Paula lvarez-Bercedo and Ruben Martin*
J. Am. Chem. Soc., DOI: 10.1021/ja106943q
アルキルハライドへの酸化的付加を経て進行するクロスカップリング反応と比べて、DirectArylationでは望みのC-H結合をどのように反応させるかが課題となる。そのため、現状では多くの反応例でペンタフルオロベンゼンのように反応点を1つに絞った基質や1,4-ジメチルベンゼンのように対称性をもつ基質を用いている。反応点を制御する他の方法論として、アルコキシ基やアミド基への配向性を利用して、オルト位選択的に反応させる方法論がある。後者の方法では、位置選択性は望み通りに進行することが多いが、目的物に配向基が不要な場合には問題となる。そこで反応後に除去可能な配向基の利用という研究の流れがあり、すでにカルボン酸などで実現されている。本報告はメトキシ基を除去する反応に関するもので、これによりオルト位の官能基化と続くメトキシ基の除去という流れが可能となる。
著者らはテトラメチルジシロキサン(TMDSO)を還元剤、PCy3を配位子としてニッケル触媒を用いると、ナフチルメチルエーテルの脱メトキシ化が進行することを見いだした。種々の基質に対して検討を行ったところ、傾向としては、1) ナフチルと比べてアニソール型の基質は反応性が低い、2) オルト位にピリジンやオキサゾールなど配向基がある場合の方が反応性が高い、3) 基質によってはベンジルメチルエーテル型も除去可能、4) EtO/MsO/TsO/PivOなどは反応性が劣る、といったものがあげられる。特に上記2)の特性は、chemoselectivityを出す上で有用だろう。著者らは本手法をキニンやエストラジオール誘導体へと適応しており、複雑な構造を有する分子にも適応可能なようだ。
対照実験から生成物に組み込まれる水素原子は還元剤由来であることを確認しており、反応機構としてはニッケルのC-O結合への挿入、Si-Hとのσ結合メタセシス、還元的脱離というものを提唱している。本反応のポイントはやはりケイ素系還元剤を用いたことで、強いケイ素-酸素結合の形成という駆動力を得られる点だろう。また律速段階はニッケルによる挿入段階であると思われる。
先に述べたようにインドールなどのように反応点が予測しやすい場合を除くと、DirectArylationではその性質ゆえに位置選択性の問題がつきまとうことになる。そういう面ではこういった研究の積重ねが実用的反応への歩みを進めることになると考えられる。
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この記事の話題からは逸れるのですが、芳香族カルボン酸基の選択的除去って実現されているんですか?ちょっと調べたのですが、わかりませんでした。
返信削除私はcopper/Quinoline系の反応しか知らないので、もしよかったらその論文かなにかを教えてください。
上の記述は「除去可能なdirecting groupとしてのカルボン酸」ということで、カップリング後にCu/Quinolineで脱炭酸しているJACS, 129, 9879(2007)のような論文を頭に置いて書きました。
返信削除その他、もう少しマイルドな条件に関しては、探せばあるのかもしれませんがすぐには思いつきません。申し訳ありません。
あ、そうだったんですね。この反応の収率が悪くて悩んでいたので質問しました。
返信削除わざわざありがとうございました。
芳香族カルボン酸基の選択的除去の他の例としてKozlowskiらによるPd触媒のものもあります。(Org. Lett., 2007, 9 (13), pp2441–2444.)
返信削除copper/Quinoline系よりも低温で行くようです。通りすがり失礼しました。
>TOMOさん
返信削除論文情報ありがとうございます。
こういう反応の蓄積が日常の実験では大事なので頭にいれておきます。