2010/08/22

Palladium-Catalyzed β Arylation of Carboxylic Esters

Alice Renaudat, Ludivine Jean-Gérard Dr., Rodolphe Jazzar Dr., Christos E. Kefalidis Dr., Eric Clot Dr., Olivier Baudoin Prof. Dr.
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201003544

遷移金属触媒によるカルボニル官能基周辺へのsp2炭素の導入は、単純なアニオンーカチオンの化学では難しい変換を可能とする重要な反応だ。本反応はエステルのβ位のアリール化という珍しい形式で、さらに初期的な段階ではあるものの不斉誘起にも成功している。

アリールパラジウム種の挿入という観点でカルボニル基を利用するには、カルボニル基とのキレートを利用したβ位のC-H結合の活性化も考えられるが、著者らはまだ例のなかったパラジウムエノラートを用いた反応機構でのβ-アリール化を目指した。検討を開始した所、リチウムエノラートとパラジウム触媒の組み合わせにより、アリール基の置換様式依存的にβ体が優先的に取れることが判明した。そこで、オルト位にハロゲン、CF3基、アルコキシ基などを有する基質や2位複素環などの静電的効果を持つ基質を用いて反応をおこなっている。多くの場合反応は短時間、β選択的に進行している。また生成物のラセミ化がないことを確認した上で、不斉誘起も行っている。最大54%eeと初期的な段階ではあるものの、今後の展開に期待だ。



対照実験として、α位に水素原子のないエノラート化しない基質では反応が進行しないこと、重水素化実験によりβ位の水素がα位へと完全に移ることなどを確認している。その他、計算によりα体よりもβ体のほうが速度論的にも熱力学的にも好ましいことを示している。またα無置換の基質では反応が進行しないことは、反応の進行に影響を与える因子の複雑さを示唆しているだろう。

本反応のようなβ-アリール体を得るには、ロジウム触媒などを用いた1,4-付加の利用が考えられる。現状では不斉プロトン化に関してはそこまで報告例があるわけではないので、本報告のα位置換基にさらに多様性を持たせられれば十分に差別化が図れるだろう。
このようなβ-アリール化は著者らによればα-アリール化の副生成物として一部報告されていたとのことで、それが本反応開発をはじめる動機付けとなったのだろう。繰り返し作業の少ない知能労働において、いかに再現性高く新しい試みを始められるかは、多くの人が興味をもつところだろう。そのためには、人が新しい研究を始めるに至った思考過程を辿ることが有用だろう(それが本当かどうかは別として)と個人的には考えている。

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