2011/02/17

Nucleophilic Fluoromethylation of Aldehydes with Fluorobis(phenylsulfonyl)methane

Xiao Shen, Laijun Zhang, Yanchuan Zhao, Lingui Zhu, Guangyu Li, Prof. Dr. Jinbo Hu
Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201006931

フルオロビス(フェニルスルホニル)メタン(FBSM)はフルオロメチル基の導入に用いられ、触媒的不斉反応を含め、様々な反応が報告されている。しかし、FBSMのアルデヒドへの付加は逆反応が優先し、付加体は得られないとされてきた。本報告では低温下、リチウム塩基を用いることでFBSMのアルデヒドへの付加を実現している。本編ではNMR実験と計算化学的手法により、著者らの主張がきれいにサポートされている。

FBSMのベンズアルデヒドへの付加をモデルとして検討を開始した所、LHMDSを塩基としてTHF中で反応を行い、-78度にて塩酸で反応を停止させると27%収率ながら付加体が得られた。-30度での処理では付加体は得られなかったことから、低温でのプロトン化が重要であることがわかる。THF/HMPA混合溶媒では付加体が得られなかったが、トルエンやジクロロメタンなど非配位性の溶媒を用いることで収率が向上した。最終的にはプロトン化を-94度でTFAを用いて行う条件が最適であった。

本条件は各種芳香族アルデヒドのみならず、脂肪族アルデヒドを用いた際にも付加体を収率よく与えることが明らかとなった。また生成物のビススルホニル部位を、一つは脱離基として、一つはスズへの交換の後にStilleカップリングを行うことで、合成化学的な有用性を示している。

本反応はプロトン化における温度が収率に大きく作用することから、著者らは19Fを用いたVT-NMR実験を行って反応を追跡した。-79度にてLHMDSを添加すると、FBSMに相当するピークは速やかに消失し、付加体のアルコキシドに相当するピークがシャープに現れてきた。ここで温度を-49度、-19度、0度、25度と徐々に昇温させていくと、-19度よりも高温ではアルコキシドのピークは消失し、複数の不明瞭なピークが現れた。興味深いことにこのサンプルを再び-79度へとすることで再びアルコキシドに相当するピークに収束した。そのサンプルをTFAを用いて-79度でプロトン化することで、付加体とFBSMに相当するピークが現れた。すなわち、本反応は高温領域では平衡条件下にあり、低温条件にすることで平衡を付加体へと偏らせることが可能となっていることが明らかとなった。
また用いる塩基をNaHMDSやKHMDSに変更すると収率が低下する点、および非配位性溶媒の方が好ましい結果を与えることから、付加後のリチウムアルコキシドの安定性が重要となっているはずだ。

フッ素以外の置換基を有するビススルホニルメタンとして、無置換のものや塩素原子置換のものを本条件で反応を行ってみた所、全く付加体が得られなかった。著者らはDFT計算により、付加後のリチウムアルコキシドがフッ素置換体の場合が最も酸素-リチウム結合の距離が短く、安定であることをその理由として挙げている。しかし、例えば反応が進行するか否かの限界値や、なぜフッ素のみが付加体を与えることに成功しているのかについては不明なままだ。気層におけるギブスエネルギー変化を計算しており、それによるとフッ素の場合のみ-2.3 kcal/molと負の値を示しことから反応が自発的に進みうることが示唆されている。

合成化学的な有用性はもう一歩というところだが、本論文の主要部は後半の反応機構解析だろう。計算による結果のみで解釈を進めて行くことは難しいが、NMR実験の結果は明瞭であり素晴らしい実験結果だと感じた。またLHMDSのような塩基を用いる場合、通常溶媒はTHFを用い、非配位性溶媒を検討する際でもトルエン程度までしか検討しないという先入観があったが、本反応のように特に塩基と反応することなくジクロロメタンを利用可能という点が、個人的には盲点だった。

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