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2011/02/25

2-Pyridyl Sulfoxide: A Versatile and Removable Directing Group

Alfonso García-Rubia, Dr. M. Ángeles Fernández-Ibáñez, Dr. Ramón Gómez Arrayás, Prof. Dr. Juan Carlos Carretero
Chem. Eur. J., DOI: 10.1002/chem.201003633

酸化的Heck反応、Fujiwara-Heck反応はパラジウム触媒によるC-H活性化に続いてオレフィンへの挿入を行う反応で、アトムエコノミーが求められる近年において注目を集めている反応のひとつだ。芳香族C-H結合の活性化において望みの位置で反応を行わせるために、2-ピリジル基やアミド基などの配向基を用いる手法が広く利用されている。しかし、反応生成物の有用性を考えると容易に除去可能な配向基や、様々な官能基へと変換可能な配向基の開発が望ましい。本論文ではこのような配向基として2-ピリジンスルフィニル基の利用を報告している。

著者らはイミン上の保護基として2-ピリジンスルホニル基を導入することで触媒的不斉反応を実現したり、インドールに2-ピリジンスルホニル基を導入することで配向基としてインドールのホモカップリングを報告している。このような化学の発展形として、ピリジンスルホニル基の芳香族上の配向基としての利用を想起するに至った。そこでアクリル酸誘導体との酸化的Heck反応の検討を開始した所、2-ピリジンスルホニル基では反応性が低いものの、酸化段階を落としたスルホキシドおよびスルフィドでは反応性が向上した。スルフィドを用いた場合にはスルホキシドへと酸化されてしまった生成物も得られてきたものの、スルホキシドを配向基とした場合にはスルホンへの酸化は観測されず、Heck成績体が高収率で得られるのみであった。また2-ピリジルをフェニル、メチル、4-ピリジルへと変換すると反応はスルホキシドの酸化が起きるのみであることから、2-ピリジル置換基が配向基として作用していることが示唆された。


本方法論はアクリル酸エステル、ビニルスルホンなどの活性オレフィンのみならず、酸化剤を変える必要があるもののスチレン誘導体にも適応可能だ。芳香環状のメタ位に置換基がある場合は障害のない方のオルト位選択的に反応が進行する。また酸化剤とオレフィンの当量を増やすことで、二置換体を得ることも可能だ。当初の想定通り、2-ピリジンスルフィニル基は酸化条件でスルホンに、還元条件でスルフィドにすることが可能だ。還元条件を選ぶことで、オレフィンの還元を伴いながらスルフィドへと変換することもできる。さらにnBuLiを低温で作用させることで配向基を除去することも可能だ。

全体的にもう少し収率が向上する方が好ましいが、除去可能/変換可能な配向基というコンセプトを示すことには成功している。本条件では酸化的条件でありながら、酸化されやすい硫黄原子を用いてみた点が一つのポイントだろう。

2010/08/26

CCl3CN: A Crucial Promoter of mCPBA-Mediated Direct Ether Oxidation

Shin Kamijo, Shoko Matsumura and Masayuki Inoue*
Org. Lett., DOI: 10.1021/ol1018079

カルボニル基はグリニャール反応や、アルドール反応によるα位の官能基化など、各種変換に有用であるが、その反応性の高さゆえに合成途中では保護基を用いる必要がある場合も多い。保護基として頻用されるのはアセタールであるが、酸性条件に弱いことから、合成途中でたびたび問題となる。もし還元体アルコールのエーテル体がカルボニル基の保護基として用いることができれば、安定性は問題なく非常に魅力的だ。本論文ではmCPBAを用いてこのような変換を実現している。

著者らはシクロドデシルメチルエーテルを基質として条件検討を行った。アセトリトリル中ではほぼ原料回収だったのに対し、2当量のトリクロロアセトニトリルを添加すると収率が劇的に向上した。なぜトリクロロアセトニトリルを用いたかの記載はないものの、クロロホルム溶媒でも10%弱の目的物が得られていること、およびmCPBAは通常ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒を用いること、などがヒントとなった可能性はあるだろう。結局、添加剤を溶媒量にまで増量し混合溶媒系とすることで最適条件としている。本反応は、1) ラジカル捕捉剤により反応が妨げられること、2) ラジカル開始剤を添加剤とした場合も低収率ながら反応が進行すること、からラジカル機構を取っていることが示唆される。著者らはmCPBAのトリクロロアセトニトリルへの付加、続く酸素ー酸素結合の開裂によるラジカルの生成という反応機構を示している。



基質一般性としては、メチルエーテルだけでなく様々なエーテルに適応可能であり、アセトキシ基など他の官能基存在下でもアルキルエーテル選択的に酸化が進んでいる。気になる点は用いられている基質が環状ケトンのみであること、および大員環やカルボニル基が比較的込み入った基質が多いことだろう。mCPBAを過剰に用いているものの、シクロヘキサンジオール誘導体を用いた場合には、ケトンが生成した後にBaeyer-Villiger反応も進行してしまっていることからも、2つの反応の制御が難しい可能性も考えられる。

いずれにせよ、反応条件を変えることで頻用されている試薬の新たな反応性を見いだしたという点で興味深い論文といえるだろう。

2010/08/25

Aryl(sulfonyl)amino Group

Yuzo Kato, Dinh Hoang Yen, Yasuhiro Fukudome, Takeshi Hata and Hirokazu Urabe*
Org. Lett., DOI:10.1021/ol101541p

求核置換反応の脱離基を考えた場合に、酸素官能基と比べると窒素官能基の存在感は薄い。これはそもそも脱離能が低いといった理由に加え、本論文の導入部にも記載されているように窒素官能基そのものを求核置換反応により導入していることが多いこともあるだろう。それでも窒素官能基を足がかりに他の官能基を導入した後に、窒素部位を変換したいこともあるだろう。本論文は、そういった場合に使用できうる、窒素官能基を脱離基とした分子内求核置換反応に関する報告だ。

著者らは電子吸引性から想定される脱離能と官能基の安定性を考えて、N-アリール-N-スルホニルアミド、すなわちアニリンのスルホンアミド誘導体を脱離基として用いることとした。検討の結果、DMF中、無機塩基存在下に150度に加熱することで望みの環化体が得られることを見いだした。求核部位としてはスルホンアミド、フェノール、カルボン酸、さらにマロノニトリルやビススルホンなどの活性メチレン化合物を用いることが可能となっている。反応はアニリン部位もo-ニトロフェニルを用いて電子吸引性を向上させた方が反応が円滑に進行するものの、窒素の保護基として用いられやすいPMPを用いても反応は進行するようだ。



着眼点はなかなかおもしろく、例えばo-アニシジンのメトキシ基を起点としてなんらかの変換を行った後に、アニリンのTs化、続いて置換反応を行うというのは考えられなくもない。一方でスルホンアミドからの利用は一度アリール化を経ることを考えると使いにくいように思える。理想的には外部ルイス酸などを添加してでも、一つの置換基のみで脱離させたいところ。その際には電子吸引性だけを上げても、ジニトロベンゼンスルホニル基のように窒素から外れやすいだけになってしまいかねないので、バランスが難しそうではある。

2010/04/06

(2-Nitrophenyl)acetyl: A New, Selectively Removable Hydroxyl Protecting Group

Katalin Daragics and Pter Fgedi*
DOI: 10.1021/ol100562f

他の保護基を除去する条件で安定で、異なる温和な条件にて除去可能な保護基の開発とそのような知識のストックは、合成戦略を考える上で重要である。本論文はアルコールのアシル基系保護基でありながら、亜鉛粉末による還元的条件にて除去可能という保護基を報告している。
そのコンセプトは下図のように、オルト置換のニトロ基を還元することで分子内ラクタム化が起こり、アルコールが遊離する。非常にうまく設計されている。因みに亜鉛粉末だけでは反応が遅く、塩化アンモニウムだけでは進行しないとのこと。



保護基をつけるには、酸クロライド、酸無水物やエステルによるアシル化、カルボン酸との縮合、光延反応など通常エステルを合成する方法論が使用可能であり、いずれも高収率で目的物を得ている。
糖類を用いて選択的脱保護の検討を、2,3,4,6位に(2-ニトロフェニル)アセチル基をつけた各々の基質で行っている。ベンジル、ベンゾイル、アセチル、Fmoc、MPM、シリル基など様々な保護基に影響なく選択的に除去可能となっている(アセチル基は転位が見られ若干収率が低いが、これは基質由来の性質)。
また2位にアセチル基を導入した糖供与体を用いたグリコシデーションは、アセチル基による隣接期関与によりβ体が得られるが、本保護基を用いた場合にもβ体が得られており、アセチル基同様の隣接期関与を介していると示唆される。

このようなシンプルな保護基の設計は見てしまえばなるほどと思うけれど、実際に自分で思いつくのは難しい。分子をデザインする力というのは有機化学者にとっては大事な能力で、勉強になりますね。

2010/03/17

Selective Deprotection of Methanesulfonamides to Amines

Hiroyuki Naito, Takeshi Hata and Hirokazu Urabe
DOI: 10.1021/ol100086j

Ms(メタンスルホニル)、Ts(p−トルエンスルホニル)、Bs(ベンゼンスルホニル)、Tf(トリフルオロメタンスルホニル)などのスルホンアミドは酸性、塩基性条件ともに安定であるため、アミンの保護基として用いられることもある。しかし、その安定性ゆえにその除去にはバーチ条件やHBr/AcOHの還流条件など激しい条件が必要なことが多く、脱保護工程が問題となることが多い。そのため、より温和な条件にて除去可能なSES(トリメチルシリルエタンスルホニル)、Ns(ニトロベンゼンスルホニル)、2−ピリジンスルホニル基などの改良型スルホニル基も開発されてきた。
本論文はn-BuLi(or LDA)/O2(or air)という条件でMs基の除去を行うという報告であり、Ms基末端のC−H結合を反応に用いることから、末端水素の存在しないBs基やTf基、またはカーバメート型のBoc基存在下に選択的にMs基のみを除去することが可能になっている。ただし、アミドN-Hの活性プロトンが存在してしまうと塩基により真っ先に引き抜かれてしまうため、2級アミンに限られている。



合成計画上で、複数のスルホニル基を使い分けることはほとんどないので、使う時がくるかどうかは不明であるが、コンセプトがおもしろかったので紹介してみた。
余談だが、世の中にはTs-イミンを用いたマンニッヒ型反応が数多く存在するが、反応物から保護基(活性化基)を除去している論文は極めて少ない。こういう外しにくい保護基を使った場合は、きれいに(エピマー化等が起きずに、収率よく)外せることを示すのが、誠意ある研究っていうのじゃないだろうかと思うよ。

2010/03/07

PROTECTION OF DIOLS WITH 4-(tert-BUTYLDIMETHYLSILYLOXY)BENZYLIDENE ACETAL AND ITS DEPROTECTION

Hiroyuki Osajima, Hideto Fujiwara, Kentaro Okano, Hidetoshi Tokuyama, and Tohru Fukuyama
Organic Syntheses, Vol. 86, p.130 (2009).

保護基というのは最終的にはいらないものなので、できることなら使いたくないものだ。しかし、多段階の合成を行ううえではそうも言っていられないことも多い。
保護基にもとめられるものは、1)容易に保護可能、2)種々条件に安定、3)容易に除去可能、と矛盾を含んだものである。また同じような保護基でも酸性、塩基性、酸化的、還元的、と色々な条件で除去可能なものがチョイス可能であると合成戦略を立てる上では嬉しい。

本論分では、1,2-ジオールの保護基として、塩基性条件にて除去可能なベンジリデンアセタールを報告している。ベンジリデンアセタールは通常プロトン酸、ルイス酸条件にて除去される。またp-メトキシベンジリデンアセタールはDDQを用いた緩和な酸化条件にて除去可能である。本報告ではこれらに続いて、第3の選択肢としてのベンジリデンアセタールについて記していることになる。



脱保護条件の温和性や、保護・脱保護工程での収率は高いものの、試薬の合成に量論量のTBS-Clが必要な点など、「グリーン」さは足りないかもしれない。いずれにせよ、頭の片隅にいれておくとよいんじゃないだろうか。