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2010/10/13

Copper-Catalyzed Direct Carboxylation of CH Bonds with Carbon Dioxide

Dr. Liang Zhang, Dr. Jianhua Cheng, Dr. Takeshi Ohishi, Prof. Dr. Zhaomin Hou
Angew. Chem. Înt. Ed., DOI: 10.1002/anie.201003995

オキサゾールなど酸性度の高いC-H結合を二酸化炭素によりカルボキシル化するという反応も、本ブログではAu-NHC錯体炭酸セシウム加熱条件に続き、3回目の紹介となる。本報告の特徴はCO2(1atm)で反応が進行すること、および中間体を単離している点になる。

著者らは以前のホウ酸エステルのカルボキシル化で用いたCu-NHC錯体を用いて検討を開始した。ベンゾオキサゾールを基質とした検討により、[Cu(IPr)Cl]/KOtBuを用いたTHF中加熱条件でカルボキシル化が進行することをNMRにより確認したが、塩酸による後処理中に容易に脱炭酸することがわかった。そこでヨウ化アルキルを用いてエステル化の後に単離することとした。他の銅塩、配位子、塩基、溶媒では収率が劣ることがわかり前述の条件を最適とした。


基質一般性としては、置換ベンゾオキサゾールではメチル基置換体では反応が進行するものの、他の置換基としてはハロゲンやアリール基など酸性度を向上させるものに限られており、反応が進行するギリギリの条件であることが伺える。また4位置換体に関しては立体的な要因からか収率が低い傾向にあるようだ。他の複素環として、ベンゾイミダゾールや1,3,4-オキサジアゾールなどでも反応を行っているが低収率にとどまっている。

反応機構としてはCu-NHC錯体によるベンゾオキサゾール銅錯体の生成、カルボキシル化、カルボン酸カリウム塩の生成という一般的な機構を著者らは示し、2つの中間体の単離に成功している。以前紹介したAu-NHC錯体の系でも、CO2がAu上に配位した中間体の単離に成功しているが、Auは直線型2座配位の形式をとるためオキサゾールのヘテロ原子との相互作用は存在しない構造をしていた。一方で今回の系ではCu-NHC錯体を用いているため、単離した中間体はベンゾオキサゾールの窒素原子-銅-カルボキシル基とで5員環を形成している。本文中での言及は特にないものの、より安定と考えられる中間体の生成が活性化エネルギーの減少、常圧での反応進行に至っている可能性は考えられる。

以前紹介した2報は加圧条件(1.4atmなど)で、本報告は1atmであるが基質がかなり限定的であるため同列に扱うわけにはいかない(反応性が高い基質なら以前の報告の条件でも1atmで進行する可能性もある)。それでも本論文に限っては類似の報告との差別化をはかるためには1atmという条件をもっと論文中で強調すべきではないかなと感じた。

2010/09/13

Selective C-4 Alkylation of Pyridine by Nickel/Lewis Acid Catalysis

Yoshiaki Nakao*, Yuuya Yamada, Natsuko Kashihara, and Tamejiro Hiyama*†
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja106514b

ピリジンの遷移金属によるC-H結合の活性化は、窒素原子の配向性もあって通常2位選択的な官能基化が実現される。これは裏を返すと3位や4位選択的な反応は難しいことを意味する。本報告は嵩高いルイス酸とニッケル触媒の組み合わせにより、4位選択的なアルキル化を実現したというものだ。

著者らはすでに2位選択的なピリジンの官能基化には成功している。金属が窒素に配位しながら2位を官能基化するような系とは異なり、著者らの系はピリジン窒素の選択的活性化とはニッケル-アレーン様錯体を経て、ピリジン2位の官能基化を実現していることから、条件を調節することで3位や4位選択的な官能基化が可能なのではないかと考えたようだ。検討の結果、嵩高いアルミニウムルイス酸としてMAD、またニッケル上の配位子も嵩高いNHC型のものを用いることで、ピリジンとアルケンによる4位選択的アルキル化が進行することを見いだした。基質によってはニッケルの挿入段階に由来する直鎖/分岐鎖型の生成物の比が異なるものの、多くの基質で直鎖アルキル体選択的に生成物を得ている。この反応は様々なアルケンに適応可能で、ピリジン上の2位や3位に置換基を有していても望みの反応が進行している。キノリンのように共役系の範囲が伸びているものでも窒素原子のパラ位選択的にアルキル化が進行しているのは興味深い。


d5-ピリジンを用いた反応機構解析から、ニッケル-ピリジン錯体からのC-H官能基化はC4位が速度論的には有利であるものの、C2、C3でも起こりうることが明らかとなった。しかし、その後のアルキル基の挿入段階/還元的脱離段階が後者では立体的要因などから進行しないとことからC4位体のみが得られてくるようだ。また山本尚先生の研究ではMADは触媒的に用いるのには難しい印象を受けるが、著者らはMAD/ピリジン/生成物間における混合NMR実験により平衡を確認しており、MADの触媒サイクル機構が妥当であるとしている。

ピリジン環の2位以外の官能基化は、選択肢が少ないのが現状なので、このような反応の開発は素直に嬉しい。反応機構からの仮説により嵩高い触媒の利用を想起し、それを形としてまとめあげた本研究は美しいと言えるだろう。結論部にも記されているが、今後の動向として3位選択的な反応が実現すればさらに有用性が増すのは間違いない。

2010/09/06

N-Heterocyclic Carbene-Catalyzed Conjugate Additions of Alcohols

Eric M. Phillips, Matthias Riedrich and Karl A. Scheidt*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja1061196

α,β-不飽和カルボニル化合物へのオキシマイケル反応は、原料のオリゴマー化やレトロマイケル反応などが起こりやすいことから、難しい反応の一つだ。本報告ではブレンステッド塩基としてNHC触媒、添加剤としてLiClを用いることでこの反応を実現している。

反応条件の検討に当たり、市販のIMes-HClを触媒として塩基の検討から開始したところ、nBuLiを塩基としてカルベンを発生させた場合が最も収率がよいことが明らかとなった。添加剤として12-crown-4を加えたところ収率が低下したことから、Li源としてLiClを積極的に加えたところ収率が格段に向上した。そこで本条件を用いて基質一般性の検討を行うこととした。

アルコールの一般性としては脂肪族1級アルコール、2級アルコールともに良好な収率で1,4-付加体を与えることがわかった。Boc-セリン-tBuのような官能基を有するアルコールも収率よく目的物を与えるものの、ジアステレオ選択性はほぼ1:1にとどまっている。マイケルアクセプター側の一般性としては、アリールケトン以外にアルキルケトンやエステルに対しても適応可能だ。非常に自己重合を起こしやすいメチルビニルケトンに対しても中程度の収率ながら目的物を得ているのが特筆すべき点だろう。またβ位に芳香族が置換した基質では目的物が得られないとのことだ。アルキニルケトンとの反応ではE選択的に目的物を得ることに成功している。


NHC触媒自身も1,4-付加する可能性はあるものの、著者らはNHC触媒はブレンステッド塩基としてアルコキシド生成に関与している反応機構を提唱している。LiClはルイス酸としてエノンの活性化に働いている他、マイケル付加により生じたエノラートの安定化に寄与していると考えているようだ。また交差実験により、本反応条件においてはレトロマイケル反応は起こっていないことも確かめている。温度を70度まで上昇させると、レトロ反応が観測されることから、本反応条件の温和さが示されていると言える。

なおキラルNHC触媒を用いた本反応の不斉化については、分子内反応において11%eeを得るにとどまっており、有意な不斉収率ではあるものの、まだまだ改良が必要のようだ。

2010/06/25

Carboxylation of C−H Bonds Using N-Heterocyclic Carbene Gold(I) Complexes

Ine I. F. Boogaerts and Steven P. Nolan*
DOI: 10.1021/ja103429q

オキサゾールの活性プロトンはブチルリチウムなどの強塩基で引き抜くことが可能で、求電子剤との反応などに用いられる。本報告はAu-NHC錯体を塩基触媒として用い、CO2雰囲気下で挿入を行わせ、カルボン酸を得る反応に関するものだ。上述の両論量の強塩基を用いる方法論では生じる塩廃棄物量という点で、遷移金属触媒とボロン酸などを用いる既存方法と比べた場合には基質を事前調整する必要がない点で有利な点ということになる。

Au-NHC錯体は電子不足芳香族のC-H結合を活性化することは既に報告されていたので、pKaから考えてオキサゾールのC-H結合も活性化可能だと筆者らは考えた。実際に検討をしてみると、オキサゾールのみならずN-メチルイミダゾールやトリアゾールなどの複素環でもカルボキシル化が進行した。個人的には意外だったが、チアゾールに関しても反応が進行するものの2位選択的ではなかったため、pKaに差が少ないということなのだろう。



反応機構については、オキサゾールに挿入したHet-Au-NHC型の中間体と、そこにCO2の挿入したHet-CO2-Au-NHC型の中間体を単離している(上図中間体)。これにより提唱されている機構をきちんと支持することに成功している。

今回の反応は触媒料1.5 mol%で収率もよく、NHC触媒も頻用されるタイプのものであり、CO2分圧も1.5barとさほど高くないため、使い勝手はよさそうだ。現在のところ実務では、ブチルリチウムを用いて生成させたアニオンに、ドライアイスより発生させたガスを吹き込むことでカルボン酸とすることが多いけれど、ガスの脱水に硫酸を通すなど装置の組立てが少し面倒である。今後、本報告のような手法がどんどん増えていけば、既存の方法論に取って代わることになるかもしれない。

2010/04/14

N-Heterocyclic Carbene-Catalyzed Cascade Reaction Involving the Hydroacylation of Unactivated Alkynes

Akkattu T. Biju, Nathalie E. Wurz and Frank Glorius*
DOI: 10.1021/ja102130s

アルキンに対するヒドロアシル化はα、βー不飽和カルボニル化合物を与え、そこからさらなる官能基変換が可能なことから有用な反応と考えられる。しかしアルケンのヒドロアシル化と比べるとまだまだ一般的な反応ではない。
以前にNHC触媒を用いた極性転換の反応を紹介したように、Stetter反応を始めアシルアニオン等価体を活性多重結合に反応させる例が多いが、本反応は単純なアルキンに対する反応である。これは分子内で6員環を形成するようにアルキンを配置していることで可能となっている。
生成物は先に述べたようにα、βー不飽和ケトンになり、もし系中にアルデヒドが存在していればNHC触媒を用いてさらなる炭素ー炭素結合形成の可能性が出てくる。実際にアルデヒドを共存下に反応を行うと、極性転換したアルデヒドが求核種となってマイケル付加することでさらなる結合形成が起きている。この際にケトンとNHC触媒が反応することでβ位からの求核攻撃が起きる可能性もあるが、立体的に嵩高いNHC触媒を用いることで回避している。
またアルデヒド非存在下で末端アルキンを用いてしまうと、自己縮合が起こってしまうことからも立体的な因子の影響力が伺える。



基質としては末端アルキンを用いた場合にはその後のマイケル付加が進行し(しやすく)、内部アルキンを用いるとマイケル付加はいかない(いきにくい)と推測できる。これを解消できるような強い求核性を有するNHC触媒の開発と不斉化が考えられる発展形だが、他にもカスケード反応部分を広げていく方向性も考えられるだろう。