Shin Kamijo, Shoko Matsumura and Masayuki Inoue*
Org. Lett., DOI: 10.1021/ol1018079
カルボニル基はグリニャール反応や、アルドール反応によるα位の官能基化など、各種変換に有用であるが、その反応性の高さゆえに合成途中では保護基を用いる必要がある場合も多い。保護基として頻用されるのはアセタールであるが、酸性条件に弱いことから、合成途中でたびたび問題となる。もし還元体アルコールのエーテル体がカルボニル基の保護基として用いることができれば、安定性は問題なく非常に魅力的だ。本論文ではmCPBAを用いてこのような変換を実現している。
著者らはシクロドデシルメチルエーテルを基質として条件検討を行った。アセトリトリル中ではほぼ原料回収だったのに対し、2当量のトリクロロアセトニトリルを添加すると収率が劇的に向上した。なぜトリクロロアセトニトリルを用いたかの記載はないものの、クロロホルム溶媒でも10%弱の目的物が得られていること、およびmCPBAは通常ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒を用いること、などがヒントとなった可能性はあるだろう。結局、添加剤を溶媒量にまで増量し混合溶媒系とすることで最適条件としている。本反応は、1) ラジカル捕捉剤により反応が妨げられること、2) ラジカル開始剤を添加剤とした場合も低収率ながら反応が進行すること、からラジカル機構を取っていることが示唆される。著者らはmCPBAのトリクロロアセトニトリルへの付加、続く酸素ー酸素結合の開裂によるラジカルの生成という反応機構を示している。
基質一般性としては、メチルエーテルだけでなく様々なエーテルに適応可能であり、アセトキシ基など他の官能基存在下でもアルキルエーテル選択的に酸化が進んでいる。気になる点は用いられている基質が環状ケトンのみであること、および大員環やカルボニル基が比較的込み入った基質が多いことだろう。mCPBAを過剰に用いているものの、シクロヘキサンジオール誘導体を用いた場合には、ケトンが生成した後にBaeyer-Villiger反応も進行してしまっていることからも、2つの反応の制御が難しい可能性も考えられる。
いずれにせよ、反応条件を変えることで頻用されている試薬の新たな反応性を見いだしたという点で興味深い論文といえるだろう。
2010/08/26
CCl3CN: A Crucial Promoter of mCPBA-Mediated Direct Ether Oxidation
ラベル:
OL,
Oxidation,
ProtectiveGroup
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