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2011/02/25

2-Pyridyl Sulfoxide: A Versatile and Removable Directing Group

Alfonso García-Rubia, Dr. M. Ángeles Fernández-Ibáñez, Dr. Ramón Gómez Arrayás, Prof. Dr. Juan Carlos Carretero
Chem. Eur. J., DOI: 10.1002/chem.201003633

酸化的Heck反応、Fujiwara-Heck反応はパラジウム触媒によるC-H活性化に続いてオレフィンへの挿入を行う反応で、アトムエコノミーが求められる近年において注目を集めている反応のひとつだ。芳香族C-H結合の活性化において望みの位置で反応を行わせるために、2-ピリジル基やアミド基などの配向基を用いる手法が広く利用されている。しかし、反応生成物の有用性を考えると容易に除去可能な配向基や、様々な官能基へと変換可能な配向基の開発が望ましい。本論文ではこのような配向基として2-ピリジンスルフィニル基の利用を報告している。

著者らはイミン上の保護基として2-ピリジンスルホニル基を導入することで触媒的不斉反応を実現したり、インドールに2-ピリジンスルホニル基を導入することで配向基としてインドールのホモカップリングを報告している。このような化学の発展形として、ピリジンスルホニル基の芳香族上の配向基としての利用を想起するに至った。そこでアクリル酸誘導体との酸化的Heck反応の検討を開始した所、2-ピリジンスルホニル基では反応性が低いものの、酸化段階を落としたスルホキシドおよびスルフィドでは反応性が向上した。スルフィドを用いた場合にはスルホキシドへと酸化されてしまった生成物も得られてきたものの、スルホキシドを配向基とした場合にはスルホンへの酸化は観測されず、Heck成績体が高収率で得られるのみであった。また2-ピリジルをフェニル、メチル、4-ピリジルへと変換すると反応はスルホキシドの酸化が起きるのみであることから、2-ピリジル置換基が配向基として作用していることが示唆された。


本方法論はアクリル酸エステル、ビニルスルホンなどの活性オレフィンのみならず、酸化剤を変える必要があるもののスチレン誘導体にも適応可能だ。芳香環状のメタ位に置換基がある場合は障害のない方のオルト位選択的に反応が進行する。また酸化剤とオレフィンの当量を増やすことで、二置換体を得ることも可能だ。当初の想定通り、2-ピリジンスルフィニル基は酸化条件でスルホンに、還元条件でスルフィドにすることが可能だ。還元条件を選ぶことで、オレフィンの還元を伴いながらスルフィドへと変換することもできる。さらにnBuLiを低温で作用させることで配向基を除去することも可能だ。

全体的にもう少し収率が向上する方が好ましいが、除去可能/変換可能な配向基というコンセプトを示すことには成功している。本条件では酸化的条件でありながら、酸化されやすい硫黄原子を用いてみた点が一つのポイントだろう。

2010/12/29

Regioselectivity-Switchable Hydroarylation of Styrenes

Ke Gao and Naohiko Yoshikai*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja108809u

C-H活性化によるアリール基のスチレンへの付加では、ルイス酸存在化によるFriedel-Crafts型のベンジル位への付加と、Heck型の末端への付加がある。前者では電子豊富な基質が通常用いられ、後者ではピリジル基やアミド基などの配向基を利用したものや多置換フルオロベンゼンなどの電子不足型の基質が用いられる。従って、形式的には2つの反応形式が存在するものの、同一の基質から二つの生成物を作り分ける例は少ないのが実状となっている。本報告ではピリジンを配向基とした基質を用いて、触媒を変えることにより二つの生成物を作り分けるという報告だ。

著者らは既にコバルト触媒を用いた内部アルキンに対するアリール基の付加反応を報告しており、本研究はその発展として開始された。実際に以前の系と類似の反応条件で反応を行った所、分岐型の生成物を高い選択性で得た。検討の途中、配位子をホスフィン型からNHC型へと変更した所、直鎖型の生成物選択的に得られることを見出した。


さまざまな基質へと反応を展開した所、電子供与基を有する基質では位置選択性は高いものの、電子供与基を有する基質では選択性の低下が見られ、トリフルオロメチル基を有する基質ではNHC配位子を用いた場合にも分岐型の生成物が主に得られた。一方でスチレン側の一般性検討では触媒による位置選択性の制御がおおむね良好だ。スチレンではなくtert-ブチル基置換のオレフィンではどちらの条件でも直鎖型の生成物が低収率で得られている。またピリジル基以外の配向基として、イミンを用いた例も検討しており、収率は低下するものの同様の条件で位置選択性を制御できることを示している。

重水素化されたピリジルベンゼンを用いた結果により、いずれの条件においてもコバルトのC-H挿入と二重結合への付加は可逆的であることが示された。従って還元的脱離が反応の律速段階であり、配位子による位置制御はこの段階で効いていることが示唆されている。またグリニャール試薬が必要なことからCo(0)が活性種であるとしている。

このような同一の基質からはじまる複数の反応経路を、反応条件を変えることにより制御するのは反応開発の一つの華である。本報告でも配位子の変更により位置選択性が劇的に変わっている点がおもしろい。グリニャール試薬が触媒に対して過剰量必要な点、基質により用いるグリニャール試薬を変える必要がある点などから、反応機構にもう少し絡んでいるような気もするので、さらなる反応機構解析が望まれる。

2010/12/22

Copper-Catalyzed Direct Sulfoximination of Azoles and Polyfluoroarenes under Ambient Conditions

Mitsuru Miyasaka, Koji Hirano, Tetsuya Satoh, Rafal Kowalczyk, Carsten Bolm*, and Masahiro Miura*
Org. Lett., DOI: 10.1021/ol102844q

スルホキシイミンは配位子としてだけでなく、医薬品・農薬への導入も興味を持たれている部分構造である。本報告では、スルホキシイミンと、酸性度の比較的高いヘテロアリールおよびフルオロベンゼンを用いたダイレクトアリーレーションにより炭素-窒素結合を形成している。

2-フェニル-1,3,4-オキサジアゾールを用いて条件検討を行ったところ、酢酸銅(II)を触媒、K3PO4を塩基とし、空気雰囲気下、DMF中、室温にて良好な収率でカップリング体が得られることを見いだした。この種の反応は高温を必要とすることが多いことから、室温で進行する点は本方法論の特長のひとつといえる。また窒素雰囲気下では酢酸銅(II)を量論量用いた場合でもほとんど反応が進行しないことから、空気中の酸素が何らかの作用により反応を加速していることが示唆されている。


最適条件下、各種基質において反応を試みたところ、フェニル基の置換基は電子吸引基、電子供与基いずれの場合も良好な収率で目的物を与えた。また置換機としてアルキル基も許容されている。さらにスルホキシイミン側の一般性としては数は少ないもののジアリール、ジアルキル、アリールアルキルと一通りの置換パターンは示されている。他のヘテロアリール型の基質としてはベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールが示されている他、ペンタフルオロベンゼンやテトラフルオロピリジンなど電子密度を下げた基質では反応が進行する。
スルホキシイミンは硫黄原子に不斉点を導入可能な点が魅力の一つであるが、室温条件で温和に進行する本方法論では不斉収率を損なうことなく、キラルスルホキシイミンを得ている。

2010/11/24

Pd(II)-Catalyzed Carbonylation of C(sp3)−H Bonds

Eun Jeong Yoo, Masayuki Wasa, and Jin-Quan Yu*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja108754f

遷移金属触媒によるC(sp2)-H結合の活性化反応は近年発展著しいが、C(sp3)-H結合となるとその例は少なくなり、ほとんどがカルボニルα位やベンジル位などに限定されている。本報告でパラジウム触媒によるカルボニルβ位のC(sp3)-H結合のCOによるカルボニル化反応に関するもので、酸性度の高いアミドをカルボニル部位に用いることでスクシンイミドとして単離している。得られたスクシンイミドは容易に1,4-ジカルボニル化合物へと変換が可能となっている。

著者らが他のC-H活性化反応で用いていた酸性度の高いアミドを用いて検討を開始した所、ヘキサン中でCO(1atm)雰囲気下、酢酸パラジウムを触媒とし、酢酸銀を酸化剤として用いた際に低収率ながらカルボニル挿入体が得られた。さらに添加剤の検討を行った所、触媒量のTEMPOを用いると収率が劇的に向上した。最終的には酢酸銀、TEMPOともに量論量用いる条件を最適とした。このTEMPOの役割は不明であるが、著者らはオキソアンモニウム塩がPd(0)からPd(II)への再酸化を効率的に行っている可能性があると推察している。実際、どちらの酸化剤も高い収率には必須であることを対照実験により示している。


基質一般性としては、α位にCH3とCH2がある場合は選択的にCH3が反応するようだ。また保護されたヒドロキシルメチルを有する基質でも高い収率で目的物が得られる他、1-メチル-1-カルボニルシクロプロパンのような基質でもメチルが優先的に反応するため、2環性化合物が得られる。以前の著者らの系ではα位に水素原子を有する基質ではあまり反応性がよくなかったが、本系ではα位が4級炭素以外の脂肪族置換基を有するような基質でも中程度ながら目的物を得ている。得られたスクシンイミドは条件によりジカルボン酸、またはアミドを有したエステルへと変換可能である。後者の基質はエステルをヒドロキシルメチル基へと還元すればさらなるC-H活性化が可能であると考えられる。

反応条件がn-ヘキサンの130度と安全面では気をつける必要があるが、最初に述べたように科学的には非常に珍しい反応であり、例えばピバロイル基の3つのメチル基を全て異なるように官能基化したり、不斉化を行ったりとさらなる発展が考えられる反応だ。著者のJin-Quan Yuは若手ながら現在この分野を引っ張っている一人であり、これからも注目の人だろう。

2010/10/27

Iron-Facilitated Direct Oxidative C−H Transformation to Alkenyl Nitriles

Chong Qin and Ning Jiao*
J. Am. Chem. Soc., DOI:10.1021/ja1070202

酸化剤と遷移金属触媒を用いてアリル位のC-H結合を直接官能基化する方法論は、近年発展が著しい分野だ。本報告ではπ-アリル型の中間体を経てアルケニルニトリルを合成する反応に関するもので、反応を通じて3つのC-H結合が切断されることなる。

著者らはトルエンをベンゾニトリルに変換する反応を報告しており、まずは類似の条件から検討を開始したが、アリルベンゼンを基質とした反応ではまったく生成物が得られなかった。そこで各種触媒、酸化剤を検討した所、塩化鉄(II)を触媒とし、DDQを酸化剤とすることで望みのシンナムニトリルを高い収率で得られる事を見いだした。


アリルベンゼンだけでなく、(E)-プロペニルベンゼン、(Z)-プロペニルベンゼンを基質とした場合にも同じシンナムニトリルが得られる事から、π-アリル中間体を経由していることが示唆された。また重水素化実験などにより、最初のアリル位C-H結合の切断が律速段階であることも明らかとなった。反応の最終物としてニトリルが合成されるため、末端アジド中間体と分岐鎖アジドとの平衡混合物の中で、末端アジドから反応が進行すると考えられている。

各種基質に対して反応を行った所、芳香環と共役したニトリル合成において有効な反応のようだが、これはSET段階での電子供与能によるのだろう。共役した1,3-ジエンだけでなく1,4-ジエンでも同じ生成物を与え、また3置換アルケンが生成するような基質に対しては収率が低めとなっている。

2010/10/13

Copper-Catalyzed Direct Carboxylation of CH Bonds with Carbon Dioxide

Dr. Liang Zhang, Dr. Jianhua Cheng, Dr. Takeshi Ohishi, Prof. Dr. Zhaomin Hou
Angew. Chem. Înt. Ed., DOI: 10.1002/anie.201003995

オキサゾールなど酸性度の高いC-H結合を二酸化炭素によりカルボキシル化するという反応も、本ブログではAu-NHC錯体炭酸セシウム加熱条件に続き、3回目の紹介となる。本報告の特徴はCO2(1atm)で反応が進行すること、および中間体を単離している点になる。

著者らは以前のホウ酸エステルのカルボキシル化で用いたCu-NHC錯体を用いて検討を開始した。ベンゾオキサゾールを基質とした検討により、[Cu(IPr)Cl]/KOtBuを用いたTHF中加熱条件でカルボキシル化が進行することをNMRにより確認したが、塩酸による後処理中に容易に脱炭酸することがわかった。そこでヨウ化アルキルを用いてエステル化の後に単離することとした。他の銅塩、配位子、塩基、溶媒では収率が劣ることがわかり前述の条件を最適とした。


基質一般性としては、置換ベンゾオキサゾールではメチル基置換体では反応が進行するものの、他の置換基としてはハロゲンやアリール基など酸性度を向上させるものに限られており、反応が進行するギリギリの条件であることが伺える。また4位置換体に関しては立体的な要因からか収率が低い傾向にあるようだ。他の複素環として、ベンゾイミダゾールや1,3,4-オキサジアゾールなどでも反応を行っているが低収率にとどまっている。

反応機構としてはCu-NHC錯体によるベンゾオキサゾール銅錯体の生成、カルボキシル化、カルボン酸カリウム塩の生成という一般的な機構を著者らは示し、2つの中間体の単離に成功している。以前紹介したAu-NHC錯体の系でも、CO2がAu上に配位した中間体の単離に成功しているが、Auは直線型2座配位の形式をとるためオキサゾールのヘテロ原子との相互作用は存在しない構造をしていた。一方で今回の系ではCu-NHC錯体を用いているため、単離した中間体はベンゾオキサゾールの窒素原子-銅-カルボキシル基とで5員環を形成している。本文中での言及は特にないものの、より安定と考えられる中間体の生成が活性化エネルギーの減少、常圧での反応進行に至っている可能性は考えられる。

以前紹介した2報は加圧条件(1.4atmなど)で、本報告は1atmであるが基質がかなり限定的であるため同列に扱うわけにはいかない(反応性が高い基質なら以前の報告の条件でも1atmで進行する可能性もある)。それでも本論文に限っては類似の報告との差別化をはかるためには1atmという条件をもっと論文中で強調すべきではないかなと感じた。

2010/10/11

Regioselective Palladium-Catalyzed Arylation of 4-Chloropyrazoles

Carlos Mateos*, Javier Mendiola*, Mercedes Carpintero, and Jos Miguel Mnguez
Org. Lett., DOI: 10.1021/ol1020898

反応条件の最適化検討では、各パラメータに関して1変数を振りながら最適化を行っていくのが普通だろう。しかし条件検討に時間がかかり過ぎてしまい、化合物を迅速に供給する必要がある場合には問題が生じやすい。このような場合に、実験計画法に基づいて複数のパラメータを同時に動かしつつ検討を行うと検討時間を短縮できる可能性がある。本論文でも実験計画法を効率的に用いて素早く条件の最適化を行っている。

著者らはSAR研究の一環として5-アリール-1-メチルピラゾール誘導体を迅速に供給する必要が生じた。1-メチルピラゾールを用いて既存のdirect arylation条件で反応を行った所、反応性はC5>C4>>C3であり、4,5-二置換体もかなりの割合で生成してきてしまった。4位をハロゲン原子でブロックしたうえで反応を行うこととした。4-クロロと4-ブロモの基質で反応を行った所、4-クロロ体の方が反応性が高かったものの3位と5位の選択性が約1:1であった。そこで4-クロロ体を用いて条件検討を行うこととした。


溶媒、塩基、触媒、配位子、添加剤の組み合わせによりC3/C5選択性とC5体の収率を最適化することとした。文献より各要素で用いる条件を抽出したところ、全組合わせは7200通りになった。この条件から実験計画法により48通りの条件に絞り込んで、実験を行い、HPLCによる分析で各反応における収率と位置選択性に関するデータを取得した。得られたデータをJMP(ジャンプ)による統計解析を行った結果、塩基としてBu4NOAcを用いることが最も重要であり、その他の要素に関しては統計的な有意はなかった。こうして得たデータから、収率と選択性に関して、それぞれを最大化するであろう2条件を作成し、反応を行ったところ、収率に関して最適化を行った条件がより優れていると判明した。得られた最適条件を他の基質についても行ったところ、電子吸引基、供与基置換の芳香環はともに収率よく導入可能だが、オルト位置換のものは収率が低下する傾向にある。またピリジン環のようなヘテロ芳香族も導入可能であった。

このような実験計画法を駆使した最適化は、最短で狙った反応を最適化できる可能性を秘めているものの、現実的には本報告のように類似の反応からある程度条件が絞れる場合に効果を発揮する可能性が高い。それでもこれだけ計算機が進んだ時代に、30年前と同じスクリーニング法をしているのも能がないとは思うので、何かしら工夫しながら少しずつ取り入れていく意識改革は必要だろう。個人的にはファイザーのケモインフォマティクス/データマイニングの論文はいつもいいなと感じていて、すぐに何かの役に立つかわからないけれどこういった解析のクセを付けたいなと思っている。実験計画法によるアプローチはアカデミアより企業の方が盛んで、プロセス検討などではよく使われているらしいが、本論文のように探索段階で用いるのは珍しいのではないかなと感じたが実際のところどうなんでしょう。

2010/09/30

Umpolung Direct Arylation Reactions

James J. Mousseau, Frdric Valle, Melanie M. Lorion, and Andr B. Charette*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja107541w

クロスカップリングの二つの基質のうち一方をC-H結合で代替することで活性化工程にかかる手間や廃棄物を低減させるDirectArylationはしばしば位置選択性が問題となるため、配向基を利用することがよくあると以前にも述べた。そのため、多くのDirectArylationではアリールハライドと配向基を有する芳香環の組み合わせで反応を行うことになる。本報告ではベンゼンなどの特に活性化基を有さない芳香環と、オルト位に配向基を有するアリールハライドとの反応という、通常とは逆の形式の反応について記載している。

著者らは、シンプルな芳香族として過剰量のベンゼンを用いて検討を介している。最適条件においては5 mol%の酢酸パラジウムと0.51当量の炭酸銀を用いて120度に加熱することで良好な収率でフェニル化された目的物を得ることに成功している。配向基としてはルイス塩基性が重要であり、フェニルケトン、ジメチルアミド、エステルなどさまざまなものが利用可能だ。またハロゲンがオルト位以外の位置に存在する場合は20時間で収率が10%以下であり、反応が極めて遅くなるようだ。アレーン側の一般性は意外と高く、オルトキシレンやジメトキシベンゼンのような電子豊富なものから、トリフルオロベンゼンのような電子不足アレーンまで中程度から良好な収率で反応が進行している。


この手の反応においてよく見られるように、本反応でも酢酸アニオンと炭酸アニオンの共存が重要であるようだ。また速度論的同位体効果が見られたことから、C-H活性化の段階が律速段階であるとの知見を得ている。反応機構としては酢酸パラジウムが単純アリールのC-H活性化によりアリールパラジウム種を生成、銀イオンの補助を経て酸化的付加を行い、還元的脱離を行うというパラジウムの2価-4価のメカニズムを著者らは提唱している。

反応としては変わっているものの、利用するとなるとポイントが難しいというのが正直な感想だろう。例えば、上で記したトリフルオロベンゼンのボロン酸は分解が速いことが知られているので、安定なアレーンを基質として良好な収率でカップリング体を与える本反応は鈴木カップリングの代替反応になりえると考えられる。

2010/09/13

Selective C-4 Alkylation of Pyridine by Nickel/Lewis Acid Catalysis

Yoshiaki Nakao*, Yuuya Yamada, Natsuko Kashihara, and Tamejiro Hiyama*†
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja106514b

ピリジンの遷移金属によるC-H結合の活性化は、窒素原子の配向性もあって通常2位選択的な官能基化が実現される。これは裏を返すと3位や4位選択的な反応は難しいことを意味する。本報告は嵩高いルイス酸とニッケル触媒の組み合わせにより、4位選択的なアルキル化を実現したというものだ。

著者らはすでに2位選択的なピリジンの官能基化には成功している。金属が窒素に配位しながら2位を官能基化するような系とは異なり、著者らの系はピリジン窒素の選択的活性化とはニッケル-アレーン様錯体を経て、ピリジン2位の官能基化を実現していることから、条件を調節することで3位や4位選択的な官能基化が可能なのではないかと考えたようだ。検討の結果、嵩高いアルミニウムルイス酸としてMAD、またニッケル上の配位子も嵩高いNHC型のものを用いることで、ピリジンとアルケンによる4位選択的アルキル化が進行することを見いだした。基質によってはニッケルの挿入段階に由来する直鎖/分岐鎖型の生成物の比が異なるものの、多くの基質で直鎖アルキル体選択的に生成物を得ている。この反応は様々なアルケンに適応可能で、ピリジン上の2位や3位に置換基を有していても望みの反応が進行している。キノリンのように共役系の範囲が伸びているものでも窒素原子のパラ位選択的にアルキル化が進行しているのは興味深い。


d5-ピリジンを用いた反応機構解析から、ニッケル-ピリジン錯体からのC-H官能基化はC4位が速度論的には有利であるものの、C2、C3でも起こりうることが明らかとなった。しかし、その後のアルキル基の挿入段階/還元的脱離段階が後者では立体的要因などから進行しないとことからC4位体のみが得られてくるようだ。また山本尚先生の研究ではMADは触媒的に用いるのには難しい印象を受けるが、著者らはMAD/ピリジン/生成物間における混合NMR実験により平衡を確認しており、MADの触媒サイクル機構が妥当であるとしている。

ピリジン環の2位以外の官能基化は、選択肢が少ないのが現状なので、このような反応の開発は素直に嬉しい。反応機構からの仮説により嵩高い触媒の利用を想起し、それを形としてまとめあげた本研究は美しいと言えるだろう。結論部にも記されているが、今後の動向として3位選択的な反応が実現すればさらに有用性が増すのは間違いない。

2010/07/22

A New Combined Source of “CN” from N,N-Dimethylformamide and Ammonia

Jinho Kim and Sukbok Chang*
10.1021/ja104917t

ニトリル基は種々の官能基に変換可能であり合成化学的に有用性が高い。ベンゾニトリル誘導体の合成では、アニリン窒素などを起点としたSandmeyer反応やハロゲンを足がかりとする芳香族求核置換反応やカップリング反応、最近ではC-H活性化を経るカップリング反応などによりニトリル基を導入するのが通例だ。この際のニトリル基は金属シアニドやアセトンシアノヒドリンに由来するものがほとんどだ。本報告は、ベンゾニトリル誘導体の合成に際し、ニトリル源をDMFとアンモニアから生成させるというものだ。

本研究の発端は、2−ピリジルアレンを基質としてアンモニアを窒素源とした芳香族アミノ化反応を検討していた際にDMF溶媒中で反応を行っていた所、望みのアニリン誘導体ではなくベンゾニトリル誘導体が得られてきたことから始まった。反応条件としては酸素雰囲気下、DMFを溶媒として触媒量の酢酸パラジウム、量論量の臭化銅(II)を用いる条件が最適と判明した。さらに条件を検討した所以下の事実が明らかとなった。すなわち、1)銅塩は量論量必要、2)酸素が必要、3)ニトリルの窒素はアンモニアに由来、4)ニトリルの炭素はDMFのN-メチル基に由来、という事実が明らかとなり、これにより詳細は不明なものの反応機構としては銅と酸素による一電子酸化を経ることが示唆された。またパラジウムの挿入段階で速度論的同位体効果が観測されている。



本条件の一般性としては配向基はピリジンまたはピリミジンと6員環窒素に限定されており、さらに芳香環上の置換基に電子吸引基が入ると収率が下がることから、一般性はさほど高くない。注目すべきは、ラベル化されたアンモニアとDMFを用いることでニトリルの炭素、窒素ともにラベル化された生成物を合成することに成功している点だろう。彼らによればこのようなニトリル合成の初の例ということだ。

詳細なメカニズムが不明であり、系中で生じるシアニドがCuCNなのかHCNなのかもよくわからないが、いずれにせよ同位体効果が見られていることからシアニド発生までは早いと考えられる。通常NaCNなどのシアニド含有化合物は法的にも安全性の面からも取り扱いが厄介であるので、本反応のような手法が芳香族シアノ化以外でも利用可能なら便利かもしれない。

2010/06/02

Iron-Catalyzed, Directed Oxidative Arylation of Olefins with Organozinc and Grignard Reagents

Laurean Ilies, Jun Okabe, Naohiko Yoshikai† and Eiichi Nakamura*
DOI: 10.1021/ol1009448

鉄を用いたクロスカップリング反応は近年注目を集めている分野である。オレフィンとアリール金属とのHeck型の反応は従来はパラジウムやロジウムといった後期遷移金属を触媒として用いる例が大半であったが、本論文では鉄触媒を用いる事でHeck型生成物を得ることに成功した。
本報告の肝は、ピリジン窒素をdirecting groupとすることによるオレフィン部位のC-H活性化反応であろう。これによりオレフィンが活性化され、系中で生成した有機亜鉛試薬との反応が進行していると考えられる。その後に鉄触媒がβ脱離することで目的とするHeck型生成物が得られている。



このC-H活性化であるが、オレフィンとピリジン環とのリンカーをSiMe2としているところがポイントだ。配位基のないスチレンでは当然の事、酢酸ビニルのような酸素原子でも反応は進行せず、窒素であっても例えばビニルピリジンでは反応がうまくいかないようだ。このことからシリコンのリンカーを挟む事で鉄触媒の原子半径にうまくフィットしたメタラサイクルが形成可能になるのだろうと推測される。そのため最適条件下においても有機金属種の一般性を確かめるものが中心で、唯一キノリン型でも反応が進行する事を見いだしたようだ。
ポイントの二つ目は、酸化剤の利用により副生成物の飽和炭化水素の生成を抑えた点だろう。この副生成物は、β脱離により生じた鉄ヒドリド種由来であると考えた事から、鉄ヒドリド種のトラップ目的で種々の酸化剤を試したようだ。結果としては1,2-ブロモクロロエタンを利用するのが最適であったようだ。

本反応は前述したように適応基質がかなり限定されてしまっているが、シリル部位はさらなる官能基変換に使えるだろうし、なにより(恐らく)リンカーの調節により反応を最適化した点に努力が伺える論文だろう。用いる有機金属種の当量が多めであるなどの難点もあるが、さらなる魅力的な反応につながりうる研究だと感じた。

2010/05/18

Rh(I)-Catalyzed Olefin Hydroarylation with Electron-Deficient Perfluoroarenes

Zhong-Ming Sun, Jing Zhang, Rajith S. Manan and Pinjing Zhao*
DOI: 10.1021/ja102575d

近年のC-H活性化反応の発展はめざましく、特に近接基を利用したものは反応例も蓄積されてきていると言えるだろう。一方で足がかりとなる官能基を有しない基質ではインドールに代表される求核性が高い基質が選ばれることが多く、電子不足アレーンを用いた例はまだまだ少ないといえる。本論文では多置換フルオロベンゼンを用いた、電子不足オレフィンへのマイケル付加反応を報告している。

著者らの以前の報告、ロジウム触媒を用いた多置換フルオロ安息香酸の脱炭酸型官能基化からの推定により、脱炭酸を経ることなく芳香環を直接官能基化することができるのではないだろうかと考えたようだ。その際、水系条件では中間体ロジウムエノラートの水和によりマイケル付加体が得られると推定した。



そこで、水系ジオキサンを反応溶媒として水酸化ロジウムシクロオクタジエン錯体と配位子を用いて条件検討を行った。その結果、マイケル付加体とβー脱離に由来するHeck型生成物との選択性を最大で>50:1にまですることができた。
分子内塩基として水酸化ロジウムを用いていることから、引き抜かれるプロトンの酸性度が反応の進行に影響を与えることが推察される。実際、置換フッ素の数が反応の進行に重要であり、オルトジフルオロベンゼンとアクリル酸誘導体との反応では7%収率にとどまった。またオレフィン側も、スチレンなどの反応性の低い基質では反応は進行しなかった。



また本論文のもう1つの特徴として、反応条件を変更し無水条件とすることでHeck型生成物を優勢に取得することが可能なことがあげられる。この際は脱離したRh-H錯体のスカベンジャーとしてアクリル酸誘導体を4当量用いなければならない点には注意したい。

最初から狙っていたのかどうかはわからないけれど、水の有無で反応のパスを制御できる可能性に着目したのが上手いと感じさせる論文だった。

2010/04/08

Cationic Pd(II)-Catalyzed Fujiwara−Moritani Reactions at Room Temperature in Water

Takashi Nishikata and Bruce H. Lipshutz*
DOI: 10.1021/ol100331h

酸化的Heck反応、Fujiwara-Heck反応はC-H活性化を経て生じたパラジウム種とオレフィンとの反応であり現在のC-H活性化のブームよりもかなり早く(1969年)報告された反応だ。本報告は著者らが開発した有機分子を水中に溶かす可溶化剤PTSを用いて、酸化的Heck反応を行ったところ、通常必要な高温条件と酸の添加が不要であったという報告である。



本反応は残念なことに適応基質がかなり限定的であり、ダイレクティンググループとしてアセトアミドなどのアミド基を用いており、さらにアミドのメタ位にアルコキシ基が必須のようだ。そのため基質としては芳香環にさらにメチル基を有する基質以外は、アクリル酸誘導体のエステル部位を変えた物やアミド部位を変えたものが中心となってしまっており、基質の多様性に乏しいのは否めない。それでも上図を見てわかるように大きめの分子にも適用してみようという心意気は伝わってくる。
このように芳香環の電子供与能が重要になってくるのは、触媒に用いているパラジウム種が通常用いられている酢酸パラジウムではなく、カチオン性パラジウム錯体であることから、アルコキシ基による電子供与が炭素ーパラジウム結合形成に重要な役割をもっているからだろう。

おもしろいのは酢酸パラジウムを用いていないことから、パラジウムが炭素上に載る際に通常描かれる酢酸イオンによる水素引き抜きのメカニズムとは違う反応機構で進行していると考えられる点だ。論文には具体的な記述は見当たらないが、このあたりを詰めていくと他の反応の設計に役立ちそうな気がする。著者らはPTSの応用例を探しているだけで、そんなことには興味ないかもしれないけど。。

参考)
アルドリッチ:PTSの紹介

2010/03/03

Palladium-Catalyzed Benzylic Addition of 2-Methyl Azaarenes to N-Sulfonyl Aldimines via C−H Bond Activation

Bo Qian, Shengmei Guo, Jianping Shao, Qiming Zhu, Lei Yang, Chungu Xia and Hanmin Huang*
DOI: 10.1021/ja910104n

遷移金属を用いたAr-H結合の活性化、いわゆるC-H活性化反応は近年活発に研究がなされている分野である.
クロスカップリング反応に代表されるAr-X結合に対する酸化的付加を伴う反応は、必然的に量論量の塩が生じてしまい環境調和型化学が叫ばれる昨今好ましいとはいえない.一方でC-H活性化を経由した反応ではその副生成物が生じないことが魅力的である.しかし、最初からハロゲン分子が導入されている従来の酸化的付加反応とは異なり、複数あるC-H結合の中から望みの結合を活性化するという別の問題が生じてくることも事実である.報告されている多くの例ではこの問題を、カルボニル基やピリジンの窒素原子などをdirecting groupとして用いることで位置選択的に反応を進行させている.
本報告ではピリジン窒素をdirecting groupに用いつつ、ベンジル位のC-H結合を活性化することでベンジルパラジウム種を生成させ、さらに生じた金属種とアルドイミンへと付加させることに成功している.反応の概略は以下の通りである.



以下、反応の詳細を述べる.
触媒に関しては検討の結果、酢酸パラジウムが最適であり、この結果は多くの類似反応と同様に酢酸イオンによる分子内水素引き抜きメカニズムを考えると納得しやすい.
ヘテロ芳香族については2.6-ルチジンを用いて条件検討を行っているものの、Ar-H結合との競合反応が起きるというよりは、ベンジル位の引抜が遅いことを反応点を増やすことで対応しているという印象を受ける.実際2-ベンジル-6-メチルピリジンを基質とした場合は2重にベンジルである炭素からの反応の方が多いという結果を得ている.そのほかキノリンタイプの基質も適応可能である.
イミンの一般性については、オルト、メタ、パラ位置換のハロゲンが適応可能であり、クロスカップリングによるさらなる変換の可能性を示すものの、電子供与基に関してはメチル基程度の電子供与能であっても著しく反応が減退してしまうようだ.もっともこの場合はスルホニル基をより電子吸引性のNs基に変更することである程度は改善可能である.また脂肪族イミンについては反応が進行しないとのこと.
速度論実験からベンジル位水素において同位体効果が見られたことから、C-H結合の開裂が律速であるようである.

本論分は、例が少ないベンジル位のC-H活性化に加えて、ロジウム等を除くと例の少ないイミンへの付加を試みたという点で評価される.今後は配位子の最適化による反応性の向上や不斉化などの展開が考えられるだろう.