2011/03/07

Enantioselective Construction of Quaternary Stereogenic Centers from Tertiary Boronic Esters

Dr. Ravindra P. Sonawane, Dr. Vishal Jheengut, Dr. Constantinos Rabalakos, Dr. Robin Larouche-Gauthier, Helen K. Scott, Prof. Varinder K. Aggarwal
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201008067

4級炭素の立体選択的な構築は現代有機合成においても課題の一つである。著者らは以前紹介したように、キラル2級アルコールから、アルキル基の転位を伴う3級ボロン酸エステルの立体選択的な合成法と、酸化的処理による3級アルコールの合成を報告している。本論文では、その3級ボロン酸エステルを原料として、炭素鎖伸張による4級炭素構築法を報告している。

まずボロン酸ピナコールエステルを原料として、Matteson型の増炭反応を試みた。通常の条件では目的物の増炭アルコールに加え、酸化による単なる3級アルコールが約2割の収率で得られてきた。ホウ素NMRによる分析により、酸素転位を経た中間体が観測された。遷移状態における考察から、脱離基として嵩高く、また双極子モーメントが小さくなるものを用いることで炭素転位に繋がる配座を取りやすくなると考えられた。そこで脱離基を臭素原子としたところ、酸素転位は5%程度にまで抑えることができた。
3級ボロン酸エステルは、置換基のアルキル基が嵩高くなると予想通り反応性が低下するが、エステル部位をネオペンチル型の立体的に小さいものにすることで多少の収率改善が可能だ。またジクロロメタンとnBuLiを用いることでアルデヒドの合成も可能だ。

続いて著者らはZweifel型のオレフィン化反応を試みた。ここでも通常の条件では26%収率にとどまった。そこで再びホウ素NMRによる分析を行った所、系中ではピナコールエステルが完全にビニル基で置換された中間体と原料のみが観測された。そこでビニルグリニャール試薬の当量を増加させるたところ、良好な収率でビニル化体を得ることができた。またエトキシグリニャール試薬を用いることでケトン体を得ることもできる。

3級ボロン酸エステルも、キラル2級アルコールからなる著者らの方法論を用いることで理論的には隣接不斉中心の構築が期待できるが、この反応は立体的な要因からか進行しなかった。しかし、立体的にコンパクトな1-クロロアリルリチウムを用いることで、高いジアステレオ選択性で4級炭素を含む隣接した不斉中心の構築に成功した。ここで高いジアステレオ選択性が実現していることは、アリルリチウム種の動的速度論分割が生じていることを意味するが、その要因についてはよくわかっていない。

以上の様に、著者らは自らの方法論を拡張することで立体選択的な4級炭素構築法の開発に成功した。基質特有の嵩高さに起因する反応のしにくさを、NMRによる分析で次々と最適化していく様子は速報とは思えない盛りだくさんの内容であり、読んでいて楽しい論文であった。

Iron/Amino Acid Catalyzed Direct N-Alkylation of Amines with Alcohols

Dr. Yingsheng Zhao, Siong Wan Foo, Dr. Susumu Saito
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201006660

アミンのアルキル化反応はアルキルハライドを用いた直接的なアルキル化や、還元的アミノ化による間接的な方法で通常行われる。簡便で信頼性の高い方法論であるものの、量論量の副生成物が生成することから環境調和性の面では好ましくない。近年ではアルコールをアルキル化剤とすることで、副生成物が水のみという反応が複数報告されている。これらは系中でアルコールのアルデヒドやケトンへの酸化、イミン形成、還元を経ることでアルキル化を実現している。本報告ではこのような系内での酸化還元を経ない、求核置換型の反応形式によるアミンのアルキル化反応に関するものだ。

著者らは検討によりFeBr3を触媒とし、rac-ピログルタミン酸を配位子、添加剤としてCp*-Hを用いて加熱することでアニリンとベンジルアルコールとの反応が収率よく進行することを見いだした。触媒なしでは反応はほぼ進行せず、配位子がないと低収率にとどまっている。またジアルキル化体はほとんど観測されていないようだ。


ベンジルアルコールは芳香環の電子密度によらず良好な収率でアルキル化体を得ている。アニリン側は電子供与基置換では収率が低下する傾向にあるようだ。またスルホンアミドが許容されるのはおもしろい結果だ。なおアニリン以外の脂肪族アミンでもアルキル化は進行するが、示されている基質が2級アミンのみであるため、モノアルキル化とジアルキル化の制御が脂肪族アミンでは難しい可能性がある。アルコールとしてはベンジルアルコール以外にも直鎖1級アルコール、2級アルコールも適応可能で、アリルアルコールを用いた場合も末端選択的に反応が進行している。このことは反応がカチオン経由ではないことを示唆している。

著者らはさらにD化基質との交差実験により、水素移動を伴う系中での酸化還元型の反応ではなく、Sn2型であると主張している。Cp*-Hの役割に関する記述が本文にないが、配位子というよりは触媒量のプロトン源としてアルコールの脱離促進をしている可能性が考えられる。

アミンのアルキル化は日常的には還元的アミノ化で行うことが多いが、還元剤として用いるNaBH(OAc)3などは分子量が非常に高く、基質よりも用いる量が多いことも度々である。そのため、もう少し廃棄物の少ない反応が開発されるとよいなと常々感じている人が多いだろう。本条件は反応温度があまりに高すぎる印象を受けるが、このような反応の開発には期待したいところである。

2011/02/26

Ring-Contraction Strategy for γ-Quaternary Acylcyclopentenes

Allen Y. Hong, Dr. Michael R. Krout, Dr. Thomas Jensen, Nathan B. Bennett, Prof. Andrew M. Harned, Prof. Brian M. Stoltz
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201007814

4級炭素構築反応は現代有機化学においても重要な課題の一つであり、特に多様な骨格へと変換可能な多官能基型中間体の製造手法が望まれている。本報告では4級炭素を有するアシルシクロペンテンの合成法に関するもので、複数の反応点を有する骨格の特長を活かして様々な化合物への展開を図っている。

著者らは既にパラジウム触媒を用いた触媒的不斉アリル化反応を報告している。そのアリル成績体に対して、同一の還元条件にふした際のシクロヘキサノン型とシクロヘプタノン型の基質での反応性の差異が本研究の端緒となった。すなわち前者の基質ではβーアルコールが脱水してエノンになるのに対し、後者の基質では脱水体は少量のみでβーヒドロキシケトンが主生成物であった。さらに塩基処理を加えるとレトロアルドール反応、逆側のメチレン基からアルドール反応が起こり、脱水を伴って5員環のアシルシクロペンテンが生成した。この興味深い反応の条件を最適化したところ、水酸化リチウムを塩基、トリフルオロエタノールを添加剤としてTHF中で加熱する条件が最適であった。


7員環上のα位に様々な置換基を有した4級炭素に対して、還元条件によるβーヒドロキシケトンの生成、続く環縮小反応を行った。工程は多いものの収率は総じて良好で、還元条件をLuche条件などの穏和なものへと変えることでシリル基で保護した1級アルコールなども共存可能だ。光学純度に関しては80-90%ee程度の基質が多く、その後の変換で光学純度向上をはかる必要がありそうだ。実際著者らは一例としてセミカルバゾンへと変換して再結晶を行うことで98%eeのサンプルを得ている。β位の置換基は還元剤をグリニャール試薬へと変換することで、アルキル基を導入することも可能だ。この際は生成物がβ-二置換の不飽和環状ケトンになる。

アシルシクロペンテンはハード求核種による1,2-付加、ソフト求核種による1,4-付加、アシル基エノラートからの側鎖伸張、4級炭素上アリル基からの官能基化とさまざまな変換が可能だ。著者らはこのうちの数種の変換を組み合わせて10種程度の多様性に富んだ化合物群を合成している。

生成物のさらなる変換可能性は魅力的だ。アセチル基以外のアシル基も導入できると魅力が増すが、そういう基質が示されていないのは、原料合成の都合か、レトロアルドールの反応性の問題なのかもしれない。化合物の立体的、電子的な特性に沿ったおもしろい反応であるが、シクロペンテン合成としては回りくどい印象も受けるので、どうにか直接合成する方法はないものかと考えてみるのもおもしろいかもしれない。