2010/06/29

Enantioselective Synthesis of Planar Chiral Organonitrogen Cycles

Katsuhiko Tomooka*, Kazuhiro Uehara, Rie Nishikawa, Masaki Suzuki and Kazunobu Igawa
10.1021/ja1024657

含窒素9員環でジアリルアミン構造のものは室温での反転が遅く、面不斉を持つ(らしい)。従って、前駆体の閉環反応においてキラル源を用いた分子内閉環反応を行うことで不斉誘起を起こすことが可能だ。本論文はこのような珍しいタイプの反応でキラル9員環合成に成功したものである。これまではキラル9員環はラセミ体の分割により得ており、そこから各種キラルビルディングブロックへと誘導していることから、見慣れない生成物であるがその有用性は間違いないだろう。

前駆体としてはTs-アミドを求核部位、臭素原子を求電子部位として分子内環化反応を検討した。最初の検討ではシンコナアルカロイド誘導体を用いて、求電子部位の活性化を行ったところ、最大37%eeの不斉誘起にとどまった。そこで糖由来のリチウムアルコキシドを用いて求核部位の活性化を試みたところ、2当量以上のキラル源を用いた際に収率、不斉収率ともに最もよい値を得た。



本反応の適応基質は二つだけで、しかも一つは不斉収率もさほど高くない。さらに糖由来で再利用可能とは言えキラル源を当量以上用いているなど、率直に言えば不満点も多い論文だろう。しかし生成物は各種官能基化された物質へと変換可能で合成化学的には有用で、さらに類似の報告例がないことから本研究の価値は高いのではなかろうか。

2010/06/27

Full Chirality Transfer in the Conversion of Secondary Alcohols into Tertiary Boronic Esters and Alcohols

Viktor Bagutski, Dr., Rosalind M. French, Varinder K. Aggarwal, Prof. *
10.1002/anie.201001371

不斉4置換炭素の構築は、原理的に不斉水素化反応を用いて直接構築することは不可能であり、立体的に嵩高い炭素部位にさらに炭素骨格(または酸素や窒素)を導入することが必要となる。そのため、近年発展の著しい触媒的不斉合成の分野においても、炭素ー炭素結合形成と不斉導入を同時に行う反応では、収率、不斉収率ともに改善の余地を残すものが多い。一方で、不斉補助基を用いた既存の不斉点を利用する反応形式ではすぐれたものも多数報告されている。

本報告では、キラル2級アルコールがアリールアルキルケトンの不斉水素化反応により容易に調整可能であることを着眼点として、不斉点を維持したままアルキル基を導入するという反応だ。オリジナルは既に2008年にNature誌に報告しており、本論文では条件の改良により、当時の系では満足のいく不斉収率を得ることができなかった基質でも高い不斉収率にて目的物を得ることができたと報告している。

反応の全体像は以下の通り。1)カーバメートとのキレーションによるsec-BuLiを用いたプロトン化、2)不斉を維持したままピナコールボランとのアート錯体形成、3)ホウ素上のアルキル基の1,2-転位とそれに伴うカーバメートの脱離、以上の工程を経てキラル3級ホウ素化合物が生成する。これを酸化的にアルコールへと変換することで、3級アルコールの合成が完了する。

種々の実験により、著者らは2)と3)の工程における平衡がee減少に重大な寄与をしていると結論づけた。すなわち、アート錯体形成後に昇温することで転位が起こるが、基質によっては転位よりもアート錯体の解離が速やかにおこるものもあり、昇温下でのリチウム種が反転することでeeの低下へと繋がるというものだ。



そこで検討を重ねた結果、臭化マグネシウムとメタノールの組み合わせがよい影響を与えることが明らかとなった。ここでは、臭化マグネシウムはルイス酸としてカーバメートに配位することで1,2-転位を促進させ、メタノールはアート錯体の解離により少量生じたアルキルリチウム種のプロトン化を行っていることになる。

3級ホウ酸エステルは前述した通り、3級アルコールへの魅力的な前駆体であるが、本反応で用いたピナコール誘導体では、酸化反応が遅いためにone-potによる酸化的開裂ができず溶媒をエーテルからTHFへと変更する作業が必要になってしまうようだ。筆者らは立体的により小さなネオペンチル型のホウ酸誘導体を合成することで、酸化がはやく、さらに上記の臭化マグネシウム/メタノールの添加を経なくとも高い不斉収率を達成することができたとも報告している。

このように酸化段階で難のあるピナコール型と、試薬調整段階で難のあるネオペンチル型と二つの条件を報告しているが、市販されている試薬類の豊富さからも前者に分があるように感じる。
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前報のNatureの報告:この論文では、用いるホウ素試薬をホウ酸エステルとアルキルボランに分けることで、得られる成績体の絶対配置が異なることをウリにしている

2010/06/25

Carboxylation of C−H Bonds Using N-Heterocyclic Carbene Gold(I) Complexes

Ine I. F. Boogaerts and Steven P. Nolan*
DOI: 10.1021/ja103429q

オキサゾールの活性プロトンはブチルリチウムなどの強塩基で引き抜くことが可能で、求電子剤との反応などに用いられる。本報告はAu-NHC錯体を塩基触媒として用い、CO2雰囲気下で挿入を行わせ、カルボン酸を得る反応に関するものだ。上述の両論量の強塩基を用いる方法論では生じる塩廃棄物量という点で、遷移金属触媒とボロン酸などを用いる既存方法と比べた場合には基質を事前調整する必要がない点で有利な点ということになる。

Au-NHC錯体は電子不足芳香族のC-H結合を活性化することは既に報告されていたので、pKaから考えてオキサゾールのC-H結合も活性化可能だと筆者らは考えた。実際に検討をしてみると、オキサゾールのみならずN-メチルイミダゾールやトリアゾールなどの複素環でもカルボキシル化が進行した。個人的には意外だったが、チアゾールに関しても反応が進行するものの2位選択的ではなかったため、pKaに差が少ないということなのだろう。



反応機構については、オキサゾールに挿入したHet-Au-NHC型の中間体と、そこにCO2の挿入したHet-CO2-Au-NHC型の中間体を単離している(上図中間体)。これにより提唱されている機構をきちんと支持することに成功している。

今回の反応は触媒料1.5 mol%で収率もよく、NHC触媒も頻用されるタイプのものであり、CO2分圧も1.5barとさほど高くないため、使い勝手はよさそうだ。現在のところ実務では、ブチルリチウムを用いて生成させたアニオンに、ドライアイスより発生させたガスを吹き込むことでカルボン酸とすることが多いけれど、ガスの脱水に硫酸を通すなど装置の組立てが少し面倒である。今後、本報告のような手法がどんどん増えていけば、既存の方法論に取って代わることになるかもしれない。