Olivier Jackowski, Dr., Alexandre Alexakis, Prof. Dr. *
10.1002/anie.201000577
アリルハライド等を用いたSn2’形式の置換反応は学部教科書にも載っているようなスタンダードな反応であり、触媒的不斉アルキル化反応はHoveydaらをはじめいくつかのグループが報告している。これらの反応では求核種として用いるグリニャール試薬、アルキル亜鉛、アルキルアルミニウムなどの種類を問わず、競合するSn2反応(α付加)を避けるために銅触媒を用いて、アルキル基の転位を経てから反応させることが多かった。
本論文は、銅触媒を用いずにNHC触媒と、グリニャール試薬を用いて触媒的不斉アルキル化がいきましたという報告である。論文の後半部では3置換オレフィンを基質とした4級炭素の構築にも成功している。
銅触媒がなくとも、グリニャール試薬自体は強塩基でもあり、NHCの強い配位性もあってアルキルマグネシウムーNHC錯体が生成するまではよいだろう。著者らの工夫は恐らくNHC触媒の設計にある。すなわち片方の窒素上の置換基をフェノール部位を有するベンジル基としたことで、フェノール部位がマグネシウムに配位し、錯体の安定化と強固な不斉空間の提供を実現しているように思える。
基質適応範囲は芳香族を有する基質、すなわち反応点がベンジル位になるときは高いγ選択性が得られるが、アルキル基の場合には選択性と特に不斉収率が低下する。しかしtert-ブチル基など極端に大きいアルキル基では逆にほぼ完璧な選択性と良好な不斉収率が得られているのがおもしろい。これは立体的に嵩高くなる3置換オレフィンを基質とした場合も同様の傾向が見られ、論文中にある想定環状遷移状態の図からも説明可能だ。またアルキルグリニャール試薬では収率は高いがアリールグリニャール試薬では収率は中程度に下がり、選択性も出ず、不斉収率も大幅に低下してしまうようだ。
反応全般を通じてコンバージョン(収率)はよいものの、選択性と不斉収率にはまだまだ改善の余地があるように思える。提唱されている遷移状態はありえる形式のように思えるのでこれを基に推論すると、マグネシウム方向へ臭素原子の方から向かっていくような形で基質が接近することがγ付加には重要だ。γ位が嵩高ければよい結果を与えていたので、単純にポケットの入り口を狭くするアプローチが考えられ、それにはフェノールをつけた芳香環のパラ位に置換基を導入するのがよいように思える。
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