2010/07/31

Cyclobutenone as a Highly Reactive Dienophile: Expanding Upon Diels−Alder Paradigms

Xiaohua Li and Samuel J. Danishefsky*
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP
DOI: 10.1021/ja1056888

反応性向上を期待して環の歪みを利用するという方法は色々な所で用いられており、例えば近年ではSnapperの縮環シクロブテンの化学やBertozziのgem-ジフルオロシクロオクチンを用いた銅触媒フリーの環化などで利用されている。本報告ではシクロブテノンをジエノフィルとしたDiels-Alder反応に関するものだ。

学部の教科書では加熱により容易に進行するかのように描かれているDiels-Alder反応であるが、分子間の純粋に熱的な条件では2つの電子吸引基を有するジエノフィルと環状ジエンとの反応など基質が活性化されている場合でないとかなりの高温を必要とする場合が多い。特にシクロペンテノンやシクロへキセノンなど環状エノンはルイス酸による活性化を経ずにはほとんどDiels-Alder反応は進行しないとのこと。著者らは無置換シクロブテノンに着目し、この歪んだ構造ゆえに高い反応性が期待できるのではないかと考えた。なお著者らは今回シクロブテノンの改良合成法も併せて開発したが、濃縮状態では容易に重合化が進行するためクロロホルム溶液として調製し、反応に用いることにしたとのことだ。

実際に様々なジエンに対する反応を行ってみた所、endo付加体優先的に、低温から45度程度の温和な加熱条件で環化反応が進行することを見いだした。この際、やや反応性の低いジエンを用いる場合には収率向上のために塩化亜鉛による活性化が必要なようだ。シクロブテノンの反応性は、本文中では電子吸引基を2つ有するマレイン酸無水物とほぼ同等と述べられており、歪みによる反応性の底上げが実感できる(注釈によれば計算による解釈を現在行っているとのこと)。



得られた生成物はシクロブタノン骨格を有しており、さらなる変換が可能だ。論文では環拡大反応を行い、シクロペンタノン、γーラクトン、γーラクタムへと変換している。これらをDiels-Alder反応により直接得るためにはジエノフィルとしてブテノライドなどの反応性の低い基質を用いなければならない。そのため、本変換を含む2段階の反応は反応性の低い基質を用いた熱的なDiels-Alder反応の簡便な代替法として実用性が高そうだ。

基質によっては環拡大の際に橋頭位に原子が挿入されるとは限らないようで、検討開始時点で彼らの求めていたような反応に仕上がっているのかは不明であるが、今後の全合成への応用も含めて続報を待ちたいところ。

2010/07/29

Asymmetric Suzuki Cross-Couplings of Activated Secondary Alkyl Electrophiles

Pamela M. Lundin and Gregory C. Fu*
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP
DOI: 10.1021/ja105148g

本論文はここ1,2年でG.C.Fuが精力的に進めているrac-α-ハロカルボニル化合物を基質とした触媒的不斉カップリング反応に関する報告だ。これまでケトンを基質として根岸、檜山、熊田等のクロスカップリング反応や、金属種としてジルコニウム試薬を使用する反応など様々な例を報告している。今回はインドリルアミドをエステル等価基質とした、アリールホウ素との鈴木カップリング反応を行っている。生成物のインドリルアミドは酸化条件によって、インドールアミドへと変換可能で、生成物のさらなる変換が可能である。

著者らは今までの報告と同様にニッケルを触媒として検討を行っている。以前の報告でも配位子はBOX型とジアミン型と使い分けているように思われるが、今回はジアミン型の配位子を用いている。i-BuOHをプロトン源として用いていることが、収率、不斉収率向上に重要なようだが、作用に関する言及はない。アミド部位はWeinrebアミドや他のアルキルアミド、またエステルなどでも検討しているが収率、不斉収率ともに満足のいく結果を得ていない。



基質としては、αアルキル基はi-Buなどの大きめの置換基からTBS保護されたアルコールを有するものまで幅広く検討されており、収率はどれも良好だが、これら大きめの置換基では多少の不斉収率の低下が見られている。ホウ素上のアリール基も電子吸引基、供与基置換のもの共に非常に高い不斉収率で反応が進行している。また本反応はα位が臭素置換のものでも、塩素置換のものとほぼ同等の結果を得ている。インドリルアミドはかって福山先生が全合成の一コマに用いたこともあることからわかるように、温和な条件で脱離能の高いインドールアミドへと変換可能で、本報告ではこれを加水分解してカルボン酸へと導いている。

これまでの報告と同様にラセミの基質を用いても、単一のエナンチオマーが得られていることから、以前の系でも示唆されているように本反応でもニッケルがラジカルパスを経由して酸化的付加をおこなっていることが示唆される。本論文での新しい知見は、反応の終結前に残存する原料の光学純度を測定した所、低い効率ではあるものの速度論分割が起きていることがわかった点だ。いくつかの対照実験から、酸化的付加前の触媒の基質認識能にわずかながら差があることが示唆されている。臭素置換の基質では酸化的付加のしやすさからか、このような速度論分割が観測されていないこともこの仮説を支持しているだろう。

先日のHoveydaのJACSラッシュもそうだけれど、論文をよほど精査していないと一連の流れを掴みにくい時代になったものです。HighlightやMiniReviewのような記事の需要はますます増えていくんでしょう。

2010/07/26

Carbon Dioxide as the C1 Source for Direct C−H Functionalization of Aromatic Heterocycles

Oleg Vechorkin, Nathalie Hirt and Xile Hu*
Org. Lett., Article ASAP
DOI: 10.1021/ol101450u

以前にAu-NHC錯体によってオキサゾールなどの複素環をCO2を用いてカルボン酸とするという反応を紹介した。本報告では基質はベンゾチアゾールなどのより酸性度の高いものに限られるけれども、炭酸セシウムという塩基のみを用いてCO2との反応によりカルボン酸を得るという反応に関するものだ。

著者らはベンゾチアゾールのC2プロトンのpKaは27(DMSO)なので、LiOtBuなどの塩基で脱プロトン化が可能(tBuOH, pKa=29.4, DMSO)と考え検討を開始した。実際にCO2雰囲気下、DMF中にて反応を行わせることで、LiOtBuだけでなく炭酸セシウムを塩基とした場合にもベンゾチアゾールのカルボキシル化が定量的に進行した。著者らはより温和な条件を好み、その後の検討では炭酸セシウムを用いることとした。また反応条件は125度という高温条件であり、生成物の脱炭酸などの分解反応も5時間で20%ほど進行するとのことで、今後の検討では系中でメチルエステルに変換している。




基質としては冒頭で述べたように複素環の酸性度が肝であり、電子吸引基置換のものが多いのが気になる点だが、置換ベンゾチアゾール/ベンゾオキサゾールに関しては良好な収率で得ている。その他の複素環としては、5-アリールオキサゾールや2-アリールオキサジアゾールも適用可能なようだ。後者の場合、アリール基はメトキシのような電子供与基置換でも良好な収率で反応は進行する。またチアジアゾールを基質とした場合には開環反応が進行してしまうとのこと。

基質一般性などで見劣りするのは否めないが、それは塩基性によるものが大きい。例えばAu-NHC錯体の系で基質としていたチアゾールのpKaは29.4(DMSO)であり、やはり活性化なしに炭酸塩で脱プロトン化するのは厳しいということになるだろう。この反応もLiOtBuを塩基としてもう一度基質一般性を検討すれば、もう少し広い範囲で反応が進行するかもしれないと感じた。