Cindy Krner, Pavel Starkov and Tom D. Sheppard*
DOI: 10.1021/ja102129c
アルドール反応は今なお重要な炭素ー炭素結合形成反応の一つであり、研究が重点的にすすめられている分野の一つである。課題は2+1つあり、1)逆反応をどう抑えるか、2)エノール化しやすいアルデヒドと求核種をどう区別するか、3)環境調和性をどうするか、である。
最初の二つをまとめて解決したのがシリルエノールエーテルを用いる向山アルドールであり、反応終了後のアルコキシドをシリル基でトラップすることで逆反応を抑え、かつ事前に求核種を調整しておくことでアルデヒドとの区別を可能としている。しかしグリーンケミストリー、アトムエコノミーといった言葉が叫ばれる近年、3つめの課題にとりくむべく求核種を系中にて発生させる直接的な方法に関する研究が発展してきた。この場合にはやはり逆反応の制御も課題になるが、多くの場合塩基性条件下にてエノラートの生成を行うためにアルデヒドの自己縮合などの副反応が問題となりやすい。
本報告はフェニルアセチレンホウ酸誘導体と金触媒を用いることで、エノラートを温和な条件下に生じさせアルデヒドへ付加させている。さらに生じたアルドラートは速やかにホウ素にトラップされるために逆反応を防いでいる。
反応後の環状ホウ酸エステル誘導体はシリカゲル上で分解してしまうようであるが、酸化的開裂でフェノール誘導体へ、鈴木カップリングでビアリール誘導体へ、といった具合に未精製のまま高収率で変換可能となっている。本反応は金触媒というソフトなルイス酸による活性化を経ているため、アルデヒドとの区別を可能としており、期待通りに塩基性条件下においては適応例の少ない直鎖状アルデヒドに対しても高収率で変換後化合物を得ている。また1例のみであるが、触媒量のホウ酸を用いて分子間活性化によるエノレート生成にも成功しており、今後の応用が期待できる。
今後の課題としてはジアステレオ選択性が不十分なことがあげられる。エノラートはZ-体選択的に作れているので、付加工程における制御が大事になるだろう。また本反応は実質的にはαーアリールケトンのアルドール反応であり成績体の変換可能性に大きな可能性を秘めているが、原料のホウ酸誘導体の多様性が示されておらず他の部位に置換基を有する基質に適応できるかが気になる点である。アルデヒド共存下にエノラートを生成させている例もあるものの基本的にはエノラートを別途調整している点で冒頭で述べた直接的方法とは異なるが、ホウ素部位を他の官能基変換への足がかりとしている点が向山型とも異なるだろうし、何よりアルキンからエノラート種を生成させるというアイデアが素晴らしい。
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