2011/01/12

Catalytic Enantioselective [2,3]-Rearrangements of Amine N-Oxides

Hongli Bao, Xiangbing Qi, and Uttam K. Tambar*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja110500m

シグマトロピー転位は不斉中心の構築にしばしば用いられる。しかしClaisen転位などと比べると、アンモニウム両性イオンを用いた[2,3]-シグマトロピー転位、Meisenheimer転位はあまり研究されておらず、その不斉合成への応用としては、窒素原子上にキラル補助基を導入した例にとどまっていた。本報告ではこのようなMeisenheimer転位の触媒的不斉反応に関するものだ。

ジベンジルアミン誘導体を基質として検討を開始したところ、この反応は触媒なしでも比較的低温で進行してしまうものの、-20度ではほとんど進行しないことを見いだした。そこでこの温度にて種々の触媒を検討したところ、酢酸パラジウムを用いると反応が大幅に促進されることがわかった。不斉配位子の検討を行い、ビナフトール由来のホスホアミダイトを用いると高い不斉収率で目的物が得られた。さらにメタノールとm-クロロ安息香酸をともに触媒量添加することで不斉収率のさらなる向上が見られた。

本方法論は反応条件が穏和なことから、TBS基やアルデヒドをはじめとするさまざまな官能基と共存可能であった。しかし、2位が分岐した基質では反応はほとんど進行しないこともわかった。著者らは0価パラジウムが触媒として有効ではないことから、π-アリル型の中間体を経由してはいないと想定している。パラジウム触媒は本系ではπ酸として作用し、Overman転位と類似したN-オキシドの活性化およびオレフィンへの配位を伴い、5員環中間体を取っているのだろうと述べている。この環化中間体を想定することにより、2位分岐型基質での低反応性を説明可能だ。メタノールやm-クロロ安息香酸の役割については不明なままである。

アルデヒド共存下でも適応可能というのはかなり魅力的だが、近年の不斉反応の中では触媒量が比較的高用量であること、キラルアルコールを作る手法としてはN-O結合切断までが必要であることが気になる点だ。

2011/01/09

Tunable stereoselective alkene synthesis with nonstabilized phosphonium ylides

De-Jun Dong, Yuan Li, Jie-Qi Wang and Shi-Kai Tian
Chem. Commun., DOI: 10.1039/C0CC04739B

一般的にWittig反応では速度論支配下ではZ-オレフィンが優先するため、不安定イリドを用いた場合にはZ体が優先的に生成する。一方で不安定イリドからE-オレフィンを得るにはPhLiを用いるSchlosserの変法(β-オキシドイリド法)と言われる方法がある。本報告はアルデヒドをイミンへと変換し、イミン上の置換基を調節することで、不安定イリドを用いてZ/E体をつくりわけるというものだ。

以前このブログでも紹介したように、著者らは既に同様のアプローチにより準安定イリドを用いたZ/Eの作り分けに成功している。そこで同様にスルホニルイミンを用いて、塩基の検討を開始した。ベンズアルデヒド由来のMsイミンに対するWiitig反応では、LDAを用いた場合にはZ:E=92:8とそれなりの選択性で反応が進行し、n-BuLiを塩基とした場合には>99:1のZ選択性で生成物が良好な収率で得られた。続いてスルホニル基上の置換基を検討したところ、2-MeC6H4 (=o-Ts)基置換のスルホニルイミンでは同様にn-BuLiを塩基として<1:99のE選択性で反応が進行した。


各種基質を用いたところ、芳香族イミンだけでなく、脂肪族イミンも含めて、同様の条件で収率よく高い選択性でZ/Eを作り分けることができた。イリドの一般性としてジメチルアミノ基や1級アルコールを有するイリドでも収率、選択性を損なうこと無く反応が進行し、アリルアミンやアリルアルコールを得ることに成功している。

反応機構解析の一貫として、著者らは付加後に生じるベタイン中間体を低温下、HBr処理することでホスホニウム塩として得ている。ここで得られたホスホニウム塩はジアステレオ混合物であり、このジアステレオ比と、ホスホニウム塩を塩基処理することで得られるオレフィンのZ/Eに強い相関があることから、イリドによるジアステレオ選択的な付加が反応の選択性を決定しているとしている。そしてスルホニル基の置換基の大小による付加方向の違いをNewman投影図により説明している。

以前の準安定イリドの系では基質によっては十分な選択性が得られていなかった例もあったが、今回の反応例は同一の置換基を用いて全ての例で高い選択性を得ているのが特筆すべき点だろう。
--
参考)
ODOOS-Wittig反応

2011/01/06

Tropylium Ion Mediated α-Cyanation of Amines

Julia M. Allen and Tristan H. Lambert*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja109617y

アミンの酸化によるイミン形成は、遷移金属、DDQ、超原子価ヨウ素、一重項酸素など様々な酸化条件によって達成可能だ。しかし、これらの基質適応範囲はあまり広くなく、ジアルキルアニリンやテトラヒドロイソキノリンのような基質が用いられることが多い。本報告ではトロピリウムイオンを酸化剤とする反応に関するもので、DDQとは異なる位置選択性を示している。

トロピリウムイオンを酸化剤とする報告は極めて限定的ではあるが既に報告があった。著者らはその合成化学的な興味から、トロピリウムイオンのさらなる反応性に関して検討を開始した。アセトニトリル中、トリイソブチルアミンとトロピリウムテトラフルオロボレートを混合すると速やかにイミニウムイオンへと変換された。またKCN存在下ではα位がシアノ化された生成物が高収率で得られることがわかった。トロピリウムイオンとKCNの組み合わせはシクロヘプタトリエニルニトリルを与える、という報告が既にあったことを考えると、この結果は興味深い。著者らはKCNがアセトニトリルには溶解しないことを望みの反応が進行した理由としてあげており、実際にクラウンエーテルの添加やTMSCNの利用などシアニドが溶解している状態ではトロピリウムイオンがシアノ化されることを確認している。


様々な基質にて反応を試みたところ、電子豊富な部位の方が反応しやすいことが明らかとなった。例えばベンジルジイソブチルアミンでは5.9:1の選択性でアルキル部位が反応をするが、4-ニトロベンジルの基質では>20:1以上の選択性、逆に4-メトキシベンジルの基質では3.7:1にまで選択性が低下する。C-H結合の強さを考えるとこの結果はおもしろい。電子的要因だけでなく、立体的な要因も位置選択性に大きく影響を与え、ネオペンチル部位のような嵩高い部位では反応しない。基質により好ましい反応温度に差があり、これはアミンとトロピリウムイオンとの反応が可逆反応として存在し、立体的に小さなアミンではこの平衡を解離側に移動させるために高温条件が必要だということだ。

本反応で溶解しないはずのKCNがイミニウムイオンとは反応していることになるが、これはソルトメタセシスによりKBF4が生成することによると著者らは主張している。またベンジル位の反応性が低いことは既知の酸化剤であるDDQとは逆の反応性であることを確かめており、興味深い。反応機構としてはトロピリウムイオンによる直接のヒドリド引き抜き機構と、イミニウムラジカルカチオンを経由する段階的な機構が考えられる。確証を得ているわけではないが、著者らは位置選択性などの実験結果から直接的な機構を支持したいように感じられる。

最後に本方法論の応用として、イミニウムカチオン生成後にaza-Cope転位を伴ってイミンを得ている。おそらくgem-ジフェニル基の嵩高さによると思われるが、この例では本条件が2級アミンにも適応できていることもおもしろい。