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2010/04/22

Direct Asymmetric Aldol Reaction of 5H-Oxazol-4-ones with Aldehydes Catalyzed by Chiral Guanidines

Tomonori Misaki*, Gouta Takimoto and Takashi Sugimura*
DOI: 10.1021/ja101216x

アルデヒドやケトンと比べるとエステルやアミドといったカルボン酸誘導体はα位のpKaが高く、その触媒量の塩基によるエノラートの生成は未だ難関の一つといえる。近年いくつかのエステルと等酸化状態にあるエノラートの利用が報告されてきているが、多くは向山型の求核種を事前調製する反応である。このようなエノラート生成のしにくさに加え、α位が二置換の基質では立体的な嵩高さから求核能が低く、さらにアルドール反応においては炭素ー炭素結合形成後でもレトロ反応が問題となる。

本報告ではαーヒドロキシルエステルとして、5-H-オキサゾール-1-オンという環状基質を用いることでα位の嵩高さを軽減し、環状グアニジン型分子触媒存在下でアルドール反応が高い収率、不斉収率で進行することを見いだした。実際の反応においては生成物のアルドール体がシリカゲルによる精製中でレトロ反応を起こしてしまうため、反応後にヒドロキシル基をアセチル基で保護している。



用いている触媒は、一見したところプロリンを母骨格としたJorgensen型の触媒を基に、エステルα位を脱プロトン化できるようにグアニジンにすることで塩基性をあげるようなデザインをしているように感じられる。触媒中のヒドロキシル基による水素結合が重要であることは対象実験から示されており、触媒の構造を嵩高くすることでジアステレオ選択性があがる傾向にあるようだ。

基質としては種々の脂肪族アルデヒドに対して適応可能であり、自己縮合を起こしやすい直鎖型の基質もジアステレ選択性に難があるものの良好な収率、不斉収率で目的物を得ることに成功している。一方で芳香族アルデヒドについてはベンズアルデヒド一例のみであるが、反応がやや遅いことを除けば、収率、選択性ともに問題ない。

触媒の設計も見事だが、用いている基質も珍しいと感じた。というのも本文中にも書いてあるが、アミノ酸を環状に縛ったアズラクトンは近年いろいろな反応の求核種として用いられているものの、それを逆にした5-H-オキサゾール-1-オンは珍しいからだ。著者らによるとTrostらがAAA反応に用いたことがあるが、それ以来使われていないとのこと。魅力がないから他では使われてなかったのか、単に酸素と窒素を逆転させるというシンプルな発想がなかったのか、どちらかわからないがこういう発想は大事にしていきたいもの。

2010/04/13

An Alternative Approach to Aldol Reactions: Gold-Catalyzed Formation of Boron Enolates from Alkynes

Cindy Krner, Pavel Starkov and Tom D. Sheppard*
DOI: 10.1021/ja102129c

アルドール反応は今なお重要な炭素ー炭素結合形成反応の一つであり、研究が重点的にすすめられている分野の一つである。課題は2+1つあり、1)逆反応をどう抑えるか、2)エノール化しやすいアルデヒドと求核種をどう区別するか、3)環境調和性をどうするか、である。
最初の二つをまとめて解決したのがシリルエノールエーテルを用いる向山アルドールであり、反応終了後のアルコキシドをシリル基でトラップすることで逆反応を抑え、かつ事前に求核種を調整しておくことでアルデヒドとの区別を可能としている。しかしグリーンケミストリー、アトムエコノミーといった言葉が叫ばれる近年、3つめの課題にとりくむべく求核種を系中にて発生させる直接的な方法に関する研究が発展してきた。この場合にはやはり逆反応の制御も課題になるが、多くの場合塩基性条件下にてエノラートの生成を行うためにアルデヒドの自己縮合などの副反応が問題となりやすい。
本報告はフェニルアセチレンホウ酸誘導体と金触媒を用いることで、エノラートを温和な条件下に生じさせアルデヒドへ付加させている。さらに生じたアルドラートは速やかにホウ素にトラップされるために逆反応を防いでいる。



反応後の環状ホウ酸エステル誘導体はシリカゲル上で分解してしまうようであるが、酸化的開裂でフェノール誘導体へ、鈴木カップリングでビアリール誘導体へ、といった具合に未精製のまま高収率で変換可能となっている。本反応は金触媒というソフトなルイス酸による活性化を経ているため、アルデヒドとの区別を可能としており、期待通りに塩基性条件下においては適応例の少ない直鎖状アルデヒドに対しても高収率で変換後化合物を得ている。また1例のみであるが、触媒量のホウ酸を用いて分子間活性化によるエノレート生成にも成功しており、今後の応用が期待できる。
今後の課題としてはジアステレオ選択性が不十分なことがあげられる。エノラートはZ-体選択的に作れているので、付加工程における制御が大事になるだろう。また本反応は実質的にはαーアリールケトンのアルドール反応であり成績体の変換可能性に大きな可能性を秘めているが、原料のホウ酸誘導体の多様性が示されておらず他の部位に置換基を有する基質に適応できるかが気になる点である。アルデヒド共存下にエノラートを生成させている例もあるものの基本的にはエノラートを別途調整している点で冒頭で述べた直接的方法とは異なるが、ホウ素部位を他の官能基変換への足がかりとしている点が向山型とも異なるだろうし、何よりアルキンからエノラート種を生成させるというアイデアが素晴らしい。

2010/03/16

A Triple-Aldol Cascade Reaction for the Rapid Assembly of Polyketides

Brian J. Albert, Dr., Hisashi Yamamoto, Prof. Dr.
10.1002/anie.200907076

ポリケタイドはシンプルな構造ながら、様々な生理活性物質を有する化合物群であり、またアルドール反応生成物から得ることが可能であるため、合成化学者のターゲットとしての地位を築いてきた。
しかしながら、ボトムアップアプローチによる合成法では、例えばEvansアルドール後に、キラル補助基をアルデヒドへと変換し、再びアルドール反応を行うなど、多段階の変換工程が必要となる場合が多く、効率的とは呼べないものが多かった。
本報告では山本先生らが最近力を入れているトリストリメチルシリル基を用いたアルデヒドエノラートの向山型アルドール反応において、連続的なアルドール付加を経るトリオール/テトラオールのジアステレオ選択的合成法について述べられている。
以前の報告より2回目のアルドール反応は進行することが知られていたが、今回添加剤の検討によりヨードベンゼンを添加することで3回目の付加が進行することを見いだした。
またα位、またはβ位にキラル炭素を有するアルデヒドを用いた場合には高いジアステレオ選択性にて成績体を得ることが可能である。さらにアルドール反応後に、ワンポットにてグリニャール試薬を添加することでジアステレオ選択的にテトラオールを得ている。



あまり類似例を見ないヨウ化物化合物の特異的な反応促進効果について、筆者らはヨウ素原子のシリコン原子へのルイス塩基性によるものだとMS測定により推測している。ヨードベンゼンを用いた場合には10 mol%必要であるが、ヨードアセチレン誘導体を用いた場合には0.1 mol%にまで低減可能性を示すなど、さらなる反応機構解析と条件検討が期待される部分だ。



本反応はシリルエノールエーテルを利用しており、一見すると環境調和性を求められる現代化学に逆行しているようにも見えるが、短工程かつ低触媒量にて多段階反応が進行することから有用な反応のように思える。(因みに収率が低いと感じる人もいるかもしれないけれど、生成する結合数を考えるとこの収率は相当高い。)
今後の展開としては、プロピオンアルデヒド由来のエノールエーテルを使った場合の反応が挙げられるが、個人的にはケイ素ーヨウ素の相互作用というコンセプトで新しい反応性が活かせる方法論の創出に期待したい。