2010/11/22

Kinetic Resolution of Homoaldols via Catalytic Asymmetric Transacetalization

Ilija ori†, Steffen Mller†, and Benjamin List*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja108642s

4級炭素や4置換炭素の構築の立体選択的な構築法の開発は、現代有機化学の課題の一つである。ケトンやケトイミンへの触媒的不斉付加反応は徐々に報告されてきているものの、一つ増炭したホモアルドール体に関しては効率的合成法に乏しい。NHC触媒を用いた反応が最も直接的な合成方法になりえると考えられるが、こちらは未だケトンへの付加は達成されていない。本報告では新規に設計したキラルリン酸触媒を用いて、分子内にアセタール部位を有するrac-ホモアルドールの速度論分割によりキラルホモアルドール体を得るというものだ。アルデヒド由来の生成物だけでなく、ほとんど例のないケトン由来のホモアルドールも得られることがポイントだ。

以前にも紹介したように、Listらはキラルリン酸触媒を用いたトランスアセタール化を報告している。以前の反応に関しては、せっかくキラル化合物を合成しても生成物の有用性が見えにくいとコメントしたが、本報告ではこの反応の基質をホモアルドールへと拡張していることから有用な反応になりうる。ベンズアルデヒド由来のホモアルドールを用いてテトラヒドロフラン環合成を検討したものの、既存のリン酸触媒では十分な選択性では速度論分割が進行しなかった。そこでスピロ構造を有するキラルリン酸触媒を新たに設計し、反応を試みた所生成物の不斉収率が向上した。そこでこの触媒を用いて条件の最適化をおこない、環化体93%ee、未反応体98%eeとどちらも高いeeで速度論分割が進行した。


まずはアルデヒド由来の基質で一般性を検討した所、芳香族置換基のみならずtert-ブチル基のような立体的に嵩高い置換基、さらにはn-ペンチル基のような直鎖型アルキル基でも高い選択性で分割が進行していることは特筆すべき点だろう。リンカー部分に関しては-CH2-CH2-以外にもオレフィンや芳香環などでも環化体のeeがやや低下するものの未反応体に関しては高いeeで得られるようだ。ケトン由来の基質に関してはアリールアルキルケトン類のみならず、こちらもtert-ブチルメチルケトンのようなアルキルアルキルケトン由来のものでも高い選択性で分割が進行している。得られた環化体は条件によりテトラヒドロフラン、開環体、ラクトンなどに変換可能だ。未反応の鎖状体に関しても各種変換が考えられるが、著者らは例としてラクトンへの変換を示している。

速度論分割は半分を捨てることになるので、原料や触媒などの入手性が高い場合などを除くと必ずしも有用な反応ではないが、既存の方法論では合成しにくい骨格が得られるというのは魅力的だろう。特にこのような不斉反応ではアリール置換基が不斉誘起に重要な役割を果たしていることが多く、本反応のようにアルキル置換基でも選択性が低下しない例は珍しいように感じる。不斉還元では原理的に直接的な構築が不可能な4置換炭素構築も、ここ数年で随分と身近になってきた。まだまだ実用性には乏しいものがほとんどであるが、こういった報告例の積み重ねが研究の進展には重要なのだろう。

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