2010/06/02

Iron-Catalyzed, Directed Oxidative Arylation of Olefins with Organozinc and Grignard Reagents

Laurean Ilies, Jun Okabe, Naohiko Yoshikai† and Eiichi Nakamura*
DOI: 10.1021/ol1009448

鉄を用いたクロスカップリング反応は近年注目を集めている分野である。オレフィンとアリール金属とのHeck型の反応は従来はパラジウムやロジウムといった後期遷移金属を触媒として用いる例が大半であったが、本論文では鉄触媒を用いる事でHeck型生成物を得ることに成功した。
本報告の肝は、ピリジン窒素をdirecting groupとすることによるオレフィン部位のC-H活性化反応であろう。これによりオレフィンが活性化され、系中で生成した有機亜鉛試薬との反応が進行していると考えられる。その後に鉄触媒がβ脱離することで目的とするHeck型生成物が得られている。



このC-H活性化であるが、オレフィンとピリジン環とのリンカーをSiMe2としているところがポイントだ。配位基のないスチレンでは当然の事、酢酸ビニルのような酸素原子でも反応は進行せず、窒素であっても例えばビニルピリジンでは反応がうまくいかないようだ。このことからシリコンのリンカーを挟む事で鉄触媒の原子半径にうまくフィットしたメタラサイクルが形成可能になるのだろうと推測される。そのため最適条件下においても有機金属種の一般性を確かめるものが中心で、唯一キノリン型でも反応が進行する事を見いだしたようだ。
ポイントの二つ目は、酸化剤の利用により副生成物の飽和炭化水素の生成を抑えた点だろう。この副生成物は、β脱離により生じた鉄ヒドリド種由来であると考えた事から、鉄ヒドリド種のトラップ目的で種々の酸化剤を試したようだ。結果としては1,2-ブロモクロロエタンを利用するのが最適であったようだ。

本反応は前述したように適応基質がかなり限定されてしまっているが、シリル部位はさらなる官能基変換に使えるだろうし、なにより(恐らく)リンカーの調節により反応を最適化した点に努力が伺える論文だろう。用いる有機金属種の当量が多めであるなどの難点もあるが、さらなる魅力的な反応につながりうる研究だと感じた。

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