2010/04/30

Sonogashira Cross-Coupling of Arenediazonium Salts

Giancarlo Fabrizi, Prof., Antonella Goggiamani, Dr., Alessio Sferrazza, Dr., Sandro Cacchi, Prof. *
10.1002/anie.201000472

クロスカップリングの基質としては通常アリールハライド、トリフレートなどが用いられるが、反応性の高さと対応するアニリンから容易に調製することが可能ということを考えるとジアゾニウム塩の利用は一つの魅力的な代替案になりうる。実際、アレーンジアゾニウム塩はHeck反応や鈴木カップリング、Stilleカップリングなどのパラジウム触媒反応には適応されてきている。本報告はこのジアゾニウム塩の化学を薗頭反応に拡張しようというものだ。

筆者らはまず各種パラジウム触媒、塩基、溶媒にて反応を試したが目的とするアリールアルキンは得られず、複雑な混合物を与えることが多かった。そこで、ヨウ化物イオンを系中に添加することでヨードデジアゾニウム化を起こすことを試みることとした。すると2当量のTBAI添加により良好な収率で目的物が得られることがわかった。



最適条件下、基質一般性の検討を行ったところ、電子供与基、吸引基いずれを有するアリールジアゾニウム塩も良好に反応することがわかった。またアルキン部位の一般性も直鎖アルキル基から2-ピリジルのような触媒毒となりうる置換基でも良好な収率で目的物を得ることに成功している。さらに一端ジアゾニウム塩を単離することなしに、アニリンからワンポットにてアリールアルキンまで高収率で導くことにも成功している。

興味深いのはTBAIを添加することで何が起きているのかである。筆者らは対象実験の結果から、まず脱ジアゾニウムによるヨウ化アリールの生成がおき、続いてパラジウム触媒による酸化的付加がおきて反応が進行していると述べている。別途調製した[PhPdI(Ph3P)2]、[PhPdBr(Ph3P)2]をアルキンと反応させたところ臭化物イオン由来の化学種の方が高活性であったことと、ヨウ化物イオンの変わりに臭化物イオン源としてTBABを用いた場合には目的物は得られずブロモベンゼンが高収率で得られたことから、この場合はブロモベンゼンへの酸化的付加が律速段階になっているということだろうか。

収率、官能基受容性ともに高く魅力的な反応と言えるけれど、系中でヨウ化アリールを発生させているなら必ずしもジアゾニウム塩を経由する必要がないとも言えるのがアピールに弱い気がする。

参考)以前紹介したフェノール塩を基質とするクロスカップリング反応

2010/04/29

Tandem β-Alkylation−α-Arylation of Amines by Carbolithiation and Rearrangement of N-Carbamoyl Enamines

Jonathan Clayden*, Morgan Donnard, Julien Lefranc, Alberto Minassi and Daniel J. Tetlow
DOI: 10.1021/ja1007992

tert-アルコールの立体選択的合成が対応するケトンへの付加が立体的に込み入っているために難しいのと同様に、tert-アミンの合成も対応するケトイミンの嵩高さのために難しい。代替合成法としては例えばニトロアルカンを求核剤として用いた反応や、Overman転位などの転位反応を用いたアプローチが考えられる。本報告ではビニルウレアへのリチウム試薬への付加と続く分子内からの転位を経て、tert-アミンの合成を達成している。

反応の全体像は、ビニルウレアへのアルキルリチウムの付加の後、生じた中間体からアリール基が分子内転位し、メタノールで反応を止めることで4置換炭素を有するウレアを得ている。得られたウレアはn-ブタノール中で加熱することでウレア部位を除去し、アミンを合成することが可能となっている。



アルキルリチウムはtert-ブチルのような嵩高いものを用いると転位反応が進行しないものの、様々なアルキル基、アリール基を導入可能だ。また転位させるアリール基も電子供与基、吸引基ともに適応可能となっており、多くの例で良好な収率で置換ウレアを得ている。基質のアルケニル基がZ,Eの異性体を有する基質を用いた場合には、それぞれのジアステレオマーが選択的に得られていることから、付加、転位ともに立体特異的に進むことが示唆されている。

本反応は合成方法の少ないtert-アミンを高収率に合成可能な方法論であり有用性が高いだけでなく、反応機構的にも興味深い反応だ。恐らく狙っていたわけではなく偶然の副反応から到達した反応だろうが、こういうものをきちんと拾って形にすることって大事だなとしみじみ思った。

2010/04/28

Synthesis of Alkyl Alkynyl Ketones by Pd/Light-Induced Three-Component Coupling Reactions of Iodoalkanes, CO, and 1-Alkynes

Akira Fusano, Takahide Fukuyama, Satoshi Nishitani, Takaya Inouye and Ilhyong Ryu*
DOI: 10.1021/ol1007668

アルキニルケトン(インオン)はマイケル付加受容体としてヘテロ環合成の原料に使われるなど合成中間体として有用な化合物群である。通常、酸塩化物と末端アルキンの薗頭カップリングや、金属アセチリドのカルボニル化合物への付加(と続く酸化)などの手法で合成されており、前者の応用例として一酸化炭素雰囲気下でヨウ化アリールと末端アルキンをカップリングさせる反応も用いられる。しかしアルキルハロゲン化合物に対する酸化的付加に難があるために、通常用いられるヨウ化物はアリールまたはビニルというsp2炭素に限られており、上述の3成分反応でアルキルケトンの合成を行うことは難しかった。
本報告は光照射条件でアルキルヨウ化物から炭素ラジカルを生成させることで、アルキルーアルキニルケトンの合成を達成している。

反応条件を検討したところ、フェニルアセチレンと1−ヨードオクタンのカップリングがベンゼン/水の混合溶媒中、キセノンランプ照射条件でPdCl2(PPh3)2触媒を用いることで良好な収率で反応が進行した。また1−オクチンのようなアルキルアセチレンを用いる際には5等量のアルキンを用いることで、同等の良好な収率で目的物を与えることも見いだした。最適条件下、反応は様々なアルキル置換の基質で中程度から良好な収率で進行することがわかった。またラジカル経路を通っていることは、分子内の適当な位置に二重結合を有する基質を用いた際に環化が進行した後に、アルキンとのカップリングが起きているような生成物が取れていることから示唆されている。



本反応では光照射によるラジカル生成を介していることで、従来適応が難しかった1級ハライド由来のアルキニルケトンの合成に成功した。実際のところ本法ではsp2炭素ーヨウ化物の適応は難しいだろうから、従来の手法と相補的な方法論になるだろう。光化学には詳しくないのでキセノンランプ装置の実用度がどのくらいなのかと、45atmという高圧の一酸化炭素を用いていることが気になる点ではある。