2010/12/21

Catalytic Silicon-Mediated Carbon−Carbon Bond-Forming Reactions of Unactivated Amides

Shu Kobayashi*, Hiroshi Kiyohara, and Miyuki Yamaguchi
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja108764d

「シリルエノールエーテルを求核種とする向山型の反応は、非常に信頼性の高い方法論ではあるが、塩基およびケイ素由来の化学量論量の副生成物が生じることから原子効率の観点から望ましいとはいえない。」このくだりは有機分子触媒あるいは金属触媒を用いるいわゆる直接的な反応における背景の枕詞として用いられている。しかしながら、触媒量のケイ素試薬のみで反応が進行する方法論が開発されたなら、事前に求核種を調製することに由来する安定感からは遠ざかることになるが、原子効率の弱みはなくなる。本報告はシリルトリフレートを触媒とし、単純アミドを求核種とした直接的マンニッヒ型反応に関するものだ。

シリルエノールエーテルを用いたアルドール反応やマンニッヒ型反応では反応後には、酸素-ケイ素結合、あるいは窒素-ケイ素結合が形成されるため、触媒量のケイ素にて反応を進行させるにはこういったヘテロ原子-ケイ素結合を切断する必要がある。著者らは恐らくより切断が容易と考えられる窒素-ケイ素結合に注目し、マンニッヒ型反応にて検討を開始することとしたのだろう。アセトフェノンを基質として、触媒量のシリルトリフレートとピリジンを用いてイミン窒素上の活性化基を検討した所、Ts基を用いると触媒回転が起きることがわかった。さらに塩基をトリエチルアミンへと変更し、α位の酸性度が低いアミドを基質とした所、反応が進行し良好な収率でマンニッヒ体を得た。エステルやチオエステルでは反応が進行しないことから、α位の酸性度とカルボニル酸素のルイス塩基性のバランスが重要であることがわかる。最終的には嵩高いTIPSOTfを触媒として5 mol%用いるだけでTsイミンへの付加が定量的に進行した。


基質一般性を検討した所、種々の芳香族イミン、脂肪族イミンへの付加が定量的に進行した。アミドをラクタムへとしたところ、反応性の低下が見られたが共触媒としてCuOTfを添加すると高い収率、ジアステレオ選択性で目的物が得られた。さらに初期的な段階ではあるが、CuOTfにキラルリン配位子を組み合わせることで中程度の不斉誘起も実現している。

本論文の肝は、アミドのケイ素エノラートを経て反応が進行していることであり、著者らもそのことを示すべく様々な実験系を試みている。しかしNMRなどによる直接の観測には至っておらず、反応条件では窒素原子からの押し出しによるイミノエーテル塩を単離するだけである。著者らは、1) 別途調製したアミドエノラートでは反応が進行するが、低ジアステレオ選択性であること、2) イミノエーテル塩では反応が進行しないが、塩基を加えると高ジアステレオ選択的に反応が進行すること、などの実験結果から系中では低濃度のアミドエノラートが生成し、非環状型の遷移状態を経て反応が進行していると主張している。

アミドのエノラートは安定性が低いことが多く、通常C-エノラートとO-エノラートの混合物であると言われていることから、反応機構解析には相当の時間をかけていることが推察されるが、最終的にはかなり説得力のあるデータを提示しているあたり、さすがである。不斉収率の向上にあたってはスルホニル基を調整するのが最短だろうが、キラルケイ素エノラートができたらおもしろそうだ。

2010/12/18

Stereospecific Nickel-Catalyzed Cross-Coupling Reactions of Alkyl Ethers

Buck L. H. Taylor, Elizabeth C. Swift, Joshua D. Waetzig, and Elizabeth R. Jarvo*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja108547u

ベンジル位やカルボニルα位のような活性炭素-ヘテロ原子結合への遷移金属触媒を用いたカップリング反応は、近年G.C.Fuなどがニッケル触媒を用いた触媒的不斉反応を精力的に報告している。Fuらの報告ではラセミの基質からラジカル型の反応機構により進行すると考えられており、原料の立体配置情報は生成物へと転写されない。本報告では、キラルなベンジルエーテルを基質としたニッケル触媒による熊田-玉尾型のカップリングで、立体反転を伴ってグリニャール由来のアルキル基を導入している。

まずラセミのベンジルエーテルを基質として、二座型のリン配位子を中心に検討を行ったところ、rac-BINAPの利用が最適で、基質によってはDPEphosやXantphosの方がよい結果を与えた。本反応では、ベンジル位への挿入の後に競合するβ脱離が最大の副反応となるが、その副生成物を添加剤として添加すると反応が抑制されることがわかった。特にスチレンを20mol%添加した際には2割弱の変換率にとどまっており、触媒へと作用することで反応を阻害していることが示唆される。


見出した条件をもとに、種々のキラルαーエチルベンジルエーテルについて、メチルグリニャール試薬によるメチル化を行っている。反応は完全な立体反転を伴い、良好な収率で、不斉収率を損なうことなく目的物が得られている。エーテル部位としてはメチルエーテルのみならず、ベンジルエーテルも許容されるようだ。また著者らは本反応をジアリールメチルメチルエーテルを基質として、キラルジアリールエタン合成へと適応しており、いくつかの生理活性物質合成を行っている。後者の型の基質ではβ脱離が起こりえないが、収率の面では前者のアルキル置換の基質と同程度である。

本文中でも述べられているが、キラル2級アルコールの合成法はケトンの不斉還元をはじめとした種々の方法論が確立されており、それを原料とできる点は本方法論の強みといえるだろう。一方で論文中ではグリニャール試薬はメチル基のみが用いられており、複雑な分子の構築には不安が残る。またグリニャール試薬を2等量用いる点も弱みの一つであり、これが反応機構からして2等量必須なのか否かを含めた続報での議論が求められるだろう。

参考)
ナフトール塩を用いたクロスカップリング反応

2010/12/08

Facile Dearomatization of Nitrobenzene Derivatives and Other Nitroarenes

Dr. Sunyoung Lee, Dr. Isabelle Chataigner, Prof. Serge R. Piettre
Angew. Chemie Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201005779

その安定性ゆえに芳香族化合物の芳香族性を崩すような反応を行うには、金属触媒などによる活性化を必要とする場合が多い。本報告ではアゾメチンイリドと芳香族二重結合との[3+2]環化反応を金属触媒なしに進行させている。電子不足オレフィンとしてニトロ基で置換された芳香族を用いているのがポイントである。

前述のようにニトロベンゼンを電子不足2π系に用いることにし、反応性が高いと考えられる不安定型のアゾメチンイリドを4π系として反応を試みた。しかしイリドの二量化が見られるのみで望みの環化体は得られなかった。そこでさらなる反応性向上を期待してm-ジニトロベンゼンを2π系として用いている反応を行った。するとイリド2分子とジニトロベンゼンが反応した生成物がよい収率で得られた。この結果から最初の芳香族性を崩す反応には2つのニトロ基による強力な活性化が必要であるが、2回目の反応は速やかに進行したことがわかる。


続いてニトロ基ともう1つ別の電子吸引基を有する基質で反応を行ったところ、エステルのような電子吸引基でも反応が進行することがわかった。さらに1-ニトロナフタレンでも反応は進行し、2-ニトロチオフェンのようなヘテロ芳香族でも生成物を得た。後者の場合には1分子のイリドが付加したのみの生成物が得られている。1-ニトロナフタレンが反応することから、反応にあたってはニトロベンゼンよりも少しだけ反応性が高いだけでよいことが想定される。イリド生成に用いているTFAの役割であるが、ニトロベンゼンが強酸中でも安定であることから、当初の想定通りにイリド生成にのみ作用しているとして、著者らは協奏的、あるいは段階的な機構を提唱している。

ジニトロベンゼンでは使い勝手が悪いだろうが、1-トシルピロールやキノリンNーオキシドなどの複素環を用いた例は、比較的小さい分子中に複数の窒素原子が適度な距離に配置されることになり、おもしろい骨格に感じられる。