2010/12/31

Antarafacial Mediation of Oxygen Delivery by a Phenylsulfinyl Group

Yandong Zhang†, Jun Hee Lee†, and Samuel J. Danishefsky*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja1107707

環状ジエノフィルとジエンとのDiels-Alder反応で得られたcisに縮環した化合物を原料として、transに縮環した化合物を得るという報告を以前紹介した。本論文はそのtrans成績体に対して、変換を試みたところ予想外の化合物が得られたという報告である。

著者らはフェニルスルフィド部位を選択的に酸化した後に、Pummerer転位を行うことでアルデヒドを得ようとこころみた。原料は速やかに消失し、反応はきれいに進行したものの目的としたアルデヒドは得られなかった。混合物を炭酸水素ナトリウム水溶液で処理したところ、非常によい収率で二重結合部位がエポキシド化された化合物が得られてきた。硫黄原子はスルフィドへと還元されていたことから、エポキシドの酸素源としてはスルホキシドの可能性が考えられたが、得られたエポキシドの立体を考慮に入れると直接的な酸素原子の移動以外の反応機構が示唆された。

塩基処理の前段階の反応中間体に対してHBF4を加えたところ、アニオン交換を伴い結晶を得た。X線結晶構造解析により、中間体はビシクロ[2.2.2]のスルホニウムイオン構造をとっており、そこから反応機構としてはオレフィン部位の硫黄原子へのアタックと、カルボカチオンへのトリフルオロ酢酸アニオンの付加を伴っていることが推定できた(下図上側の中間体)。速度論的または熱力学的な要因から、この基質の場合は中間体として[2.2.2]構造のみをとっていたが、オレフィンのアタック部位としてはC7位も考えられる。そこでC8位のメチル基を水素に置換した基質を用いて反応をおこなった。C7位からのアタックと、通常のPummerer転位のいずれが優先するかは不明ではあったものの、この基質ではカルボカチオンの安定性からC7位が優先する可能性の高いことが予想された。結果としてはC7位からの巻き込みにより[3.2.1]型のスルホニウムイオン中間体が得られ(下図下側の中間体)、基質により反応経路は異なる可能性があるものの、塩基処理により同様のエポキシドが得られることが判明した。


この前例のない反応の一般性を確かめるために、いくつかの基質にて反応を行った。オレフィン部位が二置換の基質でも35%と低い収率ながらも反応が進行することがわかった。また6,6-の2環性基質以外に5,6-の系でも反応は収率よく進行した。また6,6-、5,6-のいずれの系においてもtrans縮環型の加えてcis縮環型でも収率よく生成物を得た。基質は必ずしも2環性である必要はなく、環状オレフィンである場合は反応が進行した。一方で直鎖型のオレフィンでは低収率、または痕跡量しか目的物は得られなかった。

この反応ではPummerer転位を加速させるピリジンの添加を行っておらず、ピリジンを添加した場合はアルデヒドとエポキシドの混合物、基質によってはアルデヒド優先的に得られた。この知見を活かすことで、ピリジン添加なしでエポキシドを得た後に、スルホキシドへの酸化、続くPummerer転位によりケトン/アルデヒド/エポキシドを含む高度に官能基化された、trans縮環の2環性化合物を良好な収率で取得できた。

以前の論文と併せてこれで全合成前に二つの論文が出ていることになり、Danishefskyとしては珍しい印象を受ける。彼らがどんなターゲットを目指しているのかはわからないが、Sloan-Kettering癌センター所属ではなく、Columbia大学所属の人たちによる論文のため、抗がん剤ではない純粋に構造のおもしろいターゲットなのだろう。続報を楽しみに待ちたい。

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