2010/06/27

Full Chirality Transfer in the Conversion of Secondary Alcohols into Tertiary Boronic Esters and Alcohols

Viktor Bagutski, Dr., Rosalind M. French, Varinder K. Aggarwal, Prof. *
10.1002/anie.201001371

不斉4置換炭素の構築は、原理的に不斉水素化反応を用いて直接構築することは不可能であり、立体的に嵩高い炭素部位にさらに炭素骨格(または酸素や窒素)を導入することが必要となる。そのため、近年発展の著しい触媒的不斉合成の分野においても、炭素ー炭素結合形成と不斉導入を同時に行う反応では、収率、不斉収率ともに改善の余地を残すものが多い。一方で、不斉補助基を用いた既存の不斉点を利用する反応形式ではすぐれたものも多数報告されている。

本報告では、キラル2級アルコールがアリールアルキルケトンの不斉水素化反応により容易に調整可能であることを着眼点として、不斉点を維持したままアルキル基を導入するという反応だ。オリジナルは既に2008年にNature誌に報告しており、本論文では条件の改良により、当時の系では満足のいく不斉収率を得ることができなかった基質でも高い不斉収率にて目的物を得ることができたと報告している。

反応の全体像は以下の通り。1)カーバメートとのキレーションによるsec-BuLiを用いたプロトン化、2)不斉を維持したままピナコールボランとのアート錯体形成、3)ホウ素上のアルキル基の1,2-転位とそれに伴うカーバメートの脱離、以上の工程を経てキラル3級ホウ素化合物が生成する。これを酸化的にアルコールへと変換することで、3級アルコールの合成が完了する。

種々の実験により、著者らは2)と3)の工程における平衡がee減少に重大な寄与をしていると結論づけた。すなわち、アート錯体形成後に昇温することで転位が起こるが、基質によっては転位よりもアート錯体の解離が速やかにおこるものもあり、昇温下でのリチウム種が反転することでeeの低下へと繋がるというものだ。



そこで検討を重ねた結果、臭化マグネシウムとメタノールの組み合わせがよい影響を与えることが明らかとなった。ここでは、臭化マグネシウムはルイス酸としてカーバメートに配位することで1,2-転位を促進させ、メタノールはアート錯体の解離により少量生じたアルキルリチウム種のプロトン化を行っていることになる。

3級ホウ酸エステルは前述した通り、3級アルコールへの魅力的な前駆体であるが、本反応で用いたピナコール誘導体では、酸化反応が遅いためにone-potによる酸化的開裂ができず溶媒をエーテルからTHFへと変更する作業が必要になってしまうようだ。筆者らは立体的により小さなネオペンチル型のホウ酸誘導体を合成することで、酸化がはやく、さらに上記の臭化マグネシウム/メタノールの添加を経なくとも高い不斉収率を達成することができたとも報告している。

このように酸化段階で難のあるピナコール型と、試薬調整段階で難のあるネオペンチル型と二つの条件を報告しているが、市販されている試薬類の豊富さからも前者に分があるように感じる。
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前報のNatureの報告:この論文では、用いるホウ素試薬をホウ酸エステルとアルキルボランに分けることで、得られる成績体の絶対配置が異なることをウリにしている

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