Ke Gao and Naohiko Yoshikai*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja108809u
C-H活性化によるアリール基のスチレンへの付加では、ルイス酸存在化によるFriedel-Crafts型のベンジル位への付加と、Heck型の末端への付加がある。前者では電子豊富な基質が通常用いられ、後者ではピリジル基やアミド基などの配向基を利用したものや多置換フルオロベンゼンなどの電子不足型の基質が用いられる。従って、形式的には2つの反応形式が存在するものの、同一の基質から二つの生成物を作り分ける例は少ないのが実状となっている。本報告ではピリジンを配向基とした基質を用いて、触媒を変えることにより二つの生成物を作り分けるという報告だ。
著者らは既にコバルト触媒を用いた内部アルキンに対するアリール基の付加反応を報告しており、本研究はその発展として開始された。実際に以前の系と類似の反応条件で反応を行った所、分岐型の生成物を高い選択性で得た。検討の途中、配位子をホスフィン型からNHC型へと変更した所、直鎖型の生成物選択的に得られることを見出した。
さまざまな基質へと反応を展開した所、電子供与基を有する基質では位置選択性は高いものの、電子供与基を有する基質では選択性の低下が見られ、トリフルオロメチル基を有する基質ではNHC配位子を用いた場合にも分岐型の生成物が主に得られた。一方でスチレン側の一般性検討では触媒による位置選択性の制御がおおむね良好だ。スチレンではなくtert-ブチル基置換のオレフィンではどちらの条件でも直鎖型の生成物が低収率で得られている。またピリジル基以外の配向基として、イミンを用いた例も検討しており、収率は低下するものの同様の条件で位置選択性を制御できることを示している。
重水素化されたピリジルベンゼンを用いた結果により、いずれの条件においてもコバルトのC-H挿入と二重結合への付加は可逆的であることが示された。従って還元的脱離が反応の律速段階であり、配位子による位置制御はこの段階で効いていることが示唆されている。またグリニャール試薬が必要なことからCo(0)が活性種であるとしている。
このような同一の基質からはじまる複数の反応経路を、反応条件を変えることにより制御するのは反応開発の一つの華である。本報告でも配位子の変更により位置選択性が劇的に変わっている点がおもしろい。グリニャール試薬が触媒に対して過剰量必要な点、基質により用いるグリニャール試薬を変える必要がある点などから、反応機構にもう少し絡んでいるような気もするので、さらなる反応機構解析が望まれる。
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