Buck L. H. Taylor, Elizabeth C. Swift, Joshua D. Waetzig, and Elizabeth R. Jarvo*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja108547u
ベンジル位やカルボニルα位のような活性炭素-ヘテロ原子結合への遷移金属触媒を用いたカップリング反応は、近年G.C.Fuなどがニッケル触媒を用いた触媒的不斉反応を精力的に報告している。Fuらの報告ではラセミの基質からラジカル型の反応機構により進行すると考えられており、原料の立体配置情報は生成物へと転写されない。本報告では、キラルなベンジルエーテルを基質としたニッケル触媒による熊田-玉尾型のカップリングで、立体反転を伴ってグリニャール由来のアルキル基を導入している。
まずラセミのベンジルエーテルを基質として、二座型のリン配位子を中心に検討を行ったところ、rac-BINAPの利用が最適で、基質によってはDPEphosやXantphosの方がよい結果を与えた。本反応では、ベンジル位への挿入の後に競合するβ脱離が最大の副反応となるが、その副生成物を添加剤として添加すると反応が抑制されることがわかった。特にスチレンを20mol%添加した際には2割弱の変換率にとどまっており、触媒へと作用することで反応を阻害していることが示唆される。
見出した条件をもとに、種々のキラルαーエチルベンジルエーテルについて、メチルグリニャール試薬によるメチル化を行っている。反応は完全な立体反転を伴い、良好な収率で、不斉収率を損なうことなく目的物が得られている。エーテル部位としてはメチルエーテルのみならず、ベンジルエーテルも許容されるようだ。また著者らは本反応をジアリールメチルメチルエーテルを基質として、キラルジアリールエタン合成へと適応しており、いくつかの生理活性物質合成を行っている。後者の型の基質ではβ脱離が起こりえないが、収率の面では前者のアルキル置換の基質と同程度である。
本文中でも述べられているが、キラル2級アルコールの合成法はケトンの不斉還元をはじめとした種々の方法論が確立されており、それを原料とできる点は本方法論の強みといえるだろう。一方で論文中ではグリニャール試薬はメチル基のみが用いられており、複雑な分子の構築には不安が残る。またグリニャール試薬を2等量用いる点も弱みの一つであり、これが反応機構からして2等量必須なのか否かを含めた続報での議論が求められるだろう。
参考)
ナフトール塩を用いたクロスカップリング反応
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