論文では合成した分子の構造を軽く調べたにすぎないが、詳しく物性を調べてみたり、もっと大きな分子の合成に適応したらどうなるだろうかと妄想の広がる報告だ。例えば、もう少し長くすることでカリックスアレンのような環状構造形成を1段階でできないか。またはイオンなどを両側から挟む形で水素結合を形成する錯体が作れれば、抗体抗原反応のような特異性を持った検出機構に応用できないだろうかなど、机上の空論は色々描けそうだ。

2010/04/09

Iron-Catalyzed C−C Bond Formation at α-Position of Aliphatic Amines

Naohiko Yoshikai†, Adam Mieczkowski, Arimasa Matsumoto, Laurean Ilies and Eiichi Nakamura*
DOI: 10.1021/ja100651t

本反応は脂肪族アミンのα位にアリール基をラジカル的に導入する反応である。鉄触媒を用いたPh2Znとヨードトルエンとのクロスカップリングを検討中に、溶媒として用いていたTHFの酸素α位にフェニル基が導入された副生成物を単離してきたことから本研究が始まったらしい。ヘテロ原子のα位はラジカルが生じやすく、この反応を検討するにあたっては様々な系が考えられるが、著者らが選択したのは脂肪族3級アミンのα位アリール化である。

想定した反応機構は、ヨードトルエンから還元的にアリールラジカルが生成しTHFの酸素α位から水素を引き抜く。生じたアルキルラジカルがフェニルアニオンと反応し、副生成物を与えるというものだ。この想定に沿って、分子内にヨードフェニル部位を有する基質を設計して、分子内ラジカル移動が起こるように反応を設計したところ、期待通りにアリールグリニャール試薬やジアリール亜鉛試薬との反応が進行することが明らかとなった。
基質としては環状アミンのみならず、非環状アミンでも良好な収率で生成物が得られているが、アニリン系の基質では低収率にとどまっている。



筆者らは重水素ラベル化実験を行って、1) 1,5-水素移動は分子内で起こること、2) 同位体効果が見られないことから、水素移動は律速段階ではないこと、を明らかにした。

このように副生成物の単離から始まる反応探索というのは、研究の醍醐味の一つだなと改めて感じた。これを読んで、亜鉛+ラジカル+副反応から始まったというキーワードから、富岡先生のジアルキル亜鉛のラジカル反応を思い出した。

参考)
富岡研究室

2010/04/08

Cationic Pd(II)-Catalyzed Fujiwara−Moritani Reactions at Room Temperature in Water

Takashi Nishikata and Bruce H. Lipshutz*
DOI: 10.1021/ol100331h

酸化的Heck反応、Fujiwara-Heck反応はC-H活性化を経て生じたパラジウム種とオレフィンとの反応であり現在のC-H活性化のブームよりもかなり早く(1969年)報告された反応だ。本報告は著者らが開発した有機分子を水中に溶かす可溶化剤PTSを用いて、酸化的Heck反応を行ったところ、通常必要な高温条件と酸の添加が不要であったという報告である。



本反応は残念なことに適応基質がかなり限定的であり、ダイレクティンググループとしてアセトアミドなどのアミド基を用いており、さらにアミドのメタ位にアルコキシ基が必須のようだ。そのため基質としては芳香環にさらにメチル基を有する基質以外は、アクリル酸誘導体のエステル部位を変えた物やアミド部位を変えたものが中心となってしまっており、基質の多様性に乏しいのは否めない。それでも上図を見てわかるように大きめの分子にも適用してみようという心意気は伝わってくる。
このように芳香環の電子供与能が重要になってくるのは、触媒に用いているパラジウム種が通常用いられている酢酸パラジウムではなく、カチオン性パラジウム錯体であることから、アルコキシ基による電子供与が炭素ーパラジウム結合形成に重要な役割をもっているからだろう。

おもしろいのは酢酸パラジウムを用いていないことから、パラジウムが炭素上に載る際に通常描かれる酢酸イオンによる水素引き抜きのメカニズムとは違う反応機構で進行していると考えられる点だ。論文には具体的な記述は見当たらないが、このあたりを詰めていくと他の反応の設計に役立ちそうな気がする。著者らはPTSの応用例を探しているだけで、そんなことには興味ないかもしれないけど。。

参考)
アルドリッチ:PTSの紹介

2010/04/07

Copper-Free Asymmetric Allylic Alkylation with Grignard Reagents

Olivier Jackowski, Dr., Alexandre Alexakis, Prof. Dr. *
10.1002/anie.201000577

アリルハライド等を用いたSn2’形式の置換反応は学部教科書にも載っているようなスタンダードな反応であり、触媒的不斉アルキル化反応はHoveydaらをはじめいくつかのグループが報告している。これらの反応では求核種として用いるグリニャール試薬、アルキル亜鉛、アルキルアルミニウムなどの種類を問わず、競合するSn2反応(α付加)を避けるために銅触媒を用いて、アルキル基の転位を経てから反応させることが多かった。
本論文は、銅触媒を用いずにNHC触媒と、グリニャール試薬を用いて触媒的不斉アルキル化がいきましたという報告である。論文の後半部では3置換オレフィンを基質とした4級炭素の構築にも成功している。



銅触媒がなくとも、グリニャール試薬自体は強塩基でもあり、NHCの強い配位性もあってアルキルマグネシウムーNHC錯体が生成するまではよいだろう。著者らの工夫は恐らくNHC触媒の設計にある。すなわち片方の窒素上の置換基をフェノール部位を有するベンジル基としたことで、フェノール部位がマグネシウムに配位し、錯体の安定化と強固な不斉空間の提供を実現しているように思える。
基質適応範囲は芳香族を有する基質、すなわち反応点がベンジル位になるときは高いγ選択性が得られるが、アルキル基の場合には選択性と特に不斉収率が低下する。しかしtert-ブチル基など極端に大きいアルキル基では逆にほぼ完璧な選択性と良好な不斉収率が得られているのがおもしろい。これは立体的に嵩高くなる3置換オレフィンを基質とした場合も同様の傾向が見られ、論文中にある想定環状遷移状態の図からも説明可能だ。またアルキルグリニャール試薬では収率は高いがアリールグリニャール試薬では収率は中程度に下がり、選択性も出ず、不斉収率も大幅に低下してしまうようだ。
反応全般を通じてコンバージョン(収率)はよいものの、選択性と不斉収率にはまだまだ改善の余地があるように思える。提唱されている遷移状態はありえる形式のように思えるのでこれを基に推論すると、マグネシウム方向へ臭素原子の方から向かっていくような形で基質が接近することがγ付加には重要だ。γ位が嵩高ければよい結果を与えていたので、単純にポケットの入り口を狭くするアプローチが考えられ、それにはフェノールをつけた芳香環のパラ位に置換基を導入するのがよいように思える。

2010/04/06

(2-Nitrophenyl)acetyl: A New, Selectively Removable Hydroxyl Protecting Group

Katalin Daragics and Pter Fgedi*
DOI: 10.1021/ol100562f

他の保護基を除去する条件で安定で、異なる温和な条件にて除去可能な保護基の開発とそのような知識のストックは、合成戦略を考える上で重要である。本論文はアルコールのアシル基系保護基でありながら、亜鉛粉末による還元的条件にて除去可能という保護基を報告している。
そのコンセプトは下図のように、オルト置換のニトロ基を還元することで分子内ラクタム化が起こり、アルコールが遊離する。非常にうまく設計されている。因みに亜鉛粉末だけでは反応が遅く、塩化アンモニウムだけでは進行しないとのこと。



保護基をつけるには、酸クロライド、酸無水物やエステルによるアシル化、カルボン酸との縮合、光延反応など通常エステルを合成する方法論が使用可能であり、いずれも高収率で目的物を得ている。
糖類を用いて選択的脱保護の検討を、2,3,4,6位に(2-ニトロフェニル)アセチル基をつけた各々の基質で行っている。ベンジル、ベンゾイル、アセチル、Fmoc、MPM、シリル基など様々な保護基に影響なく選択的に除去可能となっている(アセチル基は転位が見られ若干収率が低いが、これは基質由来の性質)。
また2位にアセチル基を導入した糖供与体を用いたグリコシデーションは、アセチル基による隣接期関与によりβ体が得られるが、本保護基を用いた場合にもβ体が得られており、アセチル基同様の隣接期関与を介していると示唆される。

このようなシンプルな保護基の設計は見てしまえばなるほどと思うけれど、実際に自分で思いつくのは難しい。分子をデザインする力というのは有機化学者にとっては大事な能力で、勉強になりますね。

2010/04/05

Highly Diastereoselective Preparation of Homoallylic Alcohols Containing Two Contiguous Quaternary Stereocenters

Bishnu Dutta, Noga Gilboa and Ilan Marek*
DOI: 10.1021/ja101371x

4級炭素や4置換炭素の立体選択的な構築反応は、中心炭素周りの立体的な混雑さと、水素原子よりも大きな原子群間の違いを認識する必要があるため難しい反応である。
本論文はこのように立体的に込み入った隣接4級炭素ー4置換炭素をジアステレオ選択的に構築する反応を報告している。

筆者らの作業仮説は下図のようになる。すなわち末端アルキンに対して、アルキル銅試薬がシス付加をすることでビニル銅試薬を生成、ここにジアルキル亜鉛試薬とケトンを添加することで、亜鉛カルベノイドとビニル銅からアリル亜鉛試薬が生成し、これがケトンへと付加することで望みの成績体を与えるという物だ。



このメカニズムにはいくつかの課題がある。亜鉛試薬とケトンを添加する際に、ビニル銅や亜鉛試薬がケトンへと反応せずに、亜鉛カルベノイドが生成し、ビニル銅と反応することで立体を保持したアリル亜鉛種が生成すること。続いて生成したアリル亜鉛種が、立体を保持したまま、立体選択的にケトンへと付加することだ。
実際にアセトフェノンとエチルグリニャール試薬を用いて反応を行ってみると、高いジアステレオ選択性にて目的物が得られ、この立体選択性は環状遷移状態によって説明ができた。また反応を−50℃よりも高温で行った場合には選択性が低下したことから、著者らはアリル亜鉛の金属キレトロピー平衡によって立体が混じったことによると推察している。またより低温では反応の進行が極めて遅かったようである。
アセトフェノンよりも嵩高いケトンや、エチル基よりも大きいグリニャール試薬を用いた場合には選択性が10:1程度にまで低下してしまうのが惜しいが、エステルを有する基質やヘテロ芳香族、エノンなどにも適応可能であり、官能基受容性はまずまずといえる。

様々な試薬を次々と添加していくため、少し反応操作が煩雑かなとも感じるが、反応の特性上仕方がないだろう。現状ではこういった4級炭素の立体選択構築反応は選択肢が乏しいので、今後情報が蓄積されてくれば産業的にも応用が広がっていくのではないだろうか。

2010/04/02

Chiral Boronate Derivatives via Catalytic Enantioselective Conjugate Addition of Grignard Reagents

Jack Chang Hung Lee and Dennis G. Hall*
DOI: 10.1021/ja9104057

近年不斉ボリレーション反応の報告がいくつかなされているが、どれもホウ素求核剤をマイケル付加させる反応であった。一方で本反応はβーホウ素置換の不飽和カルボニル化合物に対する炭素求核剤の付加というアプローチをとっている。

反応としては銅触媒と不斉リガンド存在下、グリニャール試薬を作用させることでキラルキュープレート求核種がマイケル付加する。この際、ホウ酸エステル部位がピナコールボランでは反応が上手く進行しなかったために、ナフタレンジアミン誘導体を合成して用いている。求核性の劣るアリール求核剤では収率が下がる傾向にあるが、立体的に嵩高い求核種を除くと不斉収率はいずれも良好だ。



欠点としては、ナフタレンジアミン誘導体は一旦ピナコールボラン誘導体へと変換した上でアルコールなりトリフルオロボレートへと導かなければならない点だろう。こういった基質を触媒に対して最適化した系にはよくあることだが、少し残念だ。
また目的物の一つとして掲げているキラルアルコールは、実はβーケトエステルの野依還元で合成可能な例が多いような気がするので、できればβー二置換基質での適応を目指したいことろだろう。

2010/04/01

Rhodium-Catalyzed C−C Bond Cleavage: Construction of Acyclic Methyl Substituted Quaternary Stereogenic Centers

Tobias Seiser and Nicolai Cramer*
DOI: 10.1021/ja101469t

パラジウムなどの遷移金属触媒を用いたC-H活性化反応は近年、進展著しい研究分野である。一方で「C-C活性化」の範疇に入る反応はまだまだ例が少ない。
求核種のケトンへの付加は逆反応の存在を考えなければならない。本反応はこのカルビノールからケトンと求核種への逆反応を逆手に取った反応といえる。すなわちシクロブタンという立体的に歪んだカルビノールを用いることで開環逆反応が進みやすいように反応を設計している。

ロジウムヒドロキシル錯体とDTBM-Segphosからなるキラル錯体を用いて、対称シクロブタンの開環非対称化反応によりロジウムエノラートを生じ、プロトン源として水を添加することで触媒サイクルを回転させている。1位に芳香環がある基質ではアリール基の転位が起こる場合があるようだが、1位ーアルキル、アルケニル、アリールと各種置換様式に対応可能なようで、収率は中程度から良好、不斉収率は総じて非常に高い。



本報告は上述したように綺麗に設計されており、不斉収率が出るべくして出ているなと感じた。また本反応により得られる化合物はカルボニルβ位に4級炭素を有しており、例えば代替手段として考えられる、β、βー二置換基質へのマイケル付加は難易度が高いことから魅力的な反応であると言えるだろう。