2010/03/12

Overriding Felkin Control: A General Method for Highly Diastereoselective Chelation-Controlled Additions to α-Silyloxy Aldehydes

Gretchen R. Stanton, Corinne N. Johnson and Patrick J. Walsh
DOI: 10.1021/ja910717p

学部後期以降の教科書には必ず書いてある、α位に不斉炭素を有するカルボニル化合物への求核付加反応、すなわちFelkin-AhnモデルとCram-chelationモデル型の付加反応というものが知られている。特に80年代から90年代初頭の全合成ではマクロライドの立体制御などを行うのに頻用されてきた手法である。
これらではαーヒドロキシル基を有する化合物は嵩高いシリル基を用いて酸素原子の不対電子をマスクすることで前者のモデル、ベンジル基のように酸素の不対電子を利用可能にすることで後者のモデルで付加が進行するように調整することが可能である。
しかし、保護基というのは合成戦略全体から考えて選択する物であり、付加反応に於ける立体選択性のために保護期のかけかえが行われるようなことは望ましくない。
このような基質制御型の反応を逆に制御するためには、例えば不斉補助基の導入、キラルな試薬の利用、不斉ルイス酸の添加といった方法論が用いられることが多いが、両論量のキラル源が必要な場合等改善の余地が多い。

前置きが長くなったが、本論文はこのような問題に対して、アキラルな試薬を用いて通常Felkin-Ahn型で進行する試薬をCram型で反応させることを試みている。

反応の概略としては下図に示すように、α位にTBS基で保護されたヒドロキシル基を有するカルボニル化合物に対して、RZnX(Cl,Br,OTf)をルイス酸、ZnR2を求核種として用いることでCram型付加に由来する化合物が高いジアステレオ選択性でとれるというものだ。



収率は化合物によって変動があるが、恐らく亜鉛試薬の求核性の低さもあり、カルボニル化合物が還元されてしまうアルコール体が取れてきてしまうために中程度の収率にとどまる基質が多い。しかしながら多置換ビニル試薬を含めて、官能基化された求核種の導入にも成功しており、注目度は高い。

本反応のポイントとしては求核性の低い亜鉛試薬を用いることで、バックグラウンドのFelkin-Ahn型付加を押さえていることにあるだろう。
逆に現時点での弱点としては、ルイス酸/求核種共に亜鉛試薬であるために、アルキル基交換が行われてしまい、結局すべてのアルキル基を導入したいものにしないといけない点だろう。これは全合成などで官能基化された貴重なアルキル基を導入したい場合に大きく効いてくるため、キュープレート試薬のようなダミーリガンドを載せられるように改良できたらより魅力的になるだろう。
また亜鉛であるがゆえに還元体が取れてしまうなら他の金属で達成不可能かの精査もありうる。個人的には根岸先生のようなアルミニウムに魅力を感じるがどうだろう?

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